「中田英寿も本田圭佑も強かった」清水エスパルス・秋葉忠宏監督が目指す超攻撃的なサッカーに不可欠なもの

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2024年06月28日 10:20  webスポルティーバ

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昨シーズン、4月に清水エスパルスの監督に就任し、チームを劇的に復活させた秋葉忠宏。最終的にJ2リーグ2位以内に入れず、J1昇格プレーオフでは東京ヴェルディに敗れてJ1復帰は果たせなかったが、「エスパルスはJ2にいるようなチームではない」と常々語る。そのことを証明すべく、昨年以上に熱くチームを牽引する秋葉監督に指導者の哲学とチームの現状について話を聞いた。

――秋葉監督の指導者としての哲学を教えてください。

「指導って、自分のプレイヤーとしての経験や人生を生きてきた経験など、その人の生き様が出ると思っているんです。僕は(イビチャ・)オシムさんや岡田(武史)さんのように賢く、崇高なことは言えないですけど、自分らしく情熱を持って、自分の言葉で選手に熱く真正面から伝えていく。そうしてコミュニケーションを取ってやっていくことが一番大事なことであり、自分のスタイルだと思っています」

――コミュニケーションを取りながらの指導で不可欠な要素はありますか。

「嘘をつかないことですね。ひとつ、嘘をつくと、それに合わせるために嘘を重ねて、つじつまが合わなくなってきます。もうひとつは、幅を持たせるということです。

 サッカーは自分で考え、判断しないといけないグレーゾーンが多いスポーツだと思うんです。そこで僕が白黒ハッキリさせてしまうと、その選手の良さや動きが縛られてしまうので、良さが出にくくなってしまうんです。ピッチ上でそれは避けたいので、すべてを決めすぎず、選手のセンスを活かすことが、僕は監督にとって必要な要素だと思います」

――100%のうち、選手個々の判断でのプレーをどのくらい認めているのですか。

「僕は、60%はチームとしての方向性を守ってもらい、40%は個人戦術やアイデアを自由に活かしてほしいと言っています。この40%の自分の世界はめちゃくちゃ大事で、僕が『これとこれをやって』と言うと、今の選手は素直で真面目なので、それしかやらなくなることが多いんです。だから、40%を許すだけじゃなく、できる環境も大事だと思っていますし、エスパルスはそれができるチームになっています」

 秋葉監督がグレーゾーンを否定せず、個性を活かすことを重視しているのは、現役時代に一緒にプレーした選手たちの影響も大きい。

――監督によっては、自分の型にはめていくタイプもいます。

「いやーそれはダメですね(苦笑)。それは僕が一番嫌いなタイプです。『こうだよ』って言ってハメるのは簡単なんですよ。でも、それじゃ選手が成長しないんです。

 僕が現役時代にアトランタ五輪(1996年)で一緒にプレーした前園(真聖)、城(彰二)、中田ヒデ(英寿)は、自分の個を活かしてナンボの選手じゃないですか。実際、そういう選手が局面を打開して、大きな舞台で勝利に繋がるプレーをするんですよ。

 それに僕は、自分が想像する以上の選手になってほしいんです。『えっ、おまえ、そんなプレーもできるの?』『そんな考え方、持っていたんだ』とか、そういうので僕を驚かせてほしいんです」

――指導のなかで選手の成長を感じたいのですね。

「選手の成長が指導者にとっては一番うれしいことじゃないですか。チームのなかで選手が成長するには、技術、体力はもちろん、考えることが重要になってきます。

 五輪とか、W杯の大舞台の試合になると、監督の声とか聞こえないと思うんですよ。昨年のヴェルディとのプレーオフですら1m先も聞こえなかったですからね。そういう時、自分で判断し、行動に移せることが大事になってきますし、そういうなかで選手はより成長していくと思うんです。

 そんな(自分で考えてプレーできる)選手が11人はもちろんのこと、23人揃えばW杯でベスト8の壁を突き破っていけると思います」

――監督がプレーで要求する、指示することはどんなことですか。

「ゴールに向かっていかないとか、ボールを奪いにいかないとか、そういうサッカーをするつもりがないので、アグレッシブさは求めています。あと、守備ですね。ボールを奪う守備とゴールを守る守備があるのですが、その使い分けはハッキリと示します。

 僕は前向きなミスをしても何も言わないですし、いくらしてもいいんです。でも、後ろを向いて(ボールを)取られるとか、横パスで引っかかるとか、仕掛けないとか、消極的なミスや姿勢は嫌いだし、そういうプレーは次に繋がらないんですよ」
 
 秋葉監督は、選手を型にハメることはせず、前向きのミスにも寛大だ。戦術面について選手の声を反映することはあるのだろうか。

――選手から戦術的な意見が出ることについて、どう考えていますか。

「それはすごく重要なことだと思っています。若い選手が持つ柔軟なアイデアは面白いですし、それを聞くことで僕自身の幅も広がります。ただ、それをどこまでやれるのか。そこについては、僕が判断させてもらいます。

 あと、僕はディエゴ・シメオネ監督(アトレティコ・マドリード)と同じで、フィジカルについては手の要望はほとんど聞きませんし、妥協も一切しません。フィジカルの項目で何かひとつでも足りない部分があると、ゲームに出すことはないですね。自分が目指す超攻撃的なサッカーを実現するには、フィジカルのベースがあってこそだと考えているので」

――フィジカルの弱さを技術で補うのも認めないのでしょうか。

「技術とフィジカルがあって一人前の選手、どちらかが欠けていると半人前なんですよ。日本人はフィジカルが弱いってよく言われますけど、それを諦めてしまったら終わりなんです。

 ラグビー日本代表のエディー・ジョーンズ監督もフィジカルベースを上げて南アフリカに勝ちましたし(2015年ラグビーW杯)、大谷翔平選手もフィジカルを鍛え上げて世界トップレベルでプレーしているわけじゃないですか。中田ヒデや本田(圭佑)、岡崎(慎司)もフィジカルが強かったですし、やれば強くなるんです。フィジカルと技術の両方をきちんと求めていかないと世界では勝てないんですよ」

――それは、代表でのコーチ経験などから得られた考えですか。

「それもありますが、今のサッカーはフットボーラー×アスリートじゃないと勝てない時代になっているということです。世界ではスピードがない、高さがないなど、(チームの)フィジカルがないところは徹底的に狙われます。技術とフィジカルのふたつが噛み合った選手を11人以上揃えないと、世界一を狙うことも、一流の選手になることもできないですね」
 
 監督には、独創的な指示で勝利だけを求める人がいれば、ファンを魅了するサッカーを実現して勝利に結びつけていくタイプもいる。

――勝利に徹したサッカーがファンを魅了するとは限らず、魅力的なサッカーが必ずしも勝利に結びつかないのが難しいところですが、秋葉監督が志向するのはどちらに近いですか。

「ロマンを追い求めて、本来の目的である優勝、昇格ができないと、それは自分の自己満足になってしまいます。クラブはファン、サポーターをはじめ、スポンサー、スタッフ、行政などいろんな方に支えられています。自分の好き勝手にやって、『負けたから辞めるわ』じゃ、監督をやる資格はないと思っているので、リアリストになって目標達成しないといけない。

 一方で、僕はフットボールが魅力的で楽しいからやり始めたので、ロマンも失いたくないんです。ロマンを求めて一年間走ることができれば、こんなに楽しいことはないですけど、現実はまったく甘くないですからね。ロマンチストとリアリストを両方うまく使分けていくのが理想ですね」

――クラブや日本代表が結果を出すためには、何が必要だと思いますか?

「ひとつは、自分のスタイルで押しきるんじゃなく、いかに臨機応変に戦えるかだと思います。不変じゃなくて、可変システムですね。

 ブラジルやスペインのようなスタイルに日本を押しつけたところで勝てっこないんですよ。歴史を積み重ねてきたうえで生まれたシステムを、(Jリーグが発足して)30年ぐらいの日本がやっても真似しただけで終わってしまう。

 それよりも日本人の良さである賢さ、組織で動ける良さを活かしつつ、三笘(薫)のような特別な選手を輩出して戦うことができれば、世界でも十分に戦える。クラブも代表もカメレオンみたいに柔軟に戦える選手が揃えば、J1でリーグチャンピンになることはもちろん、日本代表がW杯で優勝することも可能だと僕は思っています」

■Profile
秋葉忠宏(あきばただひろ)
1975年10月13日生まれ。市立船橋高卒業後、1994年にジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド千葉)入り。1995年、U-20日本代表としてFIFAワールドユース選手権(現U-20W杯)に出場。翌1996年には28年ぶりにアジア予選を突破し、アトランタ五輪にも出場した。1997年、アビスパ福岡に移籍。その後、国内クラブを渡り歩き、監督兼選手としてプレーしたSC相模原で2010年に現役を引退した。翌2011年から水戸ホーリーホックのヘッドコーチを務めたあと、ザスパクサツ群馬の監督、U-21日本代表コーチなどを歴任し、2023年に清水エスパルスのコーチに就任。同年4月から監督として指揮を執る。

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