取引先ごとに“バーチャル口座”を用意──請求書管理「Bill One」が、銀行サービスを始めるワケ

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2024年06月17日 06:30  ITmedia ビジネスオンライン

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Sansan CEOの寺田親弘氏(左)とBill One事業部 事業部長の大西勝也氏

 Sansanは5月21日に、請求書管理サービス「Bill One」の大型アップデートを発表した。これまでの請求書受領サービスに加え、請求書発行サービスと経費精算サービスをBill Oneブランドで展開する。


【画像で見る】「Bill One」のサービス概要(計4枚)


 あわせて銀行代理業のライセンスを取得し、住信SBIネット銀行のBaaSプラットフォーム「NEOBANK」を活用した「Bill One Bank」を法人顧客向けに提供を開始する。Bill One Bankとは何か? なぜSansanが銀行サービスを提供するのだろうか?


●取引先ごとにバーチャル口座を用意して入金消込を行う、Bill One発行


 請求書発行サービス「Bill One発行」は単に請求書を発行できるだけのサービスではない。「7割の経理担当者が課題を感じている」(Bill One事業部 事業部長の大西勝也氏)という入金消込を解決する点が特徴だ。


 請求書発行は、請求書を作成して送付すれば終わりではない。請求書を受け取った取引先は、銀行振込によって支払いを行うが、その入金額と請求書を突き合わせて、どの入金がどの請求に対するものかをチェックしなくてはならない。これが入金消込だ。


 ところが請求先名と振込口座名義人が異なっていたり、複数の請求が合算されて入金されていたり、振込手数料を差し引いて入金されていて金額が異なっていたりと、入金消込は経理の業務の中でも職人芸と言われるほど難易度の高いものだ。


 Bill One発行では、Bill One Bankを活用することで、この入金消込をほぼ自動化した。具体的には、Bill One発行を利用する企業は、取引先1社ごとに個別のバーチャル口座を開設し、そこに振り込んでもらう形だ。請求書を発行する際に、取引先ごとに異なる口座番号を記載することで、どこからの入金なのかをシステム側で完全に把握できる。


 「入金があると、自動で請求書とひも付けて金額が合っているか差額があるかを表示する。合算の入金にも対応できる。今後は仕訳も作成できるようにしていきたい」(大西氏)


 これにより「入金消込までのほとんどの業務を自動化できる」(Sansanの寺田親弘CEO)ようになるわけだ。


●住信SBIネット銀行、初の法人向けBaaS


 実は、入金消込の自動化のために、銀行のバーチャル口座を利用するのはよく使われる手法だ。多くの銀行が、消込自動化をうたい同様のサービスを提供している。しかし、バーチャル口座を提供するのはあくまで銀行だ。


 今回のBill One発行では、Sansanがまるで自社で銀行サービスを提供しているかのように、システムから顧客にバーチャル口座を割り当てられるところが画期的だ。


 これを実現するのが、住信SBIネット銀行のBaaSプラットフォーム「NEOBANK」だ。NEOBANKは、APIを介して銀行システムの機能を法人パートナーに提供するサービス。パートナー企業は、NEOBANKのAPIを活用して、自社ブランドの銀行サービスを立ち上げることができる。


 複数のネット銀行がBaaSサービスの提供を始めているが、住信SBIネット銀行は提供企業数でトップを走り、BaaS口座数は158万口座に達している。大西氏は住信SBIネット銀行を選択した理由として「実現したかったことと、実現までのスピードを考えると、ベストだった」と話す。今回の入金用法人バーチャル口座も、Bill One発行のために住信SBIネット銀行が新たにAPIとして開発した機能だという。


 住信SBIネット銀行にとっても、法人向けBaaSは新たな取り組みだ。同行はこれまで、個人向け口座のBaaS領域に注力してきた。しかし「次の成長領域は法人分野だ」(住信SBIネット銀執行役員 兼 BaaS事業本部本部長の前田洋海氏)と判断。法人向けBaaSのマーケットに参入することを決めた。


 「法人取引は個人向けと比べて収益性が高い。また、大企業の取引先に対して、大企業のブランドを冠した銀行サービスを提供することで、取引先にもメリットのある優遇サービスも実現できる可能性がある」(前田氏)


 SansanにとってBill One Bankはあくまで入金消込の手段の一つでしかない。「銀行機能を提供することを主眼に置いたというより、消込がソリューションとして成り立つ方法を考えた」と寺田氏は言う。


 一方で住信SBIネット銀行にとっては、注力領域の一つである法人口座獲得に資する取り組みだ。「入金消込を使ってもらえば、決済データを使ったトランザクションレンディングなど、いろいろな付帯取引につながっていく。結果的に、メインバンクとして食い込むきっかけの一つにしたい」(前田氏)


 住信SBIネット銀行は、SansanのようなSaaS企業だけでなく、インフラ企業などさまざまな業界の企業とのパートナーシップを想定している。すでに別の法人向けBaaSのプロジェクトが動き始めており、この分野のトップランナーとして、新たな市場の開拓を進める考えだ。


●Bill Oneビジネスカードを活用し「立替経費をなくす」Bill One経費


 請求書発行サービスに加えて、法人向けクレジットカード「Bill Oneビジネスカード」を全社員に配布することを前提とした経費精算サービス「Bill One経費」も提供する。


 Bill One経費は、Bill Oneビジネスカードの利用明細データと、経費申請時に添付された領収書画像を自動でマッチングし、立替経費そのものをなくそうというサービスだ。カードを利用すると、領収書などの証憑をアップロードするよう通知が飛び、利用者はその場でレシートを撮影すれば処理が完了する。


 「Bill Oneビジネスカードを利用すれば、紙の領収書を保存する必要がなくなり、わざわざ経費申請のために領収書をまとめる作業も不要になる。また、経理担当者は領収書の内容を確認する作業が大幅に削減できる」(大西氏)


 基本はカード利用だが、現金による支払いにも対応。さらに将来的には、交通系ICカードとの連携により、交通費の経費精算も自動化する予定だ。


●Bill Oneプロダクトラインアップ充実でARPU向上へ


 急成長を続けるBill Oneだが、大企業シフトによる顧客単価(ARPU)の上昇には頭打ち感が出始めている。この課題を克服し、さらなる成長を実現するためには、プロダクトラインアップの拡充が鍵となる。


 今回発表された請求書発行サービス「Bill One発行」と、経費精算サービス「Bill One経費」は、まさにこの戦略に沿ったものだ。請求書の受領から発行、経費精算まで、経理業務のペインを解決することで、Bill Oneの提供価値を大きく高めるのが狙いだ。


 これにより、既存のBill One利用企業に対して、追加サービスの利用を提案するクロスセルが可能になる。請求書の受領と発行を一気通貫で行えば業務効率は大きく向上するし、経費精算の自動化は経理担当者の負担を大幅に軽減できる。こうしたメリットを訴求することで、顧客単価の引き上げにつなげていく考えだ。


 請求書受領ではエンタープライズを中心に確固たるポジションを築いたBill One。しかし、請求書発行や経費精算は、さまざまな競合がひしめく領域だ。しかもBill Oneの3つのプロダクトは、同時に導入することの機能的なシナジーは特にない。「月次決算の加速」に向けて無駄な業務を自動化するという、Bill Oneプロダクトに共通するビジョンを、どこまで顧客は評価するか。それが新プロダクト成功の鍵になりそうだ。


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