『ぼっち・ざ・ろっく!』映画、なぜ人気? 漫画に「音楽」が重要なワケ

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2024年06月28日 13:21  ITmedia ビジネスオンライン

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『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!Re:』(出所:公式Webサイト)

 アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の劇場総集編前編である『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく!Re:』は6月7日の公開から3日間で興行収入2.1億円を記録し、週末の観客動員数と興行収入で1位を獲得した(興行通信社)。


【画像】「ぼっち・ざ・ろっく」ブームを支えた“功労者”たち(3枚)


 『ぼっち・ざ・ろっく!』は、はまじあき氏による人気4コマ漫画であり、2022年秋のTVアニメ放送でさらに支持を獲得した。漫画のテーマであるロックバンドから派生し、音楽面でも主人公たちが組むバンド「結束バンド」のアルバム『結束バンド』が2023年のオリコンやBillboard JAPANで上位を獲得するなど、人気を博している。なお、この「結束バンド」は9月から12月にかけてZeppツアー「We will」を開催する予定である。


 エンターテインメントの世界では、1つの作品を多様な形で表現することで、その魅力が増幅される現象がある。それを活用した手法がいわゆる「メディアミックス」であり、漫画からアニメ、そして映画へとチャネルを拡げていく手法はその代表例である。


 メディアミックスは『鉄腕アトム』の時代から現代まで数十年の歴史を持つが、昨今はこれらに加え音楽、そして音楽ライブを活用する例が増えている。メディアミックスにおける音楽の役割とは何だろうか? 考察してみたい。


●メディアミックスの枠を広げたターニングポイントは?


 メディアミックスとは、異なるメディアを組み合わせて1つのコンテンツを多角的に展開する戦略を指す。このアプローチは、特にエンターテインメント業界で効果的に用いられており、漫画、アニメ、音楽など、複数のメディアを通じて物語やブランドを拡張し、より広い層と接点を持つことが可能となる。


 また、先に述べたように漫画をアニメ化することは、日本のエンターテインメント業界におけるメディアミックスの最も一般的な形態の1つである。アニメ化により、原作漫画のビジュアルが動きと音声を伴って表現され、物語の世界観やキャラクターの活躍をより鮮明に、そしてダイナミックに視聴者へ伝えることが可能となる。


 よって、原作ファンのみならず、アニメから入る新たなファンを獲得することが可能となる。なお、本筋とは離れるが2010年頃からは小説(ライトノベル)のアニメ化も増えており、ライトノベル→漫画→アニメという流れのメディアミックスも増加傾向にある。


 音楽自体の活用は主題歌タイアップに代表されるように、アニメをきっかけに楽曲の売り上げを伸ばしたり、歌手の人気をアニメのプロモーションに活用したりすることはアニメ史初期から行われてきた。では、どのように現代のような音楽活用がなされてきたのか、簡単に「漫画・アニメ×音楽」におけるメディアミックスの流れを紹介する。


 主題歌のみならず、音楽をアニメのストーリーやキャラクターと密接に関わらせた代表例として、1980年代の『超時空要塞マクロス』がある。作中には多くの曲が登場し、作中のキャラクター「リン・ミンメイ」を演じる飯島真理が歌唱も担当した。マクロスの劇中歌、リン・ミンメイの歌がアニメの枠を超えてヒットしたことが、アニメ×音楽の枠を広げる1つのターニングポイントになったといえるだろう。


 以降、『めぞん一刻』や『らんま1/2』におけるキャラクター名義の楽曲の登場、作中キャラクター名義のキャラクターソングの増加、アニメ声優本人たちによる『サクラ大戦』のミュージカル化など、アニメ×音楽の領域は広がっていった。


 2000年代に入ると、さらに領域は拡大していく。女性客を多く取り込んだ『テニスの王子様』のミュージカル、ニコニコ動画を中心に人気を博した『涼宮ハルヒの憂鬱』の劇中歌・キャラクターソングなどが代表例だ。以前は奇異の目で見られていた“アニメ関連楽曲のチャート入り”が珍しいものではなくなったのがこの頃である。


 そのような時代で、音楽そのものをテーマとした作品が登場する。漫画・アニメにおける『けいおん!』、ゲームにおける『アイドルマスターシリーズ』である。『けいおん!』は女子高生によるバンド活動をテーマにした4コマ漫画およびアニメであり、出版社を同じくする『ぼっち・ざ・ろっく!』とは共通点も多い。『けいおん!』劇中のバンド『桜高軽音部』の楽曲やライブのヒットで市場を開拓したことが、『ぼっち・ざ・ろっく!』劇中のバンド「結束バンド」のヒットにつながっているといっても過言ではない。その他にも2010年代には『ラブライブ!』や『BanG Dream!(バンドリ!)』など、アニメ作品と音楽コンテンツを組み合わせた形態が定着している。


 経緯を振り返ったところで、「漫画・アニメ×音楽・音楽ライブ」というメディアミックスがどのように採用され、どのような効果をもたらしているか考察したい。


●「非日常消費」にいかに引き込むか


 まず、コンテンツを「消費者接点の形態」と「消費特性」の2軸で分類・整理する(図表1)。消費者接点の形態は、書籍や映像・音楽そしてグッズなど関連商品が並ぶ。特性は「日常」と「非日常」で分類する。映像で考えるなら、TVアニメや配信アニメは日常的に消費するものであり、映画館や応援上映は非日常消費となる。コンテンツマーケティングでは、この「非日常消費」へ誘導することが大きな鍵となる。


 コンテンツがまだ新しく、コンテンツそのものに非日常要素を持つ場合は別だが、日常的に消費可能なコンテンツとなった場合、そこからの大きな収益は見込みにくい。特に日本は映像の無料視聴環境が整っていることも影響している。


 漫画・アニメに明るくない人は、スポーツに例えると分かりやすいだろう。日常的に放送・配信しているプロ野球やJリーグを視聴している人は多くいるが、このチャネルから、各球団やクラブの収入に貢献する消費を行っている人はほぼいないだろう。


 しかし、いざスタジアム観戦となると、入場料や飲食の消費が見込める。スタジアムという非日常的な雰囲気も後押しとなり、グッズを購入する人も増える。これが非日常消費へ誘導する理由として代表的な例だ。


 「漫画・アニメ×音楽ライブ」も同様である。上述した漫画・アニメを元にしたライブイベントやミュージカルのイベントでは、アニメや映画で描かれたキャラクターの活躍が現実のステージで再現されており、ファンは作品の世界にさらに深く没入できる。それは先述したスポーツの例で示したように、会場限定グッズなどの関連商品への誘導も行いやすくなり、収益増へとつながる。また、このようなイベントはファン同士の交流を促進し、ファンコミュニティーの結束を強化する役割を果たす点も特筆すべき点だ。


 コンテンツを成功に導くには、上に提示した図のようにコンテンツ形態の軸と日常/非日常の軸で整理した面をバランスよく埋めていくことが重要となる。現在の市場環境では、日常消費だけでは十分な収益をあげられず、非日常消費だけでは認知度・知名度で後れを取るためである。


●2000年代に起きた変化


 漫画やアニメは長らく日常消費が中心であり、特に漫画における非日常消費は以前の記事にも触れたように、ほぼ存在しないといえる。


 しかし2000年代以降、エンターテインメント業界に大きな変化が訪れた。映画市場の拡大と「応援上映」という新しい鑑賞スタイルの登場により、映像分野での非日常的な体験消費が促進された。同時に、音楽ライブやミュージカルの人気も高まり、音楽領域でも非日常的な消費が活性化している。


 これらの変化により、エンターテインメント産業は新たな成長機会を獲得し、消費者により魅力的で没入感のある体験を提供できるようになった。『けいおん!』から『ぼっち・ざ・ろっく!』に至る音楽コンテンツの活用は、1つのモデルケースといえる。


 本稿では漫画・アニメ・音楽を中心としたメディアミックスについて考察した。この手法はエンターテインメント業界における作品価値の向上において重要な役割を果たし、ファンの期待を超える体験提供や作品の長寿化にも寄与する。


 時代の変化とともに新たな手法を生み出していかなければ、コンテンツの寿命は尽きてしまう。音楽に次ぐ新たな柱となる「形態」を開拓するのか、または漫画×非日常という新たな「特性」が開拓されるのか、興味は尽きない。


●著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 


 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。


 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。


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