森口将之のカーデザイン解体新書 第63回 ガンディーニの魅力とは? 歴史的名車の数々で振り返る

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2024年05月21日 11:41  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ランボルギーニ「カウンタック」やランチア「ストラトス」など、スーパーカーのデザイナーとして私たちに夢を与えてくれたイタリアのカーデザイナー、マルチェロ・ガンディーニが2024年3月に亡くなった。セダンやハッチバックなども手掛けたガンディーニの多才ぶりと魅力を代表作とともに振り返ってみよう。


ミウラで鮮烈な印象を残す



マルチェロ・ガンディーニは1938年にイタリアのトリノで生まれた。オーケストラの指揮者だった父親は息子をピアニストにしたかったらしいが、彼は工業デザインに興味を持ち、音楽学校を卒業するとフリーのデザイナーとして活動を始めた。



自動車業界に入ったのは1965年のこと。当時のイタリアでピニンファリーナと並ぶ名門カロッツェリア(車体架装工房)だったベルトーネに入社し、チーフデザイナーに就任した。



ベルトーネで彼の前にチーフデザイナーを務めていたのは、あのジョルジェット・ジウジアーロだった。ジウジアーロが同じイタリアのカロッツェリアであるギアに移籍したために、チーフを任されることになったようだ。



彼が最初に手がけたのが、ランボルギーニ初のミッドシップエンジンのスポーツカーである「ミウラ」(1966年発表)だった。インパクトのある車種のデザインを担当したことで、ガンディーニの名前は一躍、自動車業界に知れ渡った。


カウンタックとアルファロメオに共通点?



続いて担当したのはアルファロメオのコンセプトカーだ。カナダのモントリオールで開催される万国博覧会に出展するための1台である。こちらも話題になり、後に「モントリオール」という車名で市販に移された。


2台ともヘッドライトのアクションが斬新で、スタイリングは前後のフェンダーラインに豊かな曲面を使っている。フォルムそのものは1960年代のスポーツカーらしいものだった。



その流れを良い意味で断ち切ったのが、1971年にプロトタイプが発表され、3年後に市販されたランボルギーニ「カウンタック」だ。


このデザインには伏線があった。モントリオールに続くアルファロメオのコンセプトカーとして1968年に公開された「カラボ」が、大胆なウェッジシェイプと前端を支点として跳ね上がるシザードアを採用していたのだ。


ただし、カウンタック独自の部分もいくつかあった。たとえばエンジンはカラボが2リッターV型8気筒だったのに対して、カウンタックはミウラと基本的に同じV型12気筒を縦置きしていた。よってエンジンルームが長くなる。これに対応してシートをできる限り前に置き、通常は車体の前に置くラジエーターをエンジンの両サイドに移動させた。



つまり、ミウラと比べるとノーズが短く、キャビンが前寄りにある。そこでフロントバンパーからルーフまでを一直線につなぎ、シザードアとしたと考えられる。多くの人に衝撃を与えた一方で、機能に裏付けられた形でもあったのだ。

ガンディーニが手掛けた歴史的名車5台が共演!



ガンディーニ逝去の一報を受けて、2024年4月の「オートモビルカウンシル2024」(AUTOMOBILE COUNCIL 2024)では、主催者展示としてガンディーニの追悼展「In Memory of Marcello Gandini」が企画された。


ここではミウラとカウンタックに加えて、同じランボルギーニのグランドツーリングカーである「エスパーダ」、フェラーリ初の4人乗りミッドシップスポーツである「ディーノ308GT4」、「WRC」(世界ラリー選手権)で圧倒的な強さを誇ったランチア「ストラトス」の計5台が展示された。


5台を眺めていると、カウンタック、308GT4、ストラトスには共通点があることを発見した。低いノーズからドアの後端までウェッジシェイプが続いた後、リアフェンダーで頂点を迎えて、その後はやや下がり、「コーダトロンカ」と呼ばれる断ち落としたテールで終わるラインだ。



それぞれのブランドやキャラクターにふさわしい差別化を図りつつ、この時代のガンディーニとしての共通項も見出すことができて、価値ある展示だったと思っている。

スポーツカー以外のデザインも得意だった?



このようにスーパーカーのイメージが強いガンディーニであるが、ベルトーネ在籍時代から実用的なセダンやハッチバックも担当していた。その中で、日本でも親しまれた1台がシトロエン「BX」だ。


シトロエンは1970年代にプジョーと合併したのを機に、デザイン体制を一新。ここで白羽の矢が立ったのがベルトーネだった。



BXは直線基調のフォルムを特徴とした。それまでのシトロエンの曲線を多用したエレガントなラインとは対照的だったことから、当初は賛否両論が巻き起こった。しかし、フロントオーバーハングが長くリアが短いファストバックのプロポーションは共通しており、大きすぎないボディや明るくて使いやすいキャビンが評価された。



日本でいちばん有名なガンディーニ・デザインはカウンタックかもしれないが、もっとも多くの日本人が触れたガンディーニ・デザインはBXになるかもしれない。



ガンディーニがベルトーネを去ったのは1979年のこと。その後の5年間は、ルノーのデザインコンサルタントを務めた。WRC参戦マシンとして開発されたミッドシップの「5(サンク)ターボ」をベルトーネが担当したことが契機かもしれない。2代目「5」(シュペールサンク)のエクステリア、アルピーヌ「V6 GT/V6ターボ」のインテリアのほか、大型トラック「マグナム」も担当した。


その後は完全なフリーランスとなり、カウンタックの後継車であるランボルギーニ「ディアブロ」、マセラティの4代目「クアトロポルテ」などを手がけた。


個人的にガンディーニがすごいと思うのは、カウンタックやBXなどに顕著だが、そのブランドの過去の車種とはまるで違うデザインを与えながら、結果的にはランボルギーニらしい、シトロエンらしいと思わせてしまうところだ。そのブランドの核心をしっかり理解していたのだろう。



しかも、カウンタックで採用した斜めに切れ上がるリアフェンダーのオープニングは、その後、マセラティのクアトロポルテなどいくつかの車種に採用しており、「ガンディーニルック」と言われるほどだった。



いつの時代も挑戦と主張にあふれたカーデザインで、クルマ好きを驚かせ、楽しませてきてくれたガンディーニに、この場を借りてお礼を申し上げたい。



森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら(森口将之)

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