なぜ、キャラクター商品は目を引くのか? 裏にある2つのマーケティング手法

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2024年07月05日 06:31  ITmedia ビジネスオンライン

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サンリオキャラクター大賞(画像:サンリオ プレスリリースより)

●連載:グッドパッチとUXの話をしようか


【画像】いろいろなキャラクター(計4枚)


「あの商品はどうして人気?」「あのブームはなぜ起きた?」その裏側にはユーザーの心を掴む仕掛けがある──。この連載では、アプリやサービスのユーザー体験(UX)を考える専門家、グッドパッチのUXデザイナーが今話題のサービスやプロダクトをUXの視点で解説。マーケティングにも生きる、UXの心得をお届けします。


 ハローキティをはじめ、数多くのキャラクターを生み出しているサンリオの「サンリオキャラクター大賞」をご存じでしょうか? ファン投票で450以上のキャラクターから人気No.1を決めるというもので、実は今年で39年目。


 昨年からその結果発表イベントが東京ビッグサイトで行われるほどの大規模になっており、今年は6月16日に発表されます。ここ数年は「ハンギョドン」「ポチャッコ」「タキシードサム」など、昭和に活躍した顔ぶれがトップ10に食い込む人気になっていることも話題になりました。


 現在サンリオだけでなく、さまざまなキャラクターを日常のあらゆるシーンで目にします。スーパーで売られている、子ども向けの菓子、大人が買うはずのふりかけやレトルト食品からコンビニや外食チェーン、鉄道や航空会社のキャンペーンなど……。


 筆者は過去、ヤフージャパンのトップページをユーザーが好みのテーマ(デザイン)に変更できる「ヤフーきせかえ」の事業責任者を務めていました。この経験を通じ、キャラクターがユーザーの高い支持を得ていることを実感してきました。


 なぜ、キャラクターはこんなにも幅広い年齢層から愛され、あらゆるところで活用されているのか。今回は、盛り上がりを見せるキャラクタービジネス、そしてそれを支えるキャラクターの魅力にユーザー体験の観点から迫ります。


●コロナ鎮静で後押し? 再成長するキャラクタービジネス


 日本でのキャラクタービジネスはここ数年で急速に進化し、多様化しています。2023年の市場規模は約2.5兆円に達し、前年同期比で約5%の成長を遂げました(矢野経済研究所「キャラクタービジネスに関する調査」より)。


 この成長を支える要因の一つに、アニメ化された『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』、特撮『ウルトラマン』、映画が公開された『ONE PIECE FILM RED』などのマンガ発のキャラクターはもちろん、SNSで話題に火が付いた「ちいかわ」や「おぱんちゅうさぎ」といった、バラエティに富んだキャラクターが活躍したことが挙げられます。


 文具やアパレルなどの商品化にとどまらず、キャラクターは飲食業界などでも多角的に展開されています。キャラクターカフェやテーマパークといった展開も、コロナ禍での行動制限の緩和により、前年度から一転して好調です。


 例えば、人気アニメ『鬼滅の刃』のキャラクター商品は、国内外で高い売り上げを記録。関連商品の売り上げは数千億円に上りました。直近ではたこ焼きチェーンの「築地銀だこ」が、アニメの第4期放送に合わせて4月末から3カ月間の大規模なコラボキャンペーンを実施し、キャラクターとコラボしたメニューや限定グッズを受注販売しています。


 すかいらーく系列のジョナサンとガストでも、5月から7月までコラボメニューとそのメニューを注文した際にもらえる限定グッズに注目が集まっています。


 回転寿司チェーンの「スシロー」は、アニメ『【推しの子】』とのコラボキャンペーンを展開しています。コラボメニューの人気を受け、コンビニの専売特許であった一番くじを実施するなど、キャラクターによる売上向上施策に力を入れている様子がうかがえます。


●なぜ、キャラクターは目を引くのか?


 キャラクターがマーケティング施策として商品に採用される要因として、キャラクターの圧倒的な視覚的求心力が挙げられます。どんな商品棚でも、文房具なら文房具、菓子類なら菓子類しか並んでいないところに、見慣れたアニメキャラクターがいたら目に飛び込んでくるものです。


 この現象には2つの心理学を応用したマーケティング手法が関係していると考えられます。1つは自分が関心のある特定の情報が、自然と目にとまりやすくなる「カラーバス効果」です。占いでラッキーカラーが赤だと言われると、その日1日赤いものが目にとまりやすくなるといった現象からこう呼ばれています。


 もう1つは日常生活において、違和感のあるものや特異な状況に自然と目がいってしまう「カクテルパーティ」効果です。周囲の環境が騒がしい中でも、自分にとって重要な情報や異常な事態を瞬時に察知し、意識がそこに集中することに由来しています。


 また、これは筆者が「ヤフーきせかえ」の事業責任者を担当していた頃に経験した実績からも言えることですが、キャラクターには「ブランド力」があります。


 同じ柄や装飾でも、そこに知名度の高いキャラクターがあることで「公式」のような信頼感を与えることができます。商品自体にブランド力がなくても、キャラクターが持つポジティブなイメージや認知度から、消費者は「これは安心できる商品である」と錯覚し、その商品を選択するのです。


 100円ショップでディズニーキャラクターの商品が販売されていると、通常の商品より「得だ」と感じたことはありませんか? ディズニーキャラクターのライセンスは通常の商品より高価であるという認知が広がっているため、このような感覚に陥るのです。


●キャラクターにストーリー性は必要か?


 冒頭でも紹介した『ONE PIECE』『SPY×FAMILY』『鬼滅の刃』などマンガやアニメから人気を集めたキャラクターには、そのストーリーから生まれる魅力が存在します。


 仲間とひたむきに夢を追うルフィの姿勢に感銘を受けますし、かわいらしい見た目と声を持つアーニャには母性のような愛着を感じます。


 キャラクターにストーリーがあることで、そのキャラクターへの共感性が増し、愛着を覚えやすくなる効果があるのではないでしょうか。実はキャラクタービジネスのパイオニアであるディズニーも、基本的には出自となるアニメストーリーがあり、そこで強固に設定されたキャラクターの性格が存在します。


 一方で、日本のキャラクタービジネスを支えてきたサンリオのキャラクターたちには、出自となるメディアは存在しません。


 いくつかのキャラクターは誕生後にアニメ化しているものもありますが、アニメやマンガから派生してキャラクターが人気になっているわけではないのです。かの有名なハローキティですら、最初期は名がなく暫定的に「名前のない白い子猫」などと呼ばれていました。姓にあたる「ホワイト」は後の設定変更で付け加えられたものです。


 大人になってもサンリオキャラクターを支持するファンの心理を考えてみると、子どもの頃から親しんできた存在から過去の楽しい思い出や安心感が呼び起こされたり、かわいらしい見た目や優しいフォルム、色使いなどのデザインから安らぎを得られたりすると考えられます。


 こうした魅力から、日本のみならず世界中で愛されるキャラクターを多く生み出してきたサンリオですが、ビジネスでは厳しい低迷期も経験しました。2000年頃の第1期ブーム、2011年頃の第2期ブームが過ぎ去ってから、市場の変化と競争の激化により、従来のキャラクター展開だけでは消費者の心を掴むことが難しくなったのです。


 この背景には、先述の通り、ストーリー性を強く持ったキャラクターたちのヒットが影響していると考えられます。特に、デジタル化の進展とともに、アニメや漫画がスマホで自由なタイミングで閲覧できるようになったことや、スマホゲームとのコラボレーションによりキャラクターとユーザーの接点がこれまで以上に増えたことも要因の1つになっているでしょう。これによりサンリオの売り上げは徐々に減少していきました。商品の多角化や新たな市場開拓に挑みましたが、結果は苦戦……経営は厳しい局面に立たされました。


 ところが、その後の2022年から、同社は7期続いた減収減益をV字回復と呼べるまでに成長させました。この背景には、2020年に社長へ就任した辻朋邦氏が主導した組織改革により、マーケティング専任部署を設立したことがあるといわれています。


 それまでサンリオは、ハローキティの大ヒットによりライセンス事業の営業がしやすく、長くマーケティング専任の部署がありませんでした。マーケティング部署が設立されてからは、しっかりとキャラクターのポートフォリオを作成し、長期的な観点でブランディング施策が検討されるようになったそうです。


 また、辻社長のインタビューでは、もう1つの大きな組織改革として、経営チームへの若手社員の登用も挙げられています。デジタル化に伴うエンターテインメント業界の急速なトレンド変化についていくため、70代の経営メンバーの退職を機に経営チームの平均年齢を15歳も引き下げたそうです。


 ユーザー参加型のイベントやキャラクター開発、Web3、教育コンテンツといった展開を始めており、これが成功すれば、さらなる成長も想定されます。


●出会いから寄り添い続ける一貫したユーザー体験を


 筆者がキャラクター人気に大きく支えられた「きせかえサービス」を運営していた当時、上司からこんな例え話を聞いたことがあります。「普段から弁当を持って行く人にはキャラクターの弁当箱が売れる。一方で、弁当を持つ習慣がない人にはキャラクターがついているからといって弁当箱は売れない」


 キャラクターは、商品を選んでもらう理由やその商品への愛着にはなれど、買う必要がないものを買う理由にまではならないということです。


 キャラクターの視覚吸引効果によって、その商品に一時的に興味を持たせることはできます。ただ、その商品自体に十分な魅力がなくては、購入はもちろんファンとして継続的な購買につなげるのも難しいでしょう。さらに、キャラクターの人気は一過性であり、世代やトレンドの変化を考慮すると、その効果は良くも悪くも変化しやすいものであると捉える必要があります。


 キャラクターに限らず、視覚吸引効果の高いものがマーケティングに活用されているケースは多く見受けられます。しかし、一時的な視覚吸引による購入を期待するのではなく、商品を使い続け、ファンになるほどの愛着を持ってもらうためにはどうすべきか。マーケティングフェーズと一貫した商品自体の魅力創出や長期的に接点を継続させる体験設計が求められます。


 マーケティング施策とロイヤルティ施策を切り離して考えるのではなく、ユーザーを起点にキャラクターの接点と関係作りを考えることが、安定した売上向上につながることは間違いありません。


●著者紹介:秋野比彩美


株式会社グッドパッチ UXデザイナー。ヤフーでUIデザイナーとしてキャリアをスタートし、トップページの事業責任者を経験した後、大手通信企業のグループ会社でUXデザイナー兼組織マネージャーとして、クオリティー管理、UXデザイナーの採用と育成に取り組む。グッドパッチにUXデザイナーとして入社後は、インサイトリサーチ、ユーザーリサーチ領域をリードしている。趣味は飼っているうさぎを愛でながら、ビールを飲むこと。


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