米国生まれの「ヨシノパワー」が“固体電池”のポータブル電源に注力する理由

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2024年06月27日 16:21  ITmedia Mobile

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ヨシノパワー製品で現行最小となる「Yoshino Power B300 SST」

 モバイルバッテリーが市民権を得たと思ったら、家電量販店やホームセンターでは交流100V出力に対応する「ポータブル電源」もよく見かけるようになった。自然災害の多い日本では、突然の停電に備えて会社や家にポータブル電源を用意しておく、というニーズも高まっているという。キャンプによく行く人にも、手軽かつ大容量な電力を持ち運ぶ手段としてポータブル電源を持ち運ぶという話をよく聞く。


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 日本におけるポータブル電源市場には、国内外の企業が次々と参入している。ヨシノパワージャパン(東京都文京区)もその1社で、2023年末に世界初をうたう「固体電池を使ったポータブル電源」を発売した。2611Whで40万円を超える超大容量製品を含めて4製品を一気に投入し、一部のギーク層から注目を集めている。


 固体電池は、現在主流のリチウムイオン/リチウムポリマー電池と比べると耐熱性に優れ長寿命で、安全性も高いというメリットがある反面、出力を上げにくいという課題もある。自動車メーカーは次世代の電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV/PHV)向けのメイン電源として固定電池の量産化開発を進めているものの、現時点では実現していない。


 そんなこともあり、筆者は「え、このポータブル電源は本当に固体電池を使っているのか?」と疑ってしまった。読者の皆さんにも、同様の疑問を持っている人がいるはずだ。


 そこで今回、ヨシノパワージャパンの桜田徹社長にインタビューを実施。ヨシノパワーという会社の成り立ちや、同社のポータブル電源に搭載された“固体電池”がどのようなものなのか、話を聞いた。


●ヨシノパワーのルーツは米国 日本を含む3カ国で研究開発を実施


―― 米国のYoshino Technology(ヨシノパワージャパンの親会社)と、ヨシノパワージャパンはどのようなきっかけで創業されたのでしょうか。


桜田社長 Yoshino Technologyは、2021年に米国のカリフォルニア州で誕生しました。ヨシノパワージャパンについては、同社の日本法人として2023年1月に設立されました。ヨシノパワーは米国生まれのブランド、ということになります。


 Yoshino Technologyの創業者は元々、発電機などを開発/製造する企業を経営していました。しかし、米国の一部の州でガスを利用した発電機の製造に規制が入ってしまい、「だったら(ポータブル)バッテリーなら勝機がありそうだ」と考えたことが創業のきっかけです。


 創業者と私の関係ですが、実は私が米国に交換留学に行った時からの知り合いです。彼から「日本での展開を手伝ってくれないか?」とお願いされたことから、私が日本法人の代表として就任することになりました。


―― Yoshino Technologyは、発電に知見のある創業者のもとで生まれた会社なのですね。とはいえ、技術的にまだ成熟しているとはいえない面もある固体電池を、いきなりポータブル電源に使おうというのはハードルが高く、チャレンジングだと思います。この技術は、どこから来たものなのでしょうか。


桜田社長 先述の通り、創業者には発電機に関するノウハウがあります。その“つて”を使うことで、ポータブル電源をすぐに作ることができました。技術のコアとなる固体電池は、Yoshino Technologyの兄弟会社が製造したものを生産しています。


 製品の金型についてはYoshino Technologyが持っているものの、同社自身はファブレス、つまり生産工場を持っていません。技術力と品質が確保できる外部企業に(金型や部品を託して)生産を依頼する形を取っています。


―― 兄弟会社が固体電池を製造しているとのことですが、固体電池に関する技術面でも優れているということなのでしょうか。実は「世界初の固体電池採用」と言われても、にわかに信じることができなかったので……。


桜田社長 この兄弟会社は、特に固体電池の量産化についてかなり強く優れた企業です。


 固体電池を製造すること自体は、日本企業でも可能です。しかし“量産”となると、まだできていません。世界を見渡しても、固体電池の量産ができる会社は数社しかないはずです。Yoshino Technologyの兄弟会社は、そんな数少ない会社の1つということになります。


●「安全性」「高温での動作」が強みのヨシノパワーのポータブル電源


―― ヨシノパワーの製品、今回はB300 SSTをお借りしましたが、やはりこの電池の技術がヨシノパワーの強みなのでしょうか?YouTubeなどでは、バッテリーセルにドリルで穴を開けても発火しないというような動画を公開されていたと思います。


桜田社長 ヨシノパワーの強みは、一言でいえば電池だと思っています。我々の製品は固体電池を採用することで「爆発しない」「発火しない」という安全性がものすごく高いです。これが、従来のポータブル電源とは究極的に違う点です。


 また、固体電池は特性上、高温にも耐えられることもメリットです。ヨシノパワーの製品は仕様上60度までの環境で保管できます。電池単体でいえばもっと暑い場所でも問題ないですが、バッテリーを制御する温度を65度に設定している都合で「60度までは保管しても大丈夫」としています。


 60度まで保管できるということは、夏場であっても倉庫の中や自動車のトランクの中に置いておいても大丈夫というわけです。さすがに、夏場の自動車のダッシュボードの上(あるいは近傍)は厳しいですが。


―― 耐えられる温度が高いことで、保管場所の幅が広がるというのはよいですね。


桜田社長 また、固体電池の特性として、4000回充放電を繰り返しても定格容量の80%を確保した状態を維持できるというのも強みです。サイクル数4000回というのは、ポータブル電源としては業界最高水準です。


●デザインにもこだわりを


―― 過去に他社のポータブル電源を試したこともあるのですが、それと比べてもヨシノパワーの製品はデザインがとてもよいと感じました。リビングに置いたとしても違和感がありません。デザイン面にもこだわっているのでしょうか。


桜田社長 私個人としても、デザインに関しては重要視しています。日本法人の代表を打診された際に、実は「デザインがなかったら引き受けたくないな……」と思っていたのです。


 しかし、製品を最初に見せてもらった際に、今までのポータブル電源と比べると想像以上に良かった。リビングにも置いておける、女性からのウケもよいだろうと思いました。安心して引き受けられました。


 話を聞いてみると、ヨシノパワーのバッテリーはデザインに関して相当に力を入れているそうです。米カリフォルニアに本拠を構える工業デザインチーム「FuseProject(ヒューズプロジェクト)」と一緒にデザインしています。このデザインは、他メーカーと比べても優位に立てる、1つの“強み”だと思っています。


●もっと大容量の製品も発売したい


―― 現時点では、ポータブル電源について「241Wh」「602Wh」「1326Wh」「2611Wh」の4製品、それとポータブルソーラーパネルを2製品展開されています。今後、別タイプの製品も検討されているのでしょうか。


桜田社長 現在、現行モデルで最大容量の「B3300 SST」よりもう少し容量の大きいモデルと、既存のモバイル電源に“付け足し”できる「拡張バッテリー2600(仮)」の販売を検討しています。拡張バッテリーの方は2024年冬、大容量の「B6000 SST(仮)」は2025年内の発売をできればと考えております。


 大容量モデルは、家庭の「蓄電用」にも使えるようにしたいと思っています。一方、事業者向けには、例えば太陽光発電をしている事業者の蓄電や、EVスタンドの電源としてといった大きな領域を取りに行ければと思っています。


 また、あとは大きな工場(への導入)も視野に入れています。病院や自治体といった所も市場としては有望だと思っていて、大容量製品はこれらのを狙っていこうと思っています。


●2024年1月の「能登半島地震」でポータブル電源を提供


―― 自治体への導入を進めたいという話もありましたが、確か2024年1月に発生した「能登半島地震」の際に、ヨシノパワーのバッテリーを提供していましたよね。どのようなきっかけで提供したのでしょうか。また、提供時の自治体や避難所の反応はいかがでしたか。


桜田社長 1月1日の出来事だったので、よく覚えています。当社のホームページの問い合わせフォームに、老人ホームの方から「明日には電気がなくなるので、バッテリーなどがあれば提供してほしい」というメールが届いたのがきっかけです。


 当時は、道路などのインフラが送れるような状況ではありませんでした。しかし、ちょうどオフィスに充電済みのポータブル電源が10台ほど置いてあったので、「それを持って行こう」と決断し、震災の翌日の1月2日から運び入れました。


 持っていった際には、とても喜んでいただけました。実際に現地は停電中で電気が通っていなかったので、必要な箇所に全部置いていきました。


―― ちなみに、震災では停電の続く場所にポータブル電源を持っていかれたわけですが、電源自身の充電はどのように行ったのでしょうか。


桜田社長 バッテリーと一緒にソーラーパネルも持参しました。現地で充電のやり方も説明してきました。時間がかかるものの、自動車の12Vアクセサリー(シガー)ソケットからも充電できることも案内しました。


―― こういったポータブル電源を実際の災害現場などで利用した際のデータを取るのは難しいと思いますが、施設の方はどのように使っていたのでしょうか。給電時間はどのくらいだったのでしょうか。


桜田社長 一番利用されていたのはストーブや電気毛布ですね。震災が起こってから数日間は寒かったこともあり、暖を取る目的で使われていました。お湯を沸かしていらっしゃる人もいました。


―― となると、相当消費電力の大きい用途に使われていたんですね。


桜田社長 その通りで、容量の大きい製品を持っていく必要がありました。電気毛布は比較的消費電力が低いので、B300やB600でも大丈夫でしたが、電気ストーブなどは(容量や出力の)大きいモデルが必要でした。電気ストーブの種類にもよりますが、大容量モデルなら1日程度は持ったそうです。


●固体電池のメリットとデメリット


―― ポータブル電源に使われている電池に話を戻しましょう。ヨシノパワーが取りそろえてるレンジにおいて、他社ではリン酸鉄リチウムイオン電池を使った製品が多いという認識です。同じ容量で比べると、例えば240Wh前後の製品なら他社が3万円前後で買えるところ、御社の製品は4万2000円ほどです。思った以上に価格差がありますが、この点はどうお考えでしょうか。


桜田社長 価格は、当社製品における一番の弱点だと認識しています。当面の間は、先述した固体電池の特性や強みをお客さまに訴求し、価格差が生じる理由を理解していただいた上で購入していただこうとも考えています。


 ヨシノパワーのポータブル電源を購入頂いているお客さまのうち、おおむね7割は固体電池のメリットを理解した上で、高くても購入していただいているという認識です。


 ただし、販売数が増えれば、規模の経済で固体電池の調達価格を抑えられるはずです。それは製品の価格を押し下げる効果もあるので、今後は手頃な価格を実現することにもチャレンジしていきたいと思います。


―― 今回、インタビューをしようと考えたきっかけは、御社のポータブル電源が「固体電池を採用している」と知ったことでした。少し失礼かもしれませんが、日本の自動車メーカーですらまだ採用していない固体電池を「本当に使っているのか?」と疑問に思ってしまったのです。そもそも、固体電池はどのような技術に基づく充電池なのでしょうか。


桜田社長 液体やゲルを使わない「全固体電池」について、正直なところ現在は業界でも明確な定義がないという認識です。一応、電解液の割合が5%以下の電池を「全固体電池」と呼ぶことが多いですが、定義が変わったら問題なので当社では単に「固体電池」と呼んでいます。


 「電解液の割合が5%以下の電池」という観点では、当社のポータブル電源が採用する固体電池は定義を満たしています。詳細は企業秘密ですが、充電池の電解質のほとんどが固体で構成されています。


●固体電池は“日本発祥”の技術


―― こういった固体電池を採用できたのは、先ほど出てきたYoshino Technologyの兄弟会社の技術力によるのでしょうか。


桜田社長 (Yoshino Technologyの)兄弟会社は、固体電池の領域では一番進んでいる会社だと思っています。


 固体電池に関する技術を俯瞰(ふかん)すると、全体的には中国の企業が最先端です。技術面はもちろん、原材料の調達力でも強いです。技術力はさておき、日本の企業が同じコストで作れるかというと、現状では難しいのではないでしょうか。


 私たちは技術力とコスト競争力のある会社を兄弟会社に迎え入れて、固体電池を独占的に供給してもらっていることによって、今の製品を供給できているのです。


―― 固体電池を供給している兄弟会社は、Yoshino Technology以外にも固体電池を供給しているのでしょうか。


桜田社長 電気自動車に電池を供給しています。全固体電池に限らず様々な種類の電池を作って、いろいろな会社に供給しています。高級車や電気自動車向けにも全固体電池を供給しています。


―― 話を総合すると、現行の固形電池の核心技術は中国企業に由来するものだということですよね。日本の技術は使われているのでしょうか。


桜田社長 固体電池の元となる技術は、日本企業が発祥です。中国はそれを後追いして、追い抜いたという感じです。コンセプトを作ったのは日本の企業なので、あくまでも「日本から始まった技術を使っている」という意味です。


 私たちヨシノパワージャパンは、日本の会社です。だからこそ、固体電池に利用している技術は海外発祥ではなく、日本が“起源”であることを言いたかったのです。「日本の会社」を前面に出しているつもりではなく、グローバルブランドを目指しているため、基本的にどこの国の企業であろうと良いものを作って、良いものを売るということには変わりはありません。


●日本でもR&D拠点を設置予定


桜田社長 日本という意味では、Yoshino Technologyは≪日本に研究開発(R&D)拠点を開設する計画です。当社にR&D部門を追加する形での設置を想定していますが、一部に“日本生まれ”の製品が出てくることになると思われます。


 今後、日本法人である私たちがR&Dを推進するこで、私どもの製品の技術の優位性を高めていけるのではないかと思っています。


―― 現時点では日本にはR&D部門はないということでしょうか。


桜田社長 現在、Yoshino TechnologyのR&D部門は中国にあります。私たちがR&D部門を開設した後は、中国と日本のチームが製品開発を担うという想定です。


 R&Dの具体的な内容は話せないですが、製品を送り出す上で必要な4要素を担う方向で検討を進めています。


―― R&D活動の計画や、今後のヨシノパワーの製品展開について、もっと公開できる情報はあるのでしょうか。


桜田社長 先に触れた製品計画以外に、話せることはまだありません。乞うご期待、ということでしょうか。


●今後のヨシノパワーは何を目指す?


―― 今後の技術開発において、重要な技術的テーマは何でしょうか。


桜田社長 充放電サイクルの回数を引き上げることや、電源の出力を上げることに注力したいです。それと並行して固体電池の密度を高めることで、より軽量な製品を作っていきたいですね。現時点でも、大容量モデルは同一容量の他社製品よりも軽量ですが、さらに軽くしたいと思ってます。


―― ヨシノパワーの製品が日本で発売されてから半年ほど経過しました。ユーザーから反応はいかがでしょうか。


桜田社長 おかげさまで良いようです。ただし、まだ使い始めて半年程度の評価であることも確かなので、もう少し経過してから評価を見極めたいとも思っています。


―― 動画投稿サイトやSNSなどでは、「ヨシノパワーは結局中華系メーカー」というコメントも散見されます。それに対してどうお考えでしょうか。


桜田社長 先に言った通り、現時点で固体電池を量産できるのは、事実上中国のメーカーだけです。ゆえに、当社製品の重要な部分が中国依存であることは事実なので、「中華系」と書かれることは気にしていません。私たちはグローバル企業として、各拠点国の強みを生かした製品開発を続けてきました。


 今後は、デザインなら米国、要素技術なら日本、そして固体電池なら中国――といったように、グループの拠点国の強みをそれぞれ生かした製品開発を進めたいと思っています。


―― 最後に、今後の製品をどう展開していきたいのか教えてください。


桜田社長 現在、ヨシノパワーの製品はECサイトでのみ販売されています。理由は幾つかありますが、あえてそうしています。当面、個人のお客さまへの販売はオンラインに絞りますが、販売数が増えてきたら家電量販店などでの店頭販売を検討したいと思います。


 また、最近は地方公共団体を始めとする法人からの注文も増えています。これも店頭販売に向けたバロメーターと考えていて、今のペースを維持できれば2024年末から検討に入れるでしょう。


 インタビューを終えて、ヨシノパワーのポータブル電源に興味を持った筆者は後日、エントリーモデルである「B300 SST」をお借りしてレビューした。その時の模様は、別の記事でお伝えする。


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