新時代のタイムループ!? 共感不可能な主人公と少女たちの戦いを描いた『Thisコミュニケーション』の魅力

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2024年06月28日 08:10  リアルサウンド

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『Thisコミュニケーション』の作者・六内円栄の公式Xより @rokudaimaruei

  大切な人を救うため、何度も時間を巻き戻して困難を解決していく……。これが2000年代頃から流行している「ループもの」のテンプレートと言っていいだろう。あらゆる展開がやり尽くされた影響なのか、最近ではこの設定をひとひねりする形でストーリーに組み込んだ作品も増えている。なかでもユニークな発想で作られていたのが、六内円栄によるマンガ『Thisコミュニケーション』だ。


  同作は『ジャンプSQ.』(集英社)で2020年から連載されていた作品で、2024年4月号にて完結を迎えた。物語の舞台は21世紀、イペリットという謎の生物によって人類のほとんどが滅ぼされた後の世界を描いたポスト・アポカリプスSFだ。
 主人公のデルウハは過酷な戦いを生き残った軍人で、とある研究所に辿り着いたところで一命を救われる。そこではハントレス(女狩人)と呼ばれる6人の少女が日夜イペリットとの戦いを繰り広げており、デルウハは指揮官として彼女たちと関わっていくことになる……。


 実のところ、同作では「時間が巻き戻る」という現象が起きることはない。それにもかかわらずループものに近い物語構造となっているのは、ハントレスに独特の再生能力が備わっているからだ。彼女たちは不死身の肉体をもち、一定のダメージを受けると仮死状態となり、1時間前の自分を復元する形でよみがえる。すなわち実質的な“やり直し”を行うことができる体質なのだ。


 そこで面白いのは、1時間前の自分を再生するため、やり直しの際にハントレス本人はそのあいだの記憶を失ってしまう……という条件があること。代わりに記憶を維持しながら戦うのは指揮官であるデルウハで、彼は自分ではなくハントレスをループさせることで、“一度きりの生命”では攻略不可能な難局を切り抜けていく。


 こうして説明すると、特殊な条件設定とはいえループものの王道展開にも見えるかもしれないが、問題はデルウハがとんでもない合理主義者にしてエゴイストであり、ヒーローとはほど遠い人格であることだ。


  デルウハはかつて所属していた軍では「味方を殺す悪癖がある」とウワサされており、“悪魔”と呼ばれていたという人物。その異常性は1話目から発揮されており、自らの斧によってハントレスの1人、よみを手にかけている。不慮の事故によってよみが仲間のむつに致命傷を与えてしまい、仲間割れしかけていたため、手っ取り早く人間関係を修復させるために荒療治で記憶を奪ったのだった。


  その心に彼女たちへの思いやりは一切なく、目的はあくまで自分が制御しやすい部隊を作ることにある。余計な知識を得てスランプに陥ったから、精神的に依存されそうになったから、ハントレス殺しの真実を知られたから……。デルウハはさまざまな理由で少女の命を奪い、記憶を失わせることで、自分にとって都合のいい“理想の兵士”を作り上げていく。


  傍から見ているとまさに凶行だが、当然ハントレスの面々も自分たちの置かれた状況に違和感を抱くようになる。デルウハの計画が上手くいくか、少女たちが真相に辿り着くか、その絶妙な駆け引きが同作のスリリングな面白さにつながっている。


“誰も共感できない主人公”の魅力とは……

 例外もあるが、基本的にループものの作品では、「誰かを助けること」を目的としてやり直しが行われることが多い。『STEINS;GATE』や『魔法少女まどか☆マギカ』、『僕だけがいない街』、『サマータイムレンダ』、『Re:ゼロから始める異世界生活』など、例を挙げると枚挙に暇がないほどだ。現在『月刊コロコロコミック』で連載されている『運命の巻戻士』に至っては、時間を巻き戻すことで不慮の事故や事件で亡くなった人を次々救っていくというストーリーで、“人助け系ループもの”の極致と言える。


  精神的もしくは肉体的な苦痛に耐えながら、誰かを救うためにループを繰り返す……。そんなヒーローのような姿こそが、ループものの王道的な主人公像だと言えるのではないだろうか。


  しかし『Thisコミュニケーション』の主人公にあたるデルウハは、決してヒーローではない。世界を救うことはもちろん、少女たちを絶望的な境遇から助け出すことにも一切興味がなく、その胸にあるのは自分の食欲のみ。ただ1日でもパンとサラミを食べられる日を多くするために、不死身の部隊を指揮して戦いを繰り広げていく。


  時にデルウハはハントレスの少女たちにとっての敵となり、両者が殺し合いに発展することもある。そう考えると、もはやヒーローどころかダークヒーローですらなく、一切の憧れや共感を拒むような立ち位置だと言えるだろう。それでいて彼の人生がどこに向かうのか、怖いもの見たさで眺めていたくなってしまうのが、デルウハという主人公の魅力ではないだろうか。


  ところで徹底した合理主義者の主人公でありがちなのは、徐々に他の登場人物たちにほだされていき、最終的に人間らしい生き方を理解するというオチだ。しかし同作の作者・六内円栄はそんな甘い展開には一切舵を切らない。最初から最後まで怒涛のストーリーが繰り広げられるため、ほとんどの読者は予想を裏切られるはず。


  同作の連載は『ジャンプSQ.』4月号をもって終了を迎え、5月2日には最終巻となる12巻が発売された。その連載期間は約4年だったが、単行本で読み通すとあまりに無駄がない構成となっていることに驚くだろう。これまでにない設定で練り上げられたループものの怪作を、一度は読んでみてほしい。


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