漫画・アニメ、国宝・重要文化財に指定されるのか? 文化財保護の取り組みから考える

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2024年06月18日 08:00  リアルサウンド

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photo/Kelly Sikkema(Unsplash)
■漫画やアニメから国宝・重要文化財を

  政府は日本の漫画の原画やアニメのセル画などを収集・保存、そして展示を行う「メディア芸術ナショナルセンター」(仮称)を2028年度までに整備する方針を固めたという。


  2000年代に、日本漫画家協会理事長を務める里中満智子氏らが推進した「国立メディア芸術総合センター」が頓挫したことを考えると、ようやく日本国内でも漫画やアニメを本気で評価する動きが出てきたと思うし、まずは歓迎したい。


  主にアニメーターでつくる一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)のように、アニメーターの技能向上や技術継承に取り組む団体が生まれつつある。国にはこうした団体のバックアップをぜひとも求めたい。現在進行形で仕事をしている人材の支援と、原画やセル画といった過去の文化財を残す取り組みは、並行して行われる必要がある。


  文化財保護の取り組みは、具体的にどのようなことを進めればいいのだろうか。まず、「メディア芸術ナショナルセンター」の整備を機に、漫画やアニメの資料の散逸を防ぐため、この分野からも重要文化財を出して積極的に保存を図るべきである。


  戦前に撮影された『紅葉狩』『史劇 楠公訣別』など、映画のフィルムは重要文化財に指定されつつある。漫画やアニメは未だに指定が行われていないが、日本文化を語るうえで欠かすことができない存在であることは間違いないし、指定されるにふさわしい文化財であろう。対象とすべきものとして、具体的に、以下のようなものが考えられる。


・歴史的に重要な漫画の初版本
・手塚治虫など、歴史的に重要な漫画家の原画
・アニメの黎明期に描かれたセル画、原画、動画


 重要度の高い作品を有識者による協議を経て、文化財として評価すべきである(そのためには専門の学芸員の育成が欠かせない)。また、漫画家の遺族やアニメスタジオなどが所蔵する資料、有名なコレクターが所蔵するコレクションを調査し、将来の文化財指定に備えてリスト化しておくことも散逸を防ぐ上で大切だ。


■アニメーターから“現代の名工”を

 厚生労働省は、1967年から技能者の地位と技能水準の向上を図るために、卓越した技能者(現代の名工)を表彰する制度を設けている。選定される基準は以下のとおりである。


(1)きわめてすぐれた技能を有する者
(2)現に表彰に係る技能を要する職業に従事している者
(3)技能を通じて労働者の福祉の増進及び産業の発展に寄与した者
(4)他の技能者の模範と認められる者


  現代の名工は人形師、時計職人、寿司職人、バーテンダーなど様々な分野から選ばれているが、アニメ分野からの表彰は1件もない。だが、アニメは高度な職人技によって支えられており、世界に誇る文化を創造する職人であり、選出されるべき職業だ。


  アニメーターの仕事は、生成AIで代替できると言っている人がいるようだ。しかし、実際の現場を見てみると、一朝一夕にできる仕事ではないことがわかる。現代の名工の精度を通じ、極めて高度な職人技の世界であることを認知してもらうことが必要である。


  傑出した能力をもつアニメーターが選出されることで、アニメーターという職業の地位向上にも繋がっていくだろう。また、選出されたアニメーターを若手が目標とすることもできるのではないか。


  繰り返すようであるが、日本の漫画やアニメに対する関心、評価は海外のほうが高いと感じる。50年、100年後、貴重な漫画やアニメの資料を文化財として残し、伝えていくためには、今が正念場といえる。目先の利益を求めるのではなく、将来を見据えて、ここに挙げた取り組みを進めていくべきではないだろうか。


  これまでの日本美術史を俯瞰してみると、海外に評価されてから慌てて日本国内で文化財として評価する例が多すぎる。まずは日本人が漫画やアニメを、自国の文化として正当に評価することが求められる。


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