『響け!ユーフォニアム』 最終話、京アニファン涙の理由ーー観客席にいた今は亡きアニメーターの存在?

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2024年07月04日 20:00  リアルサウンド

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『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』 (宝島社文庫)

 武田綾乃が高校の吹奏楽部を舞台に描いた小説「響け!ユーフォニアム」シリーズに待望の新刊『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』(宝島社文庫)が登場した。吹奏楽部を"卒業”した主人公の黄前久美子たちが卒業旅行に行く中編や、誰が久美子たちの次の部長になるかが描かれたショートストーリーなどを収録。久美子の3年次に登場したキャラクターで、TVアニメ『響け!ユーフォニアム3』でも“争点”となっている黒江真由に関するエピソードもあって、何者なんだといった論争を巻き起こしているその“正体”に、原作の立場から改めて迫ることができる。


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 黒江真由がいる。6月27日に発売となった『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』のアサダニッキによる表紙絵を見て感慨を覚えた人も多いだろう。黄前久美子と加藤葉月、川島緑輝、そして高坂麗奈の"北宇治カルテット"に真由も加わっていることが、全日本吹奏楽コンクールの後もしっかりと吹奏楽部の仲間として認められている表れだからだ。


 6月23日にTVアニメ『響け!ユーフォニアム3』の第十二回「さいごのソリスト」が放送され、そこで真由は、コンクールの全国大会でユーフォニアムのソリを主人公の久美子と競い合う立場として登場した。前後編で出た小説『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』(宝島社文庫)と立場は同じだが、その後の展開や結果に大きな違いがあったことが、原作を読んでいた人たちを驚愕させた。


 原作を読んでいない人も、違いがあると知っていろいろと考えた様子。TV放送に続いてネットでの配信が始まったあたりから、SNSのトレンドに「黒江真由」が上がるくらいの喧噪を巻き起こしている。小説や漫画をドラマやアニメとして映像化する際の"改変”が話題になっていることもあり、原作者の武田綾乃が放送直後にコメントを出してすべて了解していることを訴えた。今はとりあえず、もうひとつの『決意の最終楽章』として捉えようとする雰囲気になっている。


 ただ、ふたつの解釈が出てきた場合、どちらがより妥当なのかを考えたくなるのが人情だ。TVアニメに準拠した場合、原作における久美子のユーフォニアム奏者としての実力なり、真由のどこかつかみどころのない性格の裏側が、やはり気になってしまう。そこで、『決意の最終楽章』を読み返すと、久美子は全国大会に向けたオーディションで、しっかりと実直を発揮できる心情なり環境に至っていることが伺える。先輩の田中あすかを訪問してアドバイスをもらい、相思相愛の塚本秀一からも励ましを受けて気持ちを立て直し、全霊を込めてオーディションに臨んだことが伺える。


 真由は違ったのか。その答えになりそうな言葉が、『北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』の中で示される。「〜幕間・グラーヴェ〜」と題されたエピソードには、久美子の後輩で同じユーフォニアムを吹いている久石奏が、全国大会に臨むメンバーを決めるオーディションの後、真由に「オーディション、どの程度本気だったんですか?」と問い直す場面が登場する。真由は常々口にしてきた「久美子ちゃんを応援したいっていう私の本音は、無視されちゃうの?」という言葉を改めて持ち出し、そうした意識が演奏の"熱量"にどう現れるかも告げて、結果への満足感を示す。


 「〜幕間・アジタート〜」というエピソードには、奏との会話の中で真由が、「同窓会に呼ばれたいんだ、私」と言う場面が描かれて、どこか居場所を求めて止まない真由の心情を浮かび上がらせる。父親の仕事の都合で転校が多かった真由が、小学6年生で転入した学校で経験したことが綴られた「賞味期限が切れている」からも、繋がりを求めて止まない真由の性格が形作られていった過程が伺える。


 そうした思いを抱えて生きてきた真由が、北宇治高校に転入して3年生で吹奏楽部に入った時に、どれだけの葛藤を抱えていたかを改めて思うと、心にグッとくるものがある。原作の展開にも十分に納得がいく。そして、『北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』の表紙に"北宇治カルテット"に混じって描かれ、中編「未来への約束」の中で、沖縄へと演奏会も兼ねた卒業旅行に赴き、そこで久美子と恋バナを繰り広げる真由に、良かったねという言葉を贈りたくなる。TVアニメの方の真由にも、同じような未来がもたらされて欲しいと思えてくる。


 『北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』の読みどころは、もちろんそれだけではない。「新・幹部役職会議」と「旧・幹部役職会議」の2編で、久美子たちの次の代の部長や副部長、そしてドラムメジャーが決定する。誰になったかは読んでのお楽しみとして、決まってみれば納得の布陣といった印象を抱くこと請け負いだ。


 「○の中身はなんだろな」も面白い。久美子たちが3年生になり、新1年生として釜屋すずめや上石弥生、針谷佳穂が加わった低音パートが懇親会を開くことになり、2年生の鈴木美玲の家に集まってたこ焼きパーティーを繰り広げる。原作では『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』(宝島社文庫)、アニメでは『劇場版 響け!ユーフォニアム 〜誓いのフィナーレ〜』の中で練習して上手くなることだけにこだわっていた美玲が、そうしたレクリエーションに率先して加わっていることも意外なら、騒ぐ鈴木さつきや1年生たちに冷静に突っ込みをいれている姿もおかしく、親近感がグンと増す。


 卒業生への目配りもしっかりある。大学生になった吉川優子、中川夏紀、傘木希美、鎧塚みぞれの4人が車で旅行にでかける「ドライブ」というエピソードでは、優子の変わらない面倒見の良さが発揮されていたり、みぞれが音大で世間から隔絶された日々を送っているようで、意外な社会との繋がりを得ていたことに他の3人が驚いたりして、久美子たちとは違ったカルテットとしての楽しさを見せてくれる。


 フィナーレとなる「〜閉幕・パストラーレ〜」では、次の北宇治を担う2人の後輩に、久美子と真由が2人でプレゼントを贈り、後を託すストーリーがつづられる。長く続いてきたシリーズの本当の終わりといった雰囲気があって泣かされそうになるが、そこに麗奈ではなく真由がいることに、決して行きずりのキャラクターにはしないといった意識も感じられて嬉しくなる。


 もしもこの後、未来の北宇治のストーリーが紡がれるのなら、シリーズに登場したメンバーが誰ひとり欠けることなく登場して、旧交を温めてほしい。そんな奇蹟を願いたくなる1冊だ。


(文=タニグチリウイチ)


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  • 今更ながら12話見ました、トランペットに寄り添う、素晴らしい演奏だと感じたのは自分は2番でしたね。とはいえ、どちらもふさわしい演奏でした。
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