“新聞離れ”が加速、不動産事業も焼け石に水…ジリ貧の大手新聞社が見習うべき「アメリカの事例」

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2024年06月27日 09:31  日刊SPA!

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 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 日本新聞協会によると、2023年の新聞発行部数は2800万部。ついに3000万部を下回りました。前年比で7.3%の減少。縮小ペースは加速しています。Webニュースにその地位を脅かされているのが主要因ですが、新聞社には重要な役割があり、情報発信拠点の崩壊はニュースの根幹を揺るがすことにもなりかねません。

 大手新聞社が長い年月をかけて築いた情報網を維持するためには、大規模な再編も視野に入ります。

◆23年前と打って変わった状態に

 2000年の発行部数は5300万部でした。1世帯当たり1.13部を発行していたことになり、複数の新聞を持つ世帯の方が多かったことを示しています。2023年は0.49部。2世帯あわせても1部に満たない計算です。

 2023年は創刊から50年の歴史を持つ日経産業新聞が休刊に追い込まれました。北海道新聞、信濃毎日新聞は夕刊を休止しています。発行部数が減っているうえに原材料高が重なり、発行を続けることが難しくなったのです。

 新聞そのものが廃れても、書籍のようにデジタル化が進んでいるようにも思えます。日経電子版のような成功事例もよく知られています。しかし、必ずしも順風満帆というわけではありません。

◆日経電子版でさえも盤石とはいえない

 2023年の日経電子版の加入者は前年比9.8%増の90万人でした。ただし、新聞・電子版購読者数は同6.5%減の231万人。2つのサービスを合わせた加入者数は321万人で、前年比2.4%の減少です。

 2019年まで両サービスを合計すると増加していましたが、2020年に新聞離れが加速すると減少へと転じました。

 日本経済新聞社の2023年12月期の売上高は前期比2.3%増の3665億円と増収。しかし、営業利益は同37.2%減の114億円。4割もの営業減益となりました。

 同社は新聞、雑誌などの販売収入や広告収入が減少したものの、フィナンシャル・タイムズ・グループの売上が伸びて全体では増収となったと説明しています。

 国内は苦戦を強いられており、営業利益が削られている様子が伝わってきます。

◆“経営効率が高い”不動産事業でも、会社全体は支えられない

 よく「新聞社は不動産事業があるから経営は安定している」という声が聞こえてきます。

 不動産事業が安定した収益基盤の一つになっているのは間違いありませんが、会社全体を支えられるほどの事業規模はありません。

 朝日新聞社の2023年3月期の不動産事業のセグメント利益率は19.2%にものぼります。メディア・コンテンツ事業は70億円のセグメント損失を出しました。なお、メディア・コンテンツ事業が利益を出していた2022年3月期の利益率はわずか1.9%。不動産事業の経営効率が高いのは間違いありません。

 しかし、不動産の売上規模は350億円程度であり、利益は66億円程度。この事業規模で売上2000億円を超えるメディア事業を長期にわたってカバーするのは難しいでしょう。

 朝日新聞社は2019年3月期の売上高が3700億円を超えていましたが、2023年3月期には2670億円まで縮小。わずか4年で1000億円が吹き飛びました。

◆Z世代はむしろ新聞の情報を信頼している

 新聞社が、何らかの手を打つ必要があるのは明白です。

 新聞の発行部数の落ち込みは、Webの発達による情報の取得単価の低下にあります。多くのニュースは無料で手に入るようになり、一般家庭では新聞に月数千円の支払いをすることをためらうようになったのです。

 情報の取得単価が下がって新聞社の経営が傾いたのであれば、資本主義の原理として淘汰されるのが自然だと考えるかもしれません。

 しかし、新聞社は世界中に築いたネットワークを武器に、正確性の高い情報を発信しています。社会的な価値が極めて高いのです。自民党の裏金問題で、特ダネを次々と明るみに出したのはやはり新聞社でした。

 新聞通信調査会は世代別にメディアの信頼度を調査しています(「メディアに関する全国世論調査」)。それによると、18歳から40代までで、最も信頼するメディアとして挙がったのが新聞でした。50代以上はNHKテレビと回答しています。

 新聞を購読しているのはシルバー層ですが、意外にも若い世代に信頼されてもいるのです。この調査を見ると、インターネットに慣れ親しんでいる世代ほど、新聞への信頼度が高く、価値ある存在であると認知されていることがわかります。

◆「新聞社主導のポータルサイト」は失敗続き…

 スマートフォンの普及によって、情報の取得元は「Yahoo!ニュース」などのポータルサイトが主体となりました。かつて、新聞社はポータルサイトに脅威を感じ、自ら立ち上げようとした時期がありました。

 2007年には朝日新聞社、日本経済新聞社、読売新聞グループが共同でポータルサイトを立ち上げると発表。2008年1月に「新s(あらたにす)」というサイトを開設しました。しかし、2012年2月にサービスを終了。現在は学生向けのサイトとして細々と運営を継続しています。

 その他、52の新聞社と共同通信の「よんななニュース」などがありますが、新聞社主導のポータルサイトは大手プラットフォーマーの牙城を崩すことができません。

 これから共同で新たサイトを立ち上げ、デジタルの収益性を上げるのは難しいでしょう。

 新聞社がこれから辿る道は大きく2つに分かれると考えられます。1つは大規模な再編。もう1つは緩やかな事業規模の縮小です。

 可能性として高いのは前者でしょう。すでにアメリカで前例があるからです。再編にも2つのパターンがあります。経営統合と大手プラットフォーマーなどによる買収です。

◆将来的には経営統合による効率化が必要に?

 2019年末にニューメディア・インベストメント・グループと新聞大手ガネットが合併。600紙以上を抱える全米最大の新聞社が誕生しました。

 アメリカの新聞発行部数の推移は日本と全く同じ状況で、縮小の一途を辿っていました。

 新聞社が経営統合して拠点の合理化を進めれば、経営効率は上げられます。取材活動が一括で行えるため、人員も軽くすることができるでしょう。

 買収例がワシントン・ポスト。アマゾンのジェフ・ベゾス氏が2億5000万ドルを投じて取得しました。オーナーが変わってからは、広告収入やサブスクリプション収入が劇的に増え、早期立て直しを行ったことで知られています。

 大手ポータルサイトは、ユーザーから情報の信頼性を問題視されることが少なくありません。しかし、プラットフォーマーが自前で記者を育て、情報ネットワークを確立することには消極的でした。

 情報の精度や信頼度を高めるという観点から、プラットフォーマーが新聞社を取得する意味は大いにあります。

 新聞社が緩やかに事業規模を縮小しつつ、業界紙のように特定の読者層に最適化。事業規模を縮小しつつ生き残りの道を見つけることもできるでしょう。しかし、それでは社会的な価値は低下してしまうのです。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

このニュースに関するつぶやき

  • うちの親や周りを見てても新聞の楽しみてチラシに多きを置いてる人がたくさんいる ネットじゃそれがない いずれオイラも新聞配達やめるときがくるね
    • イイネ!3
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