なぜ? 「残業が半減」したのに「年収27%アップ」──元ブラック企業が取った、思い切った施策

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2024年07月02日 06:40  ITmedia ビジネスオンライン

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メンバーズ代表取締役 兼 社長執行役員 高野明彦氏

 「プロジェクトX」から数年。2009年には200人程度だった社員数は、2016年には385人にまで増加していた。


【画像】メンバーズ社の資料


 働き方のさらなる改善を目指し、2016年に掲げた「残業時間を50%減らしつつ、年収は20%アップ」という目標は、3年間でいずれも目標を上回る形で達成した。また、多くの上場企業が今なお実現できていない「女性管理職比率30%」を早々に成し遂げている。掲げた目標を次々に達成できた訳とは?


●ヒントは「思わぬ認識のズレ」にあった


 前編記事「オフィスに響く怒号──『経営危機のブラックIT企業』が『残業月15時間のホワイト企業』化した改革の中身」ではプロジェクトXを経て、Web運用事業への注力を掲げたことに触れた。Web運用は「人月単位」で支払いが決まるビジネスモデルだ。これを会社の柱に据えたことで、人材確保の重要性はこれまで以上に高まっていた。


 しかし、当時の同社は「そこそこいい会社」に過ぎなかった──と、現在代表取締役社長を務める高野明彦氏(「たか」ははしごだか)は話す。採用力で勝負できるほどでもなければ、離職率も狙い通りには下がっていなかった。


 「会社のことは、嫌いじゃないんですけど」。そう言いながら辞めていく社員たちの姿に、疑問が浮かんだ。社員は一体、どんな不満を抱いているのか。


 その答えは、経営陣の想定していないものだった。2015年度の同社の残業時間は28.1時間。同業他社と比べると少ない方だったことから「全然問題ないと考えていた」(高野氏)。しかし社員の話を聞いてみると、「月30時間の残業があると、子育てが難しい」「子どもを産んだら、復帰するのが難しい」との声があった。


 育児中の本人は時短勤務や定時退社ができたとしても、周囲が残業していれば「帰るのが申し訳ない」「やりづらい」という感覚が生まれる。本人だけが時短で働ければ良いわけではないと気付いた経営陣は、「みんなのキャリアと働き方改革」というプロジェクトを開始した。目標の1つとして「3年間で残業時間を半減させる」ことを打ち出した。2016年のことだ。


●「残業時間を半減」 クライアントワーク中心なのに、どう実現したのか


 かくして「残業半減」を掲げた同社だが、その事業はクライアントワークが基本だ。残業時間の削減は、顧客にも影響が及びかねない。どのように納得してもらうかが課題となる。


 そこで決めたのが、経営陣が矢面に立ち、顧客の理解を促進していく方針だ。レターを送付したり、業務フローを明確化して顧客の合意を取ったり。その際、「顧客側の生産性向上にもつながる」と丁寧に説明し、コミュニケーションを重ねていった。


 また、人事評価に「生産性向上目標」を設けた。個人の努力だけではなくチームで取り組むべきとの考え方で、チーム目標として定めた。


 前日までの残業時間を朝会で報告し、その日の残業の有無と時間を報告する。また、手元にある業務と所要時間を見える化し、マネジャーがアドバイスしたりチームで分担したりといった取り組みも効果につながった。全チームの目標として定め、日々細かくマネジメントしていくことで効果を上げていき、2018年度の残業時間は月平均で14.9時間に。3年間で半減させることに成功した。


●残業を減らす分、先にベースアップ 「人件費削減が目的ではない」


 こうして取り組みを進めていった同社だが、「残業時間削減」をめぐる企業と従業員の利害は、一般に必ずしも一致しない。社員の中には負荷が減ることを喜ぶ人も入れば、残業代が減ることを惜しむ人もいる。


 このため、その年の残業の削減目標に合わせ、先んじて段階的なベースアップを実施。「残業を月5時間減らす」ことを目標に掲げる年には、5時間分の残業代を上回る額をベースアップした。最終的に、2019年時点で社員の平均年収は27.5%上昇(2016年比)。目標を上回る形で着地した。


 「人件費削減を進めたいわけではないのだと、社員に分かってもらうことが重要だった」と高野氏は話す。会社が人件費アップを掲げている姿勢は嘘ではないと、誤解を防ぐ目的があった。


 会社側と従業員の認識のズレは、残業代以外の部分で実はすでに生まれてしまっていた。改革の実施に当たり、社員に希望年収を聞いたところ、経営陣は驚きを覚えた。社員たちの回答は「すでに受け取っているはず」の額だったのだ。


 認識のギャップは、ボーナスによって生まれていた。業績などによって上下する賞与は、安定的に入ってくるわけではないため、「受け取っている実感」を抱きづらかったのだ。このため、利益の半分を賞与の原資にする仕組み(詳細は前編参照)から個人評価に基づいて上下する形に戻し、変動幅を抑えた。


 背景には、会社としての規模拡大とともに社風が変化し、安定的な報酬が好まれるようになったこともあった。また当時は、新卒採用で拡大するフェーズだったが、新卒社員は戦力化まで時間がかかる。短期的に見れば利益を引き下げてしまうため、利益を上げたい社員との間で、利害の不一致を招いていた。この状況を是正する意図もあった。


●女性管理職比率30%も、2017年に早々に達成


 多くの企業が今なお課題を抱える女性管理職比率についても、30%の目標を2017年に達成。コロナ禍に先駆けて在宅勤務制度を拡充した他、ベビーシッター利用・延長保育などをサポートする制度や、こうした両立支援制度の利用を推奨する評価制度を導入した。利用した社員の同僚に対し、加点評価を実施するものだ。


 近年、男性の育休取得が一般化するにつれ、その同僚の負担がクローズアップされる機会が増えてきた。2023年には三井住友海上が育休社員の同僚に最大10万円を支給する制度で注目を集めたが、メンバーズでは女性管理職育成の文脈で早々に、子育て社員の同僚を対象に施策を実施していたのだ。


●社員2000人を超えても「全員参加型経営」 そのために


 2019年には、社員数が1000人の大台に乗った同社。さらなる急拡大で、2024年3月時点で社員数は2800人にも上る。


 その規模からして、経営陣の意向を社員に浸透させ、また社員のアイデアを活用していくのは容易ではないように思える。しかしタウンホールミーティングなどさまざまな手段で「全員参加型経営」の実現に注力しているという。例えばミッション・ビジョンの浸透のための研修では、所属部署にかかわらずごちゃまぜのチームを組成し、ビジョン実現のために必要な取り組みをプレゼンにまとめる。また、所属部署でミッション・ビジョンの実現のために何ができるか考えるワークショップも開催している。


 「大事なのはボトムアップ、あるいはミドルアップ。顧客専任型チームにしていますが、どんな体制を組んで何を顧客に提案するか、大抵のことはここで決められます。


 一定の仕組み化をしないと会社としての規模拡大と両立できない面はありつつも、『カスタマーサクセスのために、社員がいかに主体的に動けるようにしていくか』を大事にしていきたい」(同氏)


(小林可奈)


このニュースに関するつぶやき

  • だから岸田の「賃上げしたら法人税優遇」なんて政策は、ブラック企業への優遇措置だと言ったろ。もともと従業員に給与で還元していたホワイト企業には伸び代が無いんだよ。
    • イイネ!10
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