「大谷翔平の打球音はショットガン」ドジャースタジアム場内アナウンサー、トッド・ライツが語る「SHOHEI OHTANI!」の衝撃

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2024年07月02日 17:20  webスポルティーバ

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 トッド・ライツさんはロサンゼルス・ドジャースのPA(PUBLIC ADDRESS)アナウンサーだ。スタジアムのいわば司会進行役で、試合開始30分くらい前から試合終了時まで、観客や参加者に対して重要な情報やアナウンスを随時行なっている。なかでもファンの耳に残るのは、試合開始前の力強いラインナップ紹介だ。

「And now, the starting lineup for your Los Angeles Dodgers, chosen by Dodgers manager Dave Roberts.Leading off shortstop number "50" Mookie Betts. Batting seconds, designated hitter number "17" Shohei Ohtani. Batting third first baseman number″5 "Freddie Freeman...」

 美声が球場いっぱいに響き渡るとともに、ファンの熱気と興奮が高まっていく。日本でテレビを見るファンも、試合中、大谷翔平の打順が回ってくるたびに「Designated hitter number "17" Shohei Ohtani」のアナウンスを耳にしているだろう。

 若い頃は、俳優としてTVやコマーシャルに出演していたというライツさんに、PAアナウンサーとしての仕事について、話を聞いた。

【「何度聞いても興奮させられる」】

――試合開始前、あなたが先発ラインナップを読み上げるとき、スタンドの5万人の大観衆が沸き上がります。

ライツ 私の仕事で、最も大好きな部分のひとつです。試合が始まるとき、そして試合中に「ショーヘイ・オータニ」とアナウンスしたとき、大観衆のうねりを感じます。私の声に反応して感情や反応がスタンドに波のように広がっていく。これまでに感じたことのない、もうひとつ上のレベルですね。

 私の尊敬する実況アナウンサー(TVやラジオの中継アナ)、ビン・スカリー氏は「大観衆の歓声やどよめきを聞きたくて、何十年もこの仕事を続けてきてしまった」と話していましたが、私もその気持ちがわかります。「ショーヘイ・オータニ」と叫んだ瞬間、人々の一体感に、スタジアムが揺れる感覚になる。何度聞いても興奮させられるし、ゾクゾクします。

――ドジャース1年目の大谷を見てきて、印象は?

ライツ 畏敬の念を抱いています。そして来年、二刀流として復活したらどうなるのかと思いますよ。投げては100マイル(160km)の剛速球、打っては誰よりも強くボールを叩いたかと思うと、バントでスピードを生かす。私の見たなかでは最高の野球選手だし、一生のうちにお目にかかれるかどうかというレベルの選手です。

 特に衝撃的なのは、ボールがバットに当たったときの音が、ほかの打者とまるで違うこと。ショットガンのような、非常に大きく、鋭い破裂音で、球場全体に響き渡る。近い音は、以前ドジャースにいたコディ・ベリンジャー(現在はシカゴ・カブス)の打球でたまに聞きましたが、翔平についてはすでにたくさん聞いています。

――ファンの盛り上がりは、これまでとは違いますか。

ライツ 大谷と山本が入ったことで、明らかに日本人ファンがスタンドに増えました。それは新しいグループで、1980年代前半のフェルナンドマニア(*1)を思い起こさせます。ドジャースのブランドが世界に広がり、MLBファンを増やすことができた。日本のファンは本当に野球が大好きで、熱心だと知っているので、彼らをこの球場にたくさんお迎えできていることがとてもうれしいですね。

*1/メキシコ出身の左腕投手。1980年にドジャースでメジャーデビューし、81年にはサイ・ヤング賞と新人王をダブル受賞、ワールドシリーズ制覇の原動力に。10年間の在籍期間で162勝を挙げ、ヒスパニック系アメリカ人の英雄的存在である。

【日本語のイントネーションで】

――日本人選手の名前をアナウンスするときに、気をつけていることはありますか。

ライツ 私が学んだのは、日本語の発音はイントネーションが英語とは異なるということ。英語は変化に富み、強調したい部分にアクセントを置きます。例えば「大阪」は英語だと「サ」の部分を強めるが、日本語は平坦に発音します。「ショーヘイ・オータニ」も英語では「タ」の部分を強めるが、日本語発音は変化が少なくリズムが一定で、一部を強めたりはしません。

 だから、私は日本語の発音をトライしたいと考えました。アメリカではすでに「タ」を強めるのが普通になっていますが、私は日本人の友達とも相談して日本語流でいくことに決めたのです。アメリカの人からは、「なぜ、そんなイントネーションなんだ?」と不思議そうに聞かれますが、これが日本語のやり方なんだと説明しています。

 ヒスパニック系の選手についても同じ流儀を貫いています。「キケ・ヘルナンデス」ではなく、「キケ・エルナンデス」とアナウンスしている。選手の母親がするのと同じように発音したいと願っていて、そこは努力している部分です。

――2015年からドジャースタジアムのPAアナウンサーを務めていますが、最高の思い出は? 2020年に世界一に輝いたときでしょうか。

ライツ あのシーズンは新型コロナウイルスのパンデミックで、ワールドシリーズはテキサス州での開催だったので、ドジャースタジアムの担当である私は、参加できませんでした。

 一番の思い出は、2018年のボストン・レッドソックス相手のワールドシリーズ第3戦で、18イニングの試合を制したときです。マックス・マンシーがサヨナラ本塁打を打って、終わったのは午前1時半くらい。セブンイニングストレッチ(*2)を7回と14回の2度やって、2度「TAKE ME OUT TO THE BALL GAME」(私を野球場に連れていって)を歌いました。私はマイクの前に9時間、ぶっ通しで座っていなければなりませんでしたが、今となってはよい思い出です。2017年、カブスとのナ・リーグ優勝決定戦第2戦で、ジャスティン・ターナーがサヨナラ本塁打を打ったのも印象に残っています。

*2/直訳すれば、「7回の背伸び」。メジャーリーグでは、7回表の攻撃が終わると観客が立ち上がり、体をストレッチしながら「TAKE ME OUT TO THE BALL GAME」を歌う習慣がある。

【「この球場で世界一の瞬間を味わわせてほしい」】

――PAアナウンサーになる以前のキャリアを教えてください。

ライツ 1985年からロサンゼルスに住んで、俳優としてTVやコマーシャルに出ていました。それから10年間、ラジオのニュースレポーターやアンカーを務めました。OJ・シンプソン事件(*3)の頃です。PAアナウンサーの経験はなかったが、2014年にサンディエゴ・パドレスがアナウンサーを公募していて、それに応募。1000人から始まる数カ月に渡る長い選考過程で、私は最後の3人に残ったが、結果は2番で選ばれませんでした。すごくガッカリしたけど、2015年にドジャースが新たに募集をしていて、採用されました。今年で10年目になります。

*3/元アメフトのスター選手の妻の殺害容疑を巡り、全米中の注目を集めた一連の騒動。1994年にシンプソンが逮捕され、翌年に裁判が行なわれた。

――子供の頃の好きな野球チームは?

ライツ ニューイングランド出身だからレッドソックスファンだった。ただトミー・ラソーダがいたドジャースは好きだった。1970年代後半から80年代初めのドジャースは強くて、よくワールドシリーズに出ていたからね。チームカラーのブルーも好きだった。

 その後、家族でカリフォルニアに移り、本当にドジャースファンになった。野球は大好き。子どもの頃は実際にプレーしていたし、大人になってからもソフトボールチームに所属し、同じリーグで34年間プレーしているよ。若い頃はパワーもスピードもあって、打球を遠くまで飛ばせました。

 今は60歳で、子どもと同じ年頃の若者と一緒にプレーしています。私は長く野球を愛してきたし、今も飽きることはありません。だからこの年齢で大谷のような今まで見たことがない高いレベルの野球選手に出会え、同じ球場で働けることがとてもうれしいです。

 PAアナウンサーである私は、常に選手を支える立場。チームの一員のように感じているので、選手が私の声を聞いて、士気が上がってくれれば、よりうれしいですね。

――スタジアムアナウンサーとして81試合のホームゲームはすべて担当しています。これまでに休んだことは?

ライツ 10年間で休んだのは6試合だけ。先月は結婚36周年でホームのコロラド・ロッキーズ3連戦は休みを取り、妻とバケーションを楽しんだ。それは例外で、基本これからも全試合働くつもりです。

――大谷選手は10年契約、彼の最終年まで、つまり70歳近くまで働けそうですか。

ライツ さて、どうなるかな。ひょっとしたら同じタイミングで引退したりするかもしれませんね。ドジャースに雇い続けてもらえるよう、これからもベストを尽くしていきますよ。

――最後に大谷選手に望むことは?

ライツ ドジャースに世界一をもたらし、この球場で世界一の瞬間を味わわせてほしい。そして優勝パレードでロサンゼルスの街を行進したいですね。

*  *  *

 ゲームが終わると、球場にライツさんのアナウンスが流れる。

「Thank you for attending tonight's game.Hope to see you back here at Dodger Stadium very soon. I am Dodgers public announcer Todd Leitz. Good night everybody.(今晩の試合に来てくれてありがとう。また、すぐにお越しください。私はアナウンサーのトッド・ライツです。みなさんおやすみなさい)」

 球場に来るファンは、ライツさんの声で盛り上がり、そして最後は見送られるのである。

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