ワコムペン付属の「ASUS ProArt Display PA169CDV」は高級モバイルディスプレイの王道を行くのか? プロ絵師が試す

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2024年06月28日 12:51  ITmedia PC USER

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ASUS JAPANの4K(3840×2160ピクセル)対応15.6型モバイルディスプレイ「ProArt Display PA169CDV」です

 こんにちは! refeiaです。


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 今日はワコムペン付きの高級モバイルディスプレイを見ていきましょう。ASUS JAPANが5月に発売した「ProArt Display PA169CDV」です。


 ProArtは同社のクリエイター向けブランドで、色再現にこだわったディスプレイや高性能なPCなどを展開しています。今回見ていくPA169CDVは、ProArtブランドとしては珍しいモバイルディスプレイで、しかもワコムの電磁気センサー式のペンシステムを採用しているとのことで、ある意味“液タブ”と言っても良い内容になっています。


 本機は市場想定価格が17万5320円と高価ですが、Cintiqなどで採用されている「Pro Pen」シリーズからは、ワンランク落ちるペンシステムが採用されています。なので、個人的には液タブの代用としては見ていませんし、ドローイングなどの繊細なペン操作が主な用途ならば選択肢の筆頭にはならないでしょう。


 それでもやはり、同社が踏み出したこの分野の製品ならば見ておかずにはいられないです。早速チェックしていきましょう。


●主なスペックをチェック


 まず、本機の主な特徴は以下の通りです。


・15.6型/4K(3840×2160ピクセル)IPS液晶ディスプレイ


・sRGBカバー率100%


・アンチグレア・アンチフィンガープリント処理の画面


・450ニトの高輝度


・タッチ操作対応


・ワコムの電磁気センサー式ペンを採用


 ペンの種類や輝度などを除けば、スペック表的には意外とワコムの「Cintiq Pro 16」に近い内容です。


 先日発売されたワコムの「Movink 13」も、モバイルディスプレイのような性格の製品でしたし、海外メーカーの液タブもコンパクトなモデルはモバイルディスプレイ的なものが多いです。自分もCintiq Pro 16を買うときには二拠点での利用を見込んでいましたし、大型機でもなければ境目が薄れていく時代ということでしょう。


●内蔵スタンドが「2つ」!?


 外観を見ていきましょう。表からの見た目は普通のモバイルディスプレイのようなバランスですが、ほぼ全面がガラスに覆われていて非常に質感が良いです。


 ボタンや接続ポートは左側面に集中しています。


 ダイヤルは回転と押し込み操作が可能で、アプリやOSの機能にドライバで割り当てる方式です。隣のスイッチで、カチカチとクリック感をつけるかスルスル回るかを選ぶことができます。ダイヤルは素材は良いものの、スレるような音や軸方向のガタつきがあったり、クリック有効時には不安定に引っかかるような違和感があったりと、全体的な品質にそぐわない操作感なのが惜しいです。個人的にはずっとクリック無効で使っていました。


 裏面も格好良く、一般用途に適した54度〜75度で調節できるメインのスタンドと、ペンやタッチ操作に適した17度に設定できるサブのスタンドが内蔵されています。


 キックスタンドだけで深く倒せるデバイスもありますが、ペンを持った手を置いたり筆圧をかけたりすると一番下まで潰れてしまって困ることがあり、スタンドを分けるのは良い工夫です。実際に剛性感もあり、何の不安定さもなく利用できます。


●意外と悩ましい接続方式


 接続はUSB Type-CかHDMI経由ですが、USB Type-Cケーブル1本だけで接続した場合には最大輝度が180ニトに制限され、付属のUSB Power Delivery(PD)アダプターで電源を入力すれば高輝度まで利用できます。HDMIケーブルを使う場合は、ペンとタッチの通信のために、USB接続と付属のACアダプターで合計3本の接続になります。


 いずれの場合も、倒した設置ではケーブルが手前側から左に出てくるのが邪魔です。ダイヤルを使うときは手首でケーブルを圧迫しないように気を付ける必要がありますし、右利きの人はキーボードや左手デバイスの設置で苦労すると思います。


●真面目なディスプレイを搭載


 ディスプレイも見ていきましょう。本機もシリアルナンバー付きのキャリブレーション報告書が添付されています。


 仕様表に書かれている色空間としては「sRGB 100%」ですが、工場出荷状態の「Standard」モードを手元で計測してみると、DCI-P3やDisplay P3よりもAdobe RGBを優先した広色域ディスプレイのようでした。


 また、配布されているドライバを導入すればカラープロファイルがセットされます。測色機などを持っていなくても、色の一致について比較的安心してStandardモードを利用できると思います。


 もちろんカラーシミュレーションモードもありますが、sRGBモードは規定を真面目に守って作られているせいか、輝度がかなり暗い値に固定されてしまい、薄暗い環境でないと実用は困難です。


 高輝度に対応しているのは、モバイルディスプレイとして色再現にこだわりたい中ではうれしい仕様です。表示を正確に見たいなら画面に外光を当てないのが一番ですが、モバイル用途ではいつも理想的な環境になるとは限らず、浅い角度に設置する用途ではなおさらです。液タブだと200〜300ニトぐらいが多かったと思いますが、本機は別途電源をつなぐ必要があるとはいえ仕様としては最大450ニト、手元の計測では500ニト以上の明るさが出ていました。


●ペンをチェック


 さて、付属の「ProArtペン」も見ていきましょう。鉛筆を太くしたような六角形のペンで、運搬時は本体上面の輪に差し込んで固定する方式です。筆圧だけでなく、傾き検知にも対応しています。


 また、手元のペンの中ではWacom One(初代)のペンと、サムスン電子の「Galaxy Tab S8+」付属のSペンも動作しました。


●本体の上質感とギャップのあるペン性能


 この時点で、読者のみなさんはワコムのペンシステムといっても過信は禁物なのは察していると思いますが、実際にエントリーモデル向けのペンです。今どきジッターのような重い問題の心配はないとはいえ、この類のペンの主な弱点として軽い筆圧の自然さが「Pro Pen 2」などより劣ることを挙げておきたいです。


 実際に描き比べてみると、かなり軽い筆圧にも反応はするとはいえ、その筆圧で出る値がいきなり濃いめで唐突感があります。


 また、本機固有の弱点としてはカーソルずれがあることと、遅延もわずかにあることが挙げられます。個体の問題かもしれませんが、少なくとも評価機は、持ち方に関わらずカーソルが左にずれていました。


 遅延については、タッチスクロールのもっさり感や、素早く描くとペン先と線が離れて見えやすいなど、快適性に関わる程度にはあります。作業効率に影響しないだろうとはいえ、最近のスルスルついてくるモバイルデバイスに慣れていると違和感が残るかもしれません。


 冒頭で述べた通り、今、このデバイスを液タブの代用として評価したくはないです。一方で、この価格帯の上質なデバイスならば、格下感のないペンと完成度がほしいな……とはどうしても思ってしまいます。


 実際に、いつもの絵でイラスト制作に相当する使い方もしてみましたが、ラフや線画はOK、彩色は全体的にグラデーションが意図した通りには出しづらく、軽い筆圧を使って薄く塗る筆運びの代わりにブラシ設定を変えて薄くする必要がある場面もありました。


 また、本機は工場出荷状態でタッチ機能は無効になっており、タッチ有効でペン作業をするとやや誤爆しやすいのは気になりました。それでも、ホバー範囲が画面から高めでタッチを無視する処理が効きやすいことと、ホバー範囲外に出たあとも0.5秒ぐらいはタッチを無視する処理が入っているようなので、気を付けていれば誤爆は避けやすいです。


 発熱も問題ないと思います。本機はファンレスですが、デフォルトの輝度ではほんのり暖かくなるぐらいで素手でもよさそうです。外部電源を繋いで最大輝度で長時間使うとさすがに暖かくなるので、タブレット用の手袋などを用意しておくとよさそうです。


●まとめ


 それではまとめていきましょう。


気に入った点


・質感が高く、格好良いボディー


・品質の良いアンチグレアと4Kの画面


・キャリーケースが付属


・立てめから寝かせめまでがっちり設置できる2つの内蔵スタンド


・カラープロファイルが提供されている


・高輝度表示に対応


難点になりえる点


・エントリー向けのペン性能


・ダイヤルの操作感のチープさ


・邪魔になりがちなケーブル位置


 ProArt Dispay PA169CDVは、「正確な表示を持ち運べる」という意味で非常に貴重なモバイルディスプレイです。高輝度のおかげで理想的な照明でない環境にも対応しやすく、多拠点や出先で制作/調整などをする必要があるときに心強いデバイスになるでしょう。


 また、タッチ操作に対応し、ペンも付属しているので必要に応じて手書きをしたり、UIをあちこち追い回したりする必要がある作業などを、マウスやトラックパッドよりも素早くこなすことができます。


 一方で、ペン性能はあくまでエントリーレベルになっており、ペンを使った制作が主な用途の場合にはコストの割り振りがアンバランスです。上記のような本機の強みが必要という事情がなければ、絵を描く用途には液タブを検討するのが順当でしょう。


 全体的にペンの利用を強く訴求した高価なデバイスとしては、野心的な作りや感心するような工夫もあるとはいえ、仕様の妥当性や完成度などはまだ少し、詰める余地があると思います。とはいえASUS独特のスタイリッシュなデザインや、所有欲を刺激する上質感は今でもかなり感じます。今後の製品も楽しみにして注目していきたいです。


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