「THE MODEL型」の弊害はAI活用にも 米国の営業組織が重要視する「RevOps」とは

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2024年06月28日 08:50  ITmedia ビジネスオンライン

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なぜ「RevOps」米国で注目?

 AIが登場して以来、「AIが人の仕事を代替する」という風説が後を絶えません。24時間連続でミスなく正確に、人間に勝るスピードで情報処理能力を持つ特性から、AIによる職業の代替はビジネスのあらゆる分野で長きに渡り論点となっています。2022年末に文章や画像などコンテンツの自動生成能力を持つ「生成AI」が登場して以降、その応用方法に関する議論がさらに活発化しています。


【画像】Revenue Operationsへの移行イメージ


 営業の分野でも、業務効率化・顧客への付加価値向上を目的に、セールステック企業各社でAI機能開発が進められている他、急速に市場拡大する営業BPaaS(Business Process as a Service、特定の業務プロセスを外注できるクラウドサービス)領域でのAI活用に注目が集まっています。


 本連載ではAI活用が急速に進む中、注目度が高まる「Revenue Operations」(以下RevOps)について考察します。


 第一回は、AIを組織に組み込むために必要となる、全社的な業務デザインを連携し、組織全体としての収益成長を実現するためのオペレーション設計・管理を担うRevOpsについて、Google Japanで営業統括部長、freeeで営業統括役員を歴任し、現在はMagic Momentの代表を務める村尾祐弥氏が解説します。


●THE MODEL型は限界? 対処法で「RevOps」登場


 セールステック市場では、古くはCRMやSFAの活用からはじまり、BI、人工知能(AI)、機械学習(ML)、IaaS、PaaS、SaaSといったクラウドソリューションの利用が一般化してきました。加えてこれらのソリューションを統合的かつ効率的に利用するために、ビジネスプロセスそのものを外注するBPaaSが注目を集めるなど、AIを中心に目まぐるしい変化が起きています。ある報告書によると2022年時点でBPaaSのグローバル市場規模は約57億ドルにのぼり、2035年には約200億ドルに達するという見立てもあるほどです。


 複雑化したテクノロジー群を統合し、外部委託するBPaaSのようなサービスは、生成AIの登場でビジネスのスピードと不確実性が高まりつつある現代において、資本効率化を実現する有効な手段だといえるでしょう。この動きは米国のみならず、特にエンタープライズ企業を中心に外注やBPOの活用が多い日本の営業領域でも広がっていくことが予想されます。こうした営業のビジネスプロセスを効率化・自動化するときに、肝となるのがRevOpsという役割になります。


 まずはRevOpsという役割・チームが米国の営業組織で2010年代前半から現在に至るまで重要視されてきた理由をお話します。


 THE MODEL型の従来の組織では、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスなどに分割された各部門が、それぞれ顧客ライフサイクルの一部のみに責任を負い、顧客を受け渡していくような構造でした。これは、言い換えれば「全てを割り切る」スタイルです。「管理がしやすい」「PDCAが回しやすい」といった優れた点がある一方で、縦割りによる弊害も発生します。


・データやノウハウが部門ごとにサイロ化(各部門で別々に管理されること)し、チーム間の連携が難しい


・顧客の要望の変化に沿った各フェーズのゴール設定のPDCAが困難


・データの記録が各部門に委ねられ、データが非構造化する


 部門ごとに異なる成果目標を達成するための責任者が存在し、異なるツールの導入や活用が進むことで、それぞれの部門に最適化された形式でデータが蓄積されます。サイロ化した組織では蓄積されるデータの目的も形式も異なるために、部門を超えた統合が非常に難しくなるという実態があります。つまり本来は連続性を持つ顧客体験が、データ上では分断された形式となってしまうのです。


 対策として、グローバル企業では全社横断的な取り組みを進めるために、デジタル基盤の統合や運用を一括管理し、推進する役割としてRevOpsが登場しました。RevOpsは、全社的な業務デザイン(マーケティング、セールス、カスタマーサクセスなどの部門)を連携し、組織全体としての収益成長を実現するためのオペレーション設計・管理を担います。


 RevOpsは顧客ライフサイクルを横断し、マーケティング・セールス・カスタマーサポート(カスタマーサクセス)といった、売り上げの創出・維持拡大に必要なチームを結び付け、組織の縦割りをなくします。


 具体的な役割としては、複数の部門・職位を横断して、企業全体のビジネスプロセスやシステム、データ管理を通じ、顧客とのエンゲージメントの最適化、効率的なリソース配分、収益目標の達成などを実現するための調整役を果たします。


・マーケティングは認知から既存顧客へのアップセルまで、カスタマーライフサイクルの全体に関与。マーケティング施策は、新規ビジネスだけでなく、クロスセル、アップセル、チャーン防止にも影響を及ぼす。


・セールスは、カスタマーライフサイクルの初期から、ソーシャルセリングやセールス主導のアウトバウンドキャンペーンで認知やブランドにも影響を与える。


・カスタマーサクセスは受注前から案件を注視し、既存顧客の傾向を見ながらアップセルの可能性が高そうな案件に注力する。


 全てのチームを統合組織に進化させるために、テクノロジー・オペレーション・スタッフ(従業員・派遣社員・業務委託先)を全社最適でデザインすることが最大の特徴です。


●なぜ「RevOps」米国で注目? 背景に3つの理由


 営業活動においてAIの分析機能や業務の自動化といった強みを活用し恩恵を受けるためには、AIが学習するための「データ」が不可欠です。データの蓄積・運用には組織横断の連携が求められますが、難易度が高いため、RevOpsの重要性がますます高まるでしょう。


 Gartnerの調査により、世界で最も高い成長率を誇る企業の75%が、2025年までにRevOpsのモデルを導入すると予測されています。RevOpsは米国で約20年前に大まかに定義された概念として登場してから、確立されたビジネス機能へと進化し、現在では多くの組織が専任のRevOpsチーム、または個人を雇用しています。


 米国のこういった動きには、3つの要因があると考えられます。


(1)顧客中心主義の高まり


 かつてスペックと価格で購買の意思決定がされていた時代と比べ、今は消費者が多様な購買の選択肢と情報を持ち、選べる時代になりました。企業側は提供する製品やサービスの品質を高めていくことはもちろん、営業活動においてもマーケティング、セールス、カスタマーサクセスのあらゆる場面で、顧客側が期待する経済的価値を超える価値や顧客体験を提供する姿勢が重要となっています。


(2)ビッグデータと高度な分析技術の出現


 分析技術の台頭により機械が人間に代わって膨大なデータを読み込み、分析できるようになったことで、これまで以上にデータの有用性が重要な意味を持っています。


 例えば、営業データを活用することで発揮できる価値としては、ナーチャリングで「A」というデータがあれば、それが成約の段階で「B」というデータと相関があるかどうかだけでなく、オンボーディングが完了した1年後の継続利用に正の相関が平均〇〇円見られる――など、顧客価値につながる行動の相関を見つけ、営業活動に生かすことが可能です。


 分析技術に資本を投下しても、社内に蓄積されたデータの品質が担保されているかどうかで、コストに対する投資対効果は数倍のレベルで変わります。


(3)AIの進化


 AIの最大の強みは、人間の知的行動を学習・分析し、再現できる点です。その強みを生かし、業務効率化や付加価値の創造につなげるためには学習データが必要になるため、データの蓄積や運用に対する関心が高まっています。


●日本の営業組織では難しい?


 前述のように、米国の成長企業を支えるRevOpsは、日本では一般的にはまだ知られていません。


 “分業型の営業組織が直面する弊害を乗り越えるためのRevOps”という性質を考えると、日本の営業組織では、大手の企業に担当が張り付くアカウント営業や、個店を足で回るルート営業が中心であり、分業型の営業組織がまだ一般的ではないことが要因だと思われます。加えて、CRM自体の利用は進みつつも、活用についてはばらつきが大きく、そもそものデータ取得の段階で、お困りの企業が多いのかもしれません。


 しかし昨今は、DXやAIの活用によるデータの重要性が増し、コロナ禍を経てオンライン営業が一般化することで、分業を思考する企業も増えてきました。RevOpsという言葉は知らずとも、統合的なデータ環境とオペレーションの構築が経営のトッププライオリティになってきている点は、皆さんも同意いただけるのではないでしょうか?


 実は、日本国内の急成長企業でも、RevOpsの取り組みは広がりつつあります。特に2010年代に急成長したSaaS企業は、いち早くTHE MODEL型の営業組織を取り入れ、必然的にRevOpsに取り組んでいます。筆者はGoogleで実践してきたRevOpsの内容を、転職先のfreeeでも生かすことで、同社の成長に貢献しました。


 その後、日本でもSales Enablement Platformなど、データを統合するソリューションが登場し、より手軽にRevOpsができる土壌が進んできました。


 THE MODEL型の活用が進むにつれて、SaaS以外の企業でもRevOpsの利用が進んでいる事例もあります。


 当社がサポートした例でいうと、LINEがSMB向け直販事業を立ち上げた際に、CRMとSEPを基軸にRevOpsを活用。分業のメリットを享受しつつ、デメリットを最小化すべく下記のような取り組みを行い、急成長を遂げました。


・顧客との関係構築に徹底的にフォーカスするために、マーケティング・営業・顧客支援から得られた顧客情報をシームレスに連携


・顧客の行動や合意形成項目などのLTVに直結するリアルタイムな情報をBIとして可視化


・分業で動く各チームの行動が、どのように顧客エンゲージメント、ひいてはLTVに影響を与えるのかを共通言語として語ることができるようになり、施策のPDCAの精度が向上


・コロナショックが直撃した広告業界においても、年初計画売り上げを達成し続けるチームに成長し、解約率も低減


●まとめ


 上記のように、RevOpsは営業組織の統合・効率化にとって、重要な役割となります。これに加えて、AIや機械学習をオペレーションに組み込んでいく場合、企業の運営コストを劇的に削減し、従業員の生産性を向上させる可能性もあります。完全に自動化されるオペレーションも出てくることでしょう。


 この効率化は、企業がより戦略的な活動にリソースを集中させることを可能にし、競争優位性を高める結果につながっていきます。一方で、こうした取り組みが部分最適で進んでしまった場合には、データの力を発揮できず、不完全なオペレーションになってしまいます。さらに、こうしたすり合わせを人間が行うことになり、より非効率な状態になる可能性も否定できません。


 米国の成長企業では一般的で、日本でも活用が広がりつつあるRevOps。次回は日本企業で実行するためのハードルと解決策を解説します。


 筆者プロフィール:村尾 祐弥 株式会社Magic Moment


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