【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】王者・フェルスタッペンに綻びが見えた

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2024年07月05日 06:10  週プレNEWS

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「オーストリアGPでは久しぶりにフェルスタッペン選手の荒々しい走りを見た」と堂本光一

連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE11

F1はスペイン、オーストリア、イギリスの3連戦の真っ只中にあるが、第10戦のスペインは接戦のレース展開になったものの、最終的にはレッドブルのマックス・フェルスタッペンが優勝。王者の強さをあらためて見せつけたが、続くオーストリアではフェルスタッペンとマクラーレンのランド・ノリスが激しい優勝争いを繰り広げ、両者は接触。メルセデスのジョージ・ラッセルが今季初勝利を挙げた。

3連戦を締めくくるイギリスGPは、マクラーレンのノリスや、復調してきたメルセデスのラッセルとルイス・ハミルトンの地元。注目のイギリス勢は母国GPで王者フェルスタッペンを相手にどんなバトルを見せてくれるのか!?

* * *

【写真】オーストリアGPで優勝争いを演じたフェルスタッペン(手前)とノリス

■久々に荒々しいフェルスタッペンの走りを見た

第11戦のオーストリアGPはレース終盤、トップ争いをするフェルスタッペン選手とノリス選手が接触するという、衝撃的な結末となりました。レースの舞台となったレッドブルリンクでは、土曜日のスプリントレースや予選でフェルスタッペン選手が異次元の速さを披露し、おそらくライバルたちは「フェルスタッペンを倒すのは難しい......」と絶望したと思います。

決勝でもフェルスタッペン選手がスタート直後から圧倒的な速さを見せてトップを独走していたのですが、2回目のピットストップの際にタイヤ交換で大きくタイムロスし、背後からマクラーレンのノリス選手に攻めたてられる展開になりました。

大きなプレッシャーにさらされると、3連覇中のフェルスタッペン選手とはいえ、綻びが出てきます。2021年シーズン、自身初のタイトルを目指していたフェルスタッペン選手は、当時圧倒的な強さを誇ったメルセデスのルイス・ハミルトンを相手に毎戦のように激しいバトルを繰り広げていましたが、その頃には焦ってミスをしたり、攻撃的すぎるドライビングでクラッシュしたりすることもありました。

でも初タイトルを獲得した後、レッドブルのマシンの競争力がライバルを圧倒していたこともあり、余裕を持って戦えることが多かったのですが、久しぶりにフェルスタッペン選手の荒々しい走りを見ましたね。ただフェルスタッペン選手はあそこまで激しいドライビングで首位の座を守る必要はなかったのに......と感じました。

バトルの最中にノリス選手は、トラックリミット(コース外走行)違反で5秒のタイムペナルティが科される可能性がありました。実際に両者が接触した直後にノリス選手に対して5秒のタイムペナルティの裁定が下されます。フェルスタッペン選手は2位になってもノリス選手の後ろについていれば勝てたんです。やっぱりノリスに迫られてレッドブル陣営も冷静さを欠いてしまったのかもしれません。

■ラッセル選手の勝利はラッキーだけじゃない

トップ争いをしていた2台が接触し、ノリス選手は20位、フェルスタッペン選手はタイヤ交換を余儀なくされ5位に終わり、メルセデスのラッセル選手が優勝を拾った形になりました。

でも、ラッセル選手はマシンのポテンシャルをしっかりと引き出し、自分の置かれた状況の中で完璧なレースをしていました。今のF1は週末を通して、ドライビングはもちろん、戦略やピットワークなど、すべてをミスなく運ばないと優勝できないんだとあらためて思いました。

2位にはマクラーレンのオスカー・ピアストリ選手が入りましたが、彼も週末を通して速かった。予選では3番手タイムを出していましたが、トラックリミット違反で7番手に降着することになりました。それがなければ自身初の優勝に手が届いたかもしれません。

今、マクラーレンはどんなコースでも速い。開幕直後はちょっと不安でしたが、マシンのアップデートを重ねて、常に優勝争いをするレベルまで競争力を上げてきました。しかも毎戦、ノリス選手がこれだけ頑張ってくれると、チームの士気がさらに上がってくると思います。

マクラーレンとレッドブルの両陣営のタイトル争いはこれからさらにヒートアップしそうですし、ノリス選手とフェルスタッペン選手の人間模様にも目が離せません。ふたりはこれまで良好なライバル関係を築いていましたが、これからはコース外での心理戦が繰り広げられるかもしれません。

■ノリス選手の攻めの姿勢に感嘆

3連戦の緒戦となった第10戦のスペインGPでは、フェルスタッペン選手とノリス選手が優勝争いを展開し、最終的にはフェルスタッペン選手が今季7勝目を挙げました。スペインGPはアクシデントによってセーフティカーが出ることもなかったですし、タイヤ戦略が分かれたこともあり、すごく面白かった。しかもマクラーレンのノリス選手がレース終盤、ずっと首位を走るフェルスタッペン選手に追いつくために攻め続けていました。これぞF1だと感じましたね。

今のF1はシーズン中に使用できるパワーユニットの数(年間4基)が決まっていますし、タイヤもセーブしなければならないので、「今の順位を守ろうよ」というレース展開がどうしても多くなってしまう。スペインGPでのフェルスタッペン選手もレース序盤にトップに立ったあとは、ほとんどペースをコントロールしながら走っていたと思います。

ところが終盤にノリス選手がプッシュして追い上げてくると、レッドブルとフェルスタッペン選手はタイヤやエンジンを使ってでも、攻めるところは攻めるしかなくなっていました。そうすると、どんどんレッドブルにプレッシャーがかかる展開になっていった。本当に最後までスリリングでF1らしいバトルがそこにあったと思います。常にスペインやオーストリアのようなレースであってほしい。

スペインGPの舞台となったカタロニア・サーキットは長いストレートといろいろなタイプのコーナーが配置され、総合力が問われるサーキット。それぞれのマシンの実力がはっきり出るとはずだと前回話したのですが、逆によくわからない結果になってしまいました。

大がかりなアップデートを持ち込んだフェラーリやビザ・キャッシュアップRB(VCARB)が精彩を欠き、逆にマシンの改良をほとんどしていないアルピーヌが躍進します。メルセデスの力強さも予想外でした。スペインではハミルトン選手が3位に入り今季初の表彰台を獲得、ラッセル選手が4位でダブル入賞を果たしました。

メルセデスに比べてフェラーリ勢はパッとしなかった(シャルル・ルクレール選手が5位、カルロス・サインツ選手が6位)。スペインではレース中にサインツ選手とルクレール選手がチームメイト同士でやり合っていたのも心配の種ですし、ルクレール選手が無線でチームの戦略に対して不満をぶつけていたのも気になりました。

昨シーズンのフェラーリは、ドライバーとチームとのコミュニケーションがうまくいかず、無線で言い争いをしていたシーンを何度も見ました。それが今年は収まっているように見えるのですが......。フェラーリが優勝争いに加わるためにはマシン開発はもちろんですが、戦略、コミュニケーションなどすべてをうまく噛み合わせていく必要があると感じます。

■イギリスGPでアップデートの効果が明らかになる

ここ数戦、中団グループで好調なパフォーマンスを続けていたVCARBは、フェラーリと同様にスペインで大型のアップデートを投入しましたが、逆に失速してしまった印象です。今のF1はシーズン中のテストがありません。いきなり大きくアップデートしたマシンを持ち込んでも、セットアップを合わせこむのが大変なのでしょう。

スペインGPでのVCARBはフリー走行1回目で新しいリヤウイングが壊れたのも痛かった。それで旧型のウイングを装着することになり、マシンのバランスが狂ってしまい、迷走してしまったように見えました。

ただ、VCARBとフェラーリも新しいアップデートの分析が進んで、オーストリアでは少し速さを取り戻してきたように見えます。3連戦を締めくくるイギリスGP(決勝7月7日)では分析がさらに進んでセットアップが最適化され、スペインで投入したアップデートが当たりなのか外れなのか、はっきりと見えてくるはず。イギリスGPがどんな勢力図になるか楽しみです。
 
イギリスといえば、僕は先月ロンドンに行ってきて、ジョン(※)が演出する『千と千尋の神隠し』、それに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などのミュージカル作品やABBAのアバター・コンサート『ABBA Voyage』などを見てきました。ロンドンで吸収してきたことを今後、しっかりと還元できるようにしたいと思っています。
 
イギリスでは充実した時間を過ごせましたが、心残りがひとつあります。イギリスGPの舞台となるシルバーストン・サーキットに足を運べなかったこと。シルバーストンは1950年に第1回のF1が開催されたモータースポーツの聖地です。サーキット内には博物館があって、見学したかったんですけどね。その分、今週末のレースを楽しみたいです!

(※)ジョン・ケアード。イギリスの舞台演出家。堂本光一と井上芳雄が初共演したミュージカル『ナイツ・テイル−騎士物語−』の演出を務めた

☆こぼれ話☆

1957年、当時59歳だったフェラーリの創業者エンツォの波乱と激動の1年を描いた映画『フェラーリ』が2024年7月5日より全国で公開される。光一は本作の宣伝コメンダトーレ(レーサーやエンジニアがエンツォに対して親しみと敬意を込めて呼んだ愛称)に就任している。

「フェラーリといえば、成功した会社で、成功した人が乗って、きらびやかなブランドというイメージを持つ人が多いと思いますが、それだけじゃありません。エンツォは過去にはいろんな困難や苦労を乗り越え、今があります。そこが映画ではきちんと描かれています。フェラーリがほかの自動車メーカーと違うのは、レースに対する情熱です。映画の中でエンツォは『他のメーカーはクルマを売るためにレースをしているが、私はレースをするためにクルマを売るんだ』と語っていますが、レースにすべてを捧げています。だからこそ僕はフェラーリが好きで応援しているのですが、同時に自分の人生でこれほどの情熱を捧げられるものがあるのかな、と考えさせられた作品でした。クルマやレース好きはもちろんですが、それ以外の方でもエンツォの人間ドラマを楽しめると思います。ぜひ映画を見てほしいですね」

スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝)

構成/川原田 剛 撮影/樋口 涼(対談) 写真/桜井淳雄

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