装苑賞は、日本初のファッションデザイナーの新人賞として1956年に設立。公開審査会では2次審査を通過した16組が、それぞれのコンセプトを掲げた作品各3体をショー形式で披露した。今年の審査員は、熊切秀典、コシノジュンコ、坂部三樹郎、田中文江、廣川玉枝、三原康裕、宮前義之、森永邦彦の8人が担当。なお、三原は都合により欠席した。
大賞の装苑賞を受賞した岩野は、1999年鹿児島県生まれ。県立広島大学人間文化学部国際学科を卒業後、2022年に大阪文化服装学院ファッション・クリエイター学科に入学。現在は同学科の第3学年に在学している。
岩野が発表した作品は、「19世紀のイギリスの女性たちが、自転車に乗ることで当時の閉鎖的な状況から抜け出し、自由と解放感を手に入れた」というエピソードから着想。「ここではないどこかへ(Somewhere not here)」をテーマに、望む場所や未来へ向かおうとする人々のためのコレクションを制作した。素材には、安全な空間を確保するために貼られる「バリケードテープ」と廃棄された自転車のチューブを用い、それらを編み込むことで、自らを囲むさまざまな枠組みとその状況から抜け出すための力強さを表現したという。
佳作1位の吉川明良は、ドラッグの使用によって人が倒れている姿が映ったSNS動画から着想を得た作品を発表。ドラッグによる「幻覚」をテーマに、素材や色の明度や彩度が異なるカラフルな毛糸を用いて歪んだ景色を柄に落とし込んだ。2位に輝いた山根紫那は、北海道の農家出身という出自を活かした、トラクターやタイヤなどをモチーフとした作品を披露。カーマットやシートベルトといった自動車の廃材や、実家の畑の土で泥染めした廃棄寸前のデニム素材などを用い、「農業」と「ファッション」の融合を服で表現した。
そのほか、PR01. 特別賞は、雨上がりの蜘蛛の巣の美しさを樹脂素材や魚の骨のような白いフレームで構築した中国出身のモウ・ギンが、NEW ENERGY 特別賞は、3Dスキャンによる点群データを着想源に、テグスに液体ゴムを付けた無数の「粒」の重なりによって身体と服の境界が曖昧に見える服を手掛けた中野詩夏がそれぞれ受賞した。