社会インフラを支えるITエンジニア。業務が特殊過ぎて「つぶしが利かないのでは?」と不安です

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2024年05月24日 07:31  @IT

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 先日、通信業界で人事の仕事をしているAさんと話す機会がありました。


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 Aさんは通信インフラを支える会社で働いています。通信環境を整備するために、これまで多くのエンジニアを採用してきたそうです。


 しかし、Aさんは「通信は業界としては成熟してきた。近い将来、多くの技術者が余るのではないか?」と言います。そこで、会社では従業員のリスキリングや、地域で活躍できるよう複業を推進しようとしているそうです。


 ただ、これまでの業務が通信業界に特化した「特殊な技術」であるため他に転用しづらく、「従業員をどのように生かしたらいいのかが課題」なのだそうです。


 Aさんの話を伺って、「特殊な仕事をしていると、確かに“つぶしが利かない”ことがあるかもなぁ」と思いました。


 本稿をお読みの方の中には、インフラ系のエンジニアも多いでしょう。IT業界で「インフラ系」とは、ネットワークやサーバ、データベース、通信設備のような、ITを裏側で支える仕事です。少し視点を広げると、電気、ガス、水道、鉄道、建築、土木など「社会を支えるインフラ」もあります。


 鉄道会社に勤める30代の知人Bさんからは、以前、次のような悩みを聞きました。


 「私が持っている鉄道に関する知識や経験は、社内ではなくてはならないものです。ですが、一歩社外に出ると一切通用しません。だから、将来を考えると不安です。『何かしなくちゃいけないな』と焦っています」


 鉄道という特殊な仕事だけに、「いまのままで大丈夫なのだろうか?」「つぶしが利かないのでは?」と、未来のキャリアに悩んでいるようでした。


●いかに、社会の変化に適応させていくか?


 これまでの「新卒で会社に入社して、定年まで働く」だった時代には、それがどんなに特殊な仕事でも、生涯同じ会社に所属していれば、さほど問題にはなりませんでした。


 しかし現代は不確実性が高く、未来の予想が困難な社会です。また、人生100年時代といわれ、いままでより長く働く必要がありそうです。そういった状況の中で「これからの未来、どのように働くか?」は、今後、多くのエンジニアが直面する問いです。


 そんな問題もあって、ここ数年は「リスキリングしよう」などといわれるケースが増えているようです。しかし、資格をやみくもに取ったからといって、メシが食えるかどうかは別問題です。


 「何となく不安。でも、どうすればいいか分からない」という状況が、多くのインフラ系エンジニアの実態ではないでしょうか。


●「特殊な技術を持つエンジニア」こそ「社会との接点」が必要なのでは?


 長いエンジニア人生を考えたとき、社内だけに通じる「特殊な技術」だけでは、未来を作っていくことが難しそう……。キャリアに対する安心感を得るためには、実際に転職するか否かは別として、社内だけではなく、社外でも通用できる「社会との接点」が必要になりそうです。


 そこでまず、「特殊な技術を持つエンジニア」の抽象度を上げて、一般に通用しそうな「エンジニアの特徴」を考えてみます。例えば、「課題を見つけ」「解決策を論理的に考え」「実際にやってみる」はエンジニアの特徴です。


 このように抽象度を上げてみると、これまでの経験を社外でも生かせそうです。では具体的に、どのような形で「社会との接点」を作っていけばいいのでしょうか?


●「社会との接点」を作るための具体案


 1つのアイデアとして「ノーコードツールを覚える」が浮かびました。


 ノーコードツールとは、簡単な操作で業務改善に必要なアプリケーションやシステムを開発できるツールです。業務に合わせてイチから作ることもできますし、ツールで提供されているテンプレートを当てはめることもできます。


 例えば、僕が複業しているサイボウズの「kintone」は、簡単なマウスとキーボードの操作で、業務改善に必要なアプリケーションを素早く開発できるツールです。他にもいろいろな会社からノーコードツールが販売されています。


 ノーコードツールを使いこなす上で、高度なプログラミング言語(コード)を覚える必要はありません。それよりも大切なのは、エンジニアが持つ「課題を見つけ」「解決策を論理的に考え」「実際にやってみる」といった、業務を改善する能力です。


 エンジニアがノーコードツールを使えるようになると、これまでの経験を業務改善に生かすことができます。業務改善はあらゆる企業に必要な「社会との接点」です。


 こういった接点が自分にもあることを自覚できると、「うちの会社の業務は特殊なので、外ではつぶしが利きません」といった将来に対する不安を過度に抱かなくてもよくなるかもしれません。


●人口減少が進む中、エンジニアには長く活躍してほしい


 僕は、「エンジニアには、長く活躍してほしい」と願っています。


 というのも、いま日本の人口は予想を上回るスピードで減少しています。2023年の日本の人口減少は84万人でした。これは、山梨県の人口に匹敵する数字です。つまり、「毎年1つの県がなくなる勢いで、人口が減少している」わけです。


 このまま人口減少が進んでいくと、近い将来、人材不足や労働力が供給できなくなる恐れがあります。というより、業界によっては既に始まっていますよね。


 この状況で必要になるのは、徹底的な業務改善やムダ改革(いわゆる、DX=デジタルトランスフォーメーション)です。人口減少が進む日本社会を救うのは、エンジニアの力なのではないかと、僕は真面目に思っています。


●インフラ系企業の経営者、人事の皆さんへ


 最後に、インフラ系企業の経営者、人事の皆さんへ。


 皆さんの会社の業務は、社会を支えるとても大切な仕事です。これまで、他の業界には類をみない特殊な技術を持った従業員たちが、快適な社会を作り、守ってくださいました。本当にありがとうございます。


 しかし、皆さんの会社の業務が特殊な技術であるが故に、従業員たちが「私の技術は、社外に通用するのだろうか?」「つぶしが利くだろうか?」と、将来に不安を感じている状況ではないでしょうか。


 「定年退職まで1社で働く」というこれまでのロールモデルがいまも通用するなら、それでもよかったのでしょう。従業員にとっても、「自社でこそ生かせる技術」が退職まで会社で働く十分な理由でもありました。


 しかし、先行きが見通しにくい時代のいま、多くのエンジニアが「私はエンジニアとして、これからも働けるだろうか?」と、未来のキャリアに対して不安を抱いています。


 リクルートワークス研究所の古屋星斗さんは、記事『職場の「キャリア安全性」を考える』の中で、次のように指摘しています。


・所属する職場が与えてくれる安全性として「心理的安全性」と同時に「キャリア安全性」が、現代日本の若手社員の活躍において重要な役割を果たしている可能性がある


・キャリア安全性の低さによる“不安”も離職を誘発する十分過ぎるほどの効果がある


 つまり、「未来のキャリアが不安だと、離職してしまう」のです。


 人口減少社会となり、人材不足が顕著になりつつあるいま、人材確保は大きな課題です。従業員たちが離職せずに長く働いてくれることは、会社にとって大きなメリットではありませんか?


 一方で、従業員たちが会社に対してマインド的にも金銭的にも依存し続けることは、会社にとって負担となる場合もあります。従業員たちが自律し、社会との接点を作りながら長く活躍できるようになること。それは、従業員本人にとっても、会社にとっても大切なことだと思います。


 そのためにも、従業員たちの「これなら、社内社外にかかわらず、将来もやっていけそうだな」と思えるようなキャリア安全性を高めていくことが、大切なのではないかと思います。


●筆者プロフィール


しごとのみらい理事長 竹内義晴


「仕事」の中で起こる問題を、コミュニケーションとコミュニティーの力で解決するコミュニケーショントレーナー。企業研修や、コミュニケーション心理学のトレーニングを行う他、ビジネスパーソンのコーチング、カウンセリングに従事している。著書「Z世代・さとり世代の上司になったら読む本 引っ張ってもついてこない時代の「個性」に寄り添うマネジメント(翔泳社)」「感情スイッチを切りかえれば、すべての仕事がうまくいく。(すばる舎)」「うまく伝わらない人のためのコミュニケーション改善マニュアル(秀和システム)」「職場がツライを変える会話のチカラ(こう書房)」「イラッとしたときのあたまとこころの整理術(ベストブック)」「『じぶん設計図』で人生を思いのままにデザインする。(秀和システム)」など。


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