良かれと思って行ったことが、相手から喜ばれるどころか、逆に迷惑がられるという本末転倒なケースがたまにあります。
そうなってしまうと、お互いに嫌な思いをせざるを得ません。今回は、ある男性の善意が警察沙汰になってしまったエピソードです。
◆趣味は休日のツーリング
都内の区役所に勤める新垣さん(仮名・36歳)の趣味は、休日のバイクツーリング。この日も沼津まで出かけ、旧友と久々の再会を楽しみました。
「友人とは幼なじみで、もともとは都内近郊で幼少期をともにした仲です。大学もキャンパスが近かったので、よく一緒に遊んでいましたね。しかし、彼が大学卒業後に沼津の水産関連会社に就職してからは、年に数回程度しか会えなくなりました」
社会人になる前は、全くバイクに興味のなかったそうですが、職場のバイクツーリング同好会に入会したことがきっかけで、バイクの魅力にハマったとのこと。沼津までの東名高速道路は、お気に入りのツーリングコースでした。
◆サービスエリアでのハプニング
友人との久々の再会を果たし、漁港で土産を買った後、復路の東名高速を走り始めた新垣さんは、途中で少し喉が渇いていたので、足柄サービスエリアに立ち寄りました。そこで思わぬ光景を目にすることになりました。
「自動販売機で飲み物を買って喉を潤していると、向こうのほうから髪の長い女性が小走りで近寄ってきて、私の隣に停めていた真っ赤なアメ車に乗って勢いよく出て行きました。カッコいい車だなと思いながらぼんやり見ていたのですが、ふと横を見ると、小さなボストンバッグが路上に置き去りにされていました。慌ててしまったために、足元に置いたことを忘れたんだと思います」
新垣さんは走り去るその赤い車を大声で呼び止めたそうですが、全く気づかれずに、勢いよくそのまま本線に進んで行きました。
◆気がついたら追いかけていた
「サービスエリアの案内所にでも届ければよかったのでしょうが、とっさにバイクなら追いかけられると思い、そのバッグを肩にかけて追跡し始めました」
とはいえ、飲み物をゴミ箱に捨てたり、ヘルメットを被ったりしてからの発車だったため、本線に合流したとき、視界の先に真っ赤なアメ車はどこにも見当たらなかったそうです。
「数キロ走ったのですが、全く追いつくことができませんでした。途中には出口もサービスエリアもなかったので、はるか前方を走っているだろうと思いますが、相当な速度を出していたと思います」
そこから5分ほど走行したところで、工事による車線規制の影響により前方の車が詰まり始めました。新垣さんは、ここぞとばかりに車両の合間をたくみに縫うようにして走行し、ようやく渋滞の前方に赤いアメ車を発見したといいます。
「もう少しで真後ろという時に工事区間が終わり、再び赤いアメ車はスピードを上げ始めたんです。私も逃すまいと必死に追いかけました」
◆残念極まりない展開に後悔
ようやく追いつくことができ、後ろからパッシングしたり、横に並んで手を振ったりしたそうですが、女性は一向に気づく気配を見せません。なんとか気づいてもらおうと、その後もしばらくは並走したり、クラクションを鳴らしたりしますが、思いもよらぬ事態に巻き込まれます。
「バックミラーを何気なく見たら、覆面パトカーの赤色灯が見えたんです。状況を飲み込めないまま、私の前方に割り込んだパトカーの後についていきました。どうやら、アメ車の女性が、あおり運転の被害報告を車内から警察へ通報していたようなんです。『えー、なんで……』と思いましたが、バッグを忘れたことに気づいていなかった女性は、私の追跡をあおり運転だと勘違いしたようです」
その後、少し先の非常駐車帯にバイクを停車させた新垣さん。降りてきた交通機動隊に赤いアメ車を追いかけた経緯を話すと、すぐに状況を把握してくれたようで、前方のサービスエリアで待機している女性の所までバッグを届けてくれました。
「人助けは良いことだと思っていますが、悪者になることもあるんですね。よい勉強になりました。バッグは持ち主に届けられたようなので、結果良しとします」
<TEXT/ベルクちゃん>
【ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営