“完全0円”の格安SIM「みんギガ」が生まれたワケ 若年層のギガ難民を救えるか

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2024年07月02日 17:01  ITmedia Mobile

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月額0円でアンケートに答えると500MBのデータ容量が付与される「みんギガ」

 「0円」を打ち出す通信サービスは注目を集めやすい反面、採算が取りづらく、継続性には難点もあった。1年強で1GB以下0円を終了させた楽天モバイルは、その代表例といえるかもしれない。過去にはNUROモバイルの「0 SIM」もあった。現状でサービスを継続しているのは、povo2.0ぐらいといっていいだろう。そんなpovo2.0も、6月末でau PAY方式のギガ活を終了する。


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 このような状況の中、ユーザー対象をZ世代に絞って基本料0円を打ち出す新たなサービスが登場した。BAKERUが提供する「みんギガ」がそれだ。同社は、イベント企画や空間プロデュース、編集などを手がけるベンチャー企業で、通信サービスを提供してきた実績はない。そんなBAKERUがみんギガを提供できたのは、オプテージの運営するmineoの新規事業創出プログラム「DENPAto」を活用したからだ。みんギガは、DENPAtoから生まれた第一号のサービスになる。


 mineoはMVNEという位置付けでB2B2Cのサービスを展開する。一方のBAKERUは、ユーザーアンケートをリサーチに生かし、アンケートを依頼する企業から収益を得る仕組みだ。みんギガは、7月1日にβ版としてサービスを開始した。正式サービス化も視野に入れている。では、BAKERUはどのような目的でみんギガを始めたのか。mineoが同社を支援する狙いも聞いた。インタビューには、BAKERUの執行役員 正嵜亨氏と、オプテージで法人事業を担当するモバイル事業戦略部マネージャーの山下慶太氏が答えた。


●若い人に“ギガ”を提供することは、お金を渡すことよりも価値がある


―― 最初に、みんギガのサービスを始めようと思った経緯を教えてください。


正嵜氏 オプテージさんのやっているDENPAto(でんぱと※モバイル通信を活用した新規事業創出プログラム)の中で、新しい通信サービスを作れないかとお声がけをいただきました。われわれとしても新しいものが作れるのではないかと思ったのが、最初のきっかけです。mineoの中で面白いと思ったのが、マイネ王でお客さま同士がコミュニケーションを取っていたり、知らない人にも「パケットギフト」という形でデータ容量を渡せたりするような“つながり”ができているところです。この部分は通信サービスとして特異なところで、面白いと感じました。そういったものを転換すれば、何かサービスが作れるのではないかと考えました。


 その中で誰をターゲットにすればいいのかを考え、話題性も含めてZ世代に区切ることにしました。弊社は店舗業もやっていて、アルバイトには若い子もたくさんいます。その子たちから話を聞くと、やはり月末になるとデータ通信が使えなくなっている。インスタライブがあるから、どこか(Wi-Fiのあるところ)に入らなければという話や、「BeReal」(若者の人気が上昇している、盛らないSNS)の通知が来たけど写真が上げられないといった話を耳にしました。推し活にもデータ通信は必要です。


 そういった人たちに対し、“ギガ”を提供していくことは、お金を渡すことよりも価値があるのではないか。それを踏まえて、Z世代に向けに何かを作っていこうと決めました。ビジネスモデルをどうするのかはありますが、無料にできるのが一番いい。そのため、当初は広告モデルを考えていました。一方で、最近はポイ活のような流行もあり、リサーチ業界からは「Z世代の声を取るのが難しい」という話を聞いていました。そこを合わせたものができれば、サービスとして成立するのではないかという思いでみんギガを開発しました。


―― 発表した後の引き合いはありますか。


正嵜氏 今、まさに動いているところです。一般の方向けにはまだまだ発信できていませんが、対象になるコミュニティーごとにアタックをかけていたり、Z世代の会員を抱えている団体にお話をしたりはしています。そういったところからは比較的反響があり、一定の需要はあるのではということも見えてきました。


―― 企業側は、どういったところが利用するとお考えでしょうか。


正嵜氏 どの会社がというのは分かりませんが、アンケートの目的は大きく2つあります。1つは、マーケット調査的な形で意見を取り、サービスに生かすもの。もう1つはプロモーションとしてアンケートを取るというもので、どちらかといえばPR的な使い方でこちらが中心になると思っています。


 というのも、MVNOを使う方のリテラシーは一般的かというと、そうではないからです。もちろんそういう方々をターゲットにしたものを開発するときにはマーケット調査として使えますが、一般消費財を作る時の「n」(サンプル)として偏ったものになってしまいます。それを踏まえると、基本的には情報発信向けに使っていくようになると思います。


―― BAKERUさんは、今まで通信サービスを手掛けたことはなかったと思います。なぜこの分野に参入しようと思ったのでしょうか。


正嵜氏 われわれは、自分たちのことを「社会実験推進ベンチャー」と呼んでいます。社内には大きな領域として、コンセプトの店舗を作る部署と、編集プロダクション的な部署があり、前者の店舗を作る部署が今世の中にないサービスを開発しています。ただし、もともと店舗という場所よりも、コミュニティーをどう作っていくかに主眼を置いていました。コミュニティーを作る中で、通信サービスを提供するのは会社としても面白い事業になるのではないか。そう考え、初めて通信事業をやることになりました。


―― mineoさんにも伺いたいのですが、DENPAtoは法人向けのプログラムで、発表されたときにはIoT関連が多いのかと思っていました。一方で、第1弾はいわゆるB2B2Cの形でコンシューマーに提供されます。このような形は、事前に想定していたのでしょうか。


山下氏 ドンズバでこれと想定していたわけではありませんが、ビジネスモデルやエコシステムを転換できるようなものが出てきたらいいなと思い、このプログラムをやっていました。普通に法人に対して回線を売るだけでなく、法人のお客さまがマネタイズをすることでコンシューマーがメリットを享受できるようなものが何か出てくるのではないか。みんギガは、ちょうどそれに当てはまる面白い仕組みになっていると思います。


●容量追加オプションはなく、あくまでサブ回線での利用を想定


―― βサービスがこれからということなので、まだ細かなサービスペックが発表されていませんが、最初からついてくる500MBとアンケートでもらえる500MB以外に、ユーザー自身で容量を購入することはできるのでしょうか。


正嵜氏 今のところ、(容量追加のオプションは)設定していません。他のSIMをやめてこれにしてくださいというものではなく、2枚目として使っていただくことを想定しているからです。アンケートでデータ容量をためていただきつつ、月末にメインの回線が足りなくなった時に、お助け的に使っていただくことを考えています。


 SIMもeSIMオンリーで音声回線もありません。


―― なるほど。最初からeSIM対応端末の副回線狙いということですね。アンケートに1回答えると500MBで計1GBになりますが、頻度はどの程度になるとお考えでしょうか。


正嵜氏 少なくとも1人に対して月1回、2回は提供できるよう、準備をしていきたいと考えています。少なくとも1GBは配布できるようにしなければいけない。そのためには、企業側とユーザー側の人数をうまく調整する必要があります。


―― 初期費用もかからないんですよね。


正嵜氏 一切ありません。いわゆる販売ではなく、会員登録に近い形にする予定で、クレジットカードなどの登録もないようにします。


山下氏 見せ方としては、アンケートサービスに近い形になると思います。


―― データ容量ですが、繰り越しには対応しているのでしょうか。


正嵜氏 はい。1カ月繰り越せるようになっています。月末にアンケートが来たら、すぐ使わなければいけなくなってしまうので(笑)。


―― Z世代の意見を集めるという意味では、mineoが使ってもよさそうですね(笑)。


山下氏 はい。案外、若年層や高齢者層にとって、MVNOはハードルが高い存在です。アンケート機能を生かしながら、回線獲得につなげていければと考えています。


―― ユーザー獲得は、やはりオンラインでしょうか。


正嵜氏 基本はWebでの申し込みになります。広告を使って一般的に獲得していく方法と、既にコミュニティーを持たれている企業、団体に直接アプローチしていく方法の2つがあります。


●0円だが人数制限は考えていない ターゲットを変えたサービスも視野に


―― 過去に0円で提供した回線は、話題になってユーザーが集まったものの、収益性が悪いので帯域をなかなか増やせないということがありました。みんギガは、人数制限のようなことはお考えでしょうか。


正嵜氏 今のところは考えてないですね。


山下氏 基本的に、帯域はmineoの法人と同じものを使います。もし100万ユーザーが一気に入ったら話は別ですが(笑)、想定しているスコープだと、その帯域を圧迫するようなことにはなりません。もちろん、ユーザーが増えてくれば帯域確保や増強も考えていきます。


―― 逆に、アンケートは500人をサンプル数として挙げていますが、最低、このぐらいの数は取れるということですよね。


正嵜氏 はい。もちろん、殺到してほしい気持ちはありますが、数万の方が一気に入るわけではないと思います。じわじわと伸ばしていくことを考えています。


―― ちなみに、年齢を25歳までに区切っていますが、サービス提供中に26歳になったら強制解約でしょうか。


正嵜氏 それについては、今後設定したいと考えていますが、解約するのも……という気持ちはあります。また、今回はZ世代向けですが、同じような形でターゲットを変えたサービスも作っていきたい。そこに広げていければいいですね。


―― mineoはトリプルキャリアですが、回線は選べるのでしょうか。


山下氏 βサービスの検証時は、選べるようにするとユーザーインタフェースがややこしくなってしまうので、1回線です。正式サービス化のときには、ご相談することになります。やはりドコモがいい、auがいいという方はいらっしゃる一方で、2回線目でパケットがもらえるからそこまでは気にしないという方もいます。ただ、まだどこにするかは決まっていません。mineoはドコモとauが多く、eSIMに対応しているのもこの2回線なので、そのどちらかになると思います(※編集注:取材後、au回線のAプランのみに決定した)。


●β版は3カ月ほど運用する予定 課題を洗い出してから本サービスへ


―― BAKERUさんはアンケートを11万円で提供する予定ですが、調査費用としてはちょっと安くないでしょうか。


正嵜氏 リサーチに関しては、クライアントに調査票を作っていただき、それを流すだけにしています。こちらの手間をなるべくなくして、安いサービスにしていきたい。ユーザーさんが多くなるとアンケート数も増やさなければいけないので、なるべく多く、安く回していきたいと考えています。


 ちなみに、いわゆる大手の調査会社の場合だと、ちゃんと営業がついて調査票を作ってとやっていくので数十万円の金額がかかりますが、セルフ型だと11万円は相場に近いと思います。一方で、そういった調査はコミュニケーションがメールになることが一般的で、Z世代だと受け取らないという方も多い。われわれはLINEを使って連絡するようにしているので、そこは他の調査会社と比べたときの優位性になりうると考えています。


―― β版の後に取れて正式サービスに移行すると思います。βはどの程度続けていくのでしょうか。


正嵜氏 いったん3カ月程度グルっと回してみて、オペレーションをどうしたらいいかなどを洗い出してから本サービスを構築していきます。


―― その段階で、アンケートの対価を300MBにするといったスペック変更もあるのでしょうか。


正嵜氏 可能性としてはあると思っています。件数との兼ね合いで、調整していくことになります。


―― すごく細かなところですが、マイページのようなものも用意されているのでしょうか。


正嵜氏 それがまだありません。速度が遅くなったら気付くという(笑)。問い合わせをいただければお答えしますが、本サービスまでに作らなければいけないとは考えています。


―― 容量切れのSMSも飛んでこないのでしょうか。


山下氏 もともと、SMSがないデータSIMなので。


―― あ、そうでした(笑)。容量を使い切ったら、速度は128kbpsになるのでしょうか。


山下氏 256kbpsで、ここは法人向けのサービスに準拠しています。もちろん、絞ることはできましたが、128kbpsだと使えないサービスも増えてしまうので……。


●DENPAtoは実験の場 “アイドルSIM”の構想も?


―― 最後にDENPAtoについて、もう少し伺いたいのですが、みんギガの他はやはりIoT的なサービスが多いのでしょうか。


山下氏 というわけでもなく、DENPAtoは実験の場だと思っています。確かにイメージとしてはIoTデバイスにSIMを挿して使うのは法人ビジネスとして分かりやすいですが、エコシステムやビジネスモデル型のものはワクワクして面白いものが多い。スキーム自体の横展開も考えられます。みんギガを皮切りに、いろいろなものが出てくればいいなと思っています。


―― 他にどんなものを検討しているのでしょうか。


山下氏 分かりやすいIoT型のものでいうと、通信できるランタンがあります。想定しているのは災害時で、1キャリアだと使えなくなってしまうことがあるので、3キャリアのSIMを挿しておくことができ、Wi-Fiルーターになるというものです。これはコンシューマーに販売していくというより、自治体向けですが、デバイスのモックもできているのでニーズを調べていくところです。


 まだ実現していないサービスですが、「アイドルSIM」というようなものもあります。こちらはまだアイデア段階ですが、ビジネスモデルはみんギガと一緒です。アイドルは、地下アイドルまで含めると1万人ぐらいいるといわれていますが、その方たちが所属するプロダクションがアイドルにSIMを渡すことを想定しています。アイドルの行動はアパレルなどのグッズ開発をしているようなところが欲しがるからです。


 ただ、どんなサイトを見て、どこに行っているかというような情報は個人情報の観点で出せない。では、アンケートのような形にすべきかといったことを、壁打ちしながら考えています。頓挫しそうなものもありますが、7件ぐらいのPOCが進行しています。


―― やはりMVNOの法人ビジネスは、個人向けに比べると今後の成長余地が大きいのでしょうか。


山下氏 MVNOの業界は、常に新しいサービスが出てきています。mineoも解約率は低減しているものの、やはりユーザーの移り変わりは激しい。その意味で、みんギガは新規で使っていただける仕組みとして画期的です。今はZ世代に絞っていますが、クラスタの分け方やインセンティブ次第で、違う層にアプローチできると考えています。


―― DENPAtoは一風変わった法人向けサービスというようなイメージですが、いわゆる普通の法人向けサービスもやっていますよね。


山下氏 そこはもちろんやっています(笑)。メインの注力領域はIoTなどです。ただ、その領域はIIJさんが圧倒的に強く、営業や技術領域も含めて走っています。一方で、プラットフォーム型だとやはりソラコムさんが強い。どうやってうちの色を付けていくかを考えましたが、mineoはウェットでいろいろなチャレンジをしている。営業も関西色が強く、お客さまに近いところにしっかり入り込んでいます。そういった活動をしながら、長い目で見て回線が伸びてくればと考えています。


●取材を終えて:データ容量とリサーチ案件をどうバランスさせるか


 DENPAtoが発表されたときは、「お硬めなIoTサービスが出てくるんだろうなぁ」と感じていた筆者だが、みんギガを見て、その考えが大きく間違っていたことに気付いた。新規事業共創プログラムにゴーグルをかけたハトのキャラクターを使っている時点で、察するべきだったのかもしれないが……(笑)。いわゆるB2Bだけでなく、B2B2の形でmineoの枠に収まらない新たなサービスを作っていくのが、同プログラムの狙いだ。その意味で、みんギガはDENPAtoの実施目的を示す格好の実例ともいえる。


 無料で通信サービスを提供するMNOやMVNOは過去にもあったが、リサーチと組み合わせたビジネスモデルを採用している点がみんギガの独自性だ。ターゲットを絞り、2回線目に特化しているところも、これまでの0円回線との違いになる。一方で、ユーザー数や付与するデータ容量とリサーチ案件の数をどうバランスさせていくのかが、今後の課題になりそうだと感じた。ユーザー数が拡大しすぎると、かじ取りも難しくなる可能性がある。ここをどう解決していくかは、今後も注目していきたい。


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