従業員の“恐怖心”がイノベーションの妨げに 経営層が参考にしたい思考法

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2024年07月05日 07:31  ITmedia ビジネスオンライン

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従業員の“恐怖心”がイノベーションの妨げに

 あらゆるイノベーションにおいて、初期のアイデアがそのまま成功することは非常にまれです。ほとんどの場合、試行錯誤の過程は避けて通れません。新しい製品やサービスを開発し、発売までたどり着くためには、挑戦と失敗のプロセスを何度も繰り返す必要があるのです。


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 イノベーションを成功に導くには、その失敗をプロセスの一環として受け入れ、挑戦し続けなければなりません。今回の記事では、未来のイノベーションを起こすために失敗がどのような役割を果たすのかを検証していきます。


●試行錯誤は発見への道


 イノベーションはその性質上、未知の領域に踏み込むことを伴います。真のイノベーションにたどり着くまでの過程が直線的であったり、予測可能であったりすることはなく、多くの人が試行錯誤と改善を繰り返しながら成功へ向けて少しずつ進んでいくのです。


 試行錯誤の過程で必要なのは、失敗を「挫折」と捉えたり単に受け入れたりするのではなく「貴重な情報」と捉え、失敗を学びの手段として積極的に取り入れることです。なぜ失敗したのか、うまくいかない原因を明らかにし、成功への道筋を探っていく必要があります。


 さまざまな業界における画期的な革新は、数多くの失敗を経て発見されています。つまり一つ一つの失敗が、イノベーションへの足掛かりとなっているのです。失敗をマイナスの結果と捉えず、成功に向けた不可欠な要素と考えることはイノベーションの基本です。


 最終的な結果だけでなく、成功までの過程にも焦点を当てれば、企業に実験的な文化が育まれます。複雑で進化のスピードが速い分野ほど、実験的な文化が重要です。もちろんこうしたアプローチには正しい答えは用意されていません。試行錯誤を繰り返し、企業ごとの最適解を見つける必要があるのです。


●失敗から学ぶ姿勢を後押しする


 先ほど述べたように、イノベーションのプロセスにおける失敗は、絶好の学びの機会となります。理論だけに頼っていては知り得ない新しい知見を得られるはずです。成功するイノベーターの多くが失敗を分析し、失敗から学び、その教訓を今後の取り組みに生かしています。つまり「賢く」失敗しているのです。


 イノベーションを成功に導く「行動」「フィードバック」「学習」「改善」の継続的な過程を通じ、自らの業界や顧客ニーズ、市場の変化に対する理解を深めていけるのです。


 失敗から学習することは、変化の著しいビジネス環境で長期的な成功を収めるための「レジリエンス」(回復力)と「アダプティビティ」(適応力)の醸成にもつながります。ここで言う学習とは、うまくいかなかったことを修正するだけでなく、「なぜうまくいかなかったのか」を理解することを意味します。そうすることで、より大きなイノベーションをもたらす能力を育て、将来の課題を予測、軽減できるようになるのです。


 失敗を学びの源泉と捉えれば、企業はより強固で持続可能な進化を遂げられるのです。


●積極的にリスクを取る文化を醸成する


 しかし失敗は誰にとっても怖いものです。失敗に対する恐怖心は、イノベーションにとって大きな障害となります。なぜなら、失敗を悪と捉えることで、大胆な発想よりも安全や順応を優先する環境が生まれるからです。Miroが実施した調査では、経営幹部の62%が「恐怖心が企業におけるイノベーションの妨げになっている」と回答しています。


 つまりイノベーションを起こすためには、従業員が恐怖心を感じない環境を整えることが大切です。失敗を当たり前のものとして扱い、失敗を学びのプロセスに不可欠な要素と見なすことで、リスクを取るための“安全な空間”が生まれます。


 こうした視点の転換により、従業員は、失敗に対する罰を恐れることなく自身のコンフォートゾーン(心理的な安全領域)から一歩踏み出し、今までにないアイデアを探求できるようになるでしょう。


 多くの優秀な人材は、クリエイティブな自由さと個人の成長を促す職場に魅力を感じています。社内に優秀な人材が増えることで、ダイナミックで革新的な組織となることは周知の事実です。積極的にリスクを取る文化は、優秀な人材を引きつけ、つなぎ留めるきっかけにもなるのです。


 ここまでリスクを取る重要性について触れてきました。一方で、さまざまな数字や評価を気にしなければならないビジネスシーンにおいて、リスクを取ることは「時間の無駄」と感じた読者もいるでしょう。


 しかし、リスクを取るための余白を確保することは戦略的な動きと言えます。短期的な不確実性を上回る“長期的な利益”につながります。計画的にリスクを取ることが推奨された環境であれば、従業員が会社を発展させる画期的なアイデアを思い付く可能性が高くなるでしょう。


●初期のアイデアや試みが完成形であることは、ほぼない


 成果を求められるビジネスシーンでは、最初から「完璧」を求めてしまいがちです。もちろんその姿勢は重要ですが、すぐに完璧なものを生み出せません。ここにも試行錯誤の過程が生じます。


 完璧を導くには長いプロセスが必要で、「完璧が出発点ではない」と認識することで、成功するまで継続的に試し、改善することが苦ではなくなるはずです。


 この考え方は、イノベーションを生み出す過程において極めて重要です。この考え方を持っていると、たとえ最初の試みが結果につながらなくてもチームのモチベーションと集中力を維持できるようになります。最終的にブレークスルーをもたらすのは、何度も改良を重ねる粘り強さです。


 「完璧が出発点ではない」という考え方は、イノベーションを生み出す環境の醸成にも役立ちます。優れたアイデアはどこからでも生まれる可能性があり、アイデアを完全に発展させるには、時間と労力が必要であると認識できるからです。


 繰り返し試行錯誤するプロセスを重視することで、組織はより幅広いアイデアや解決策を受け入れ、時間をかけて改良、改善できるでしょう。イノベーションの質を高めるだけでなく、開発プロセスに多様な視点をもたらすはずです。


●失敗を再定義する


 ここまで述べてきたように、失敗を「学びと試行錯誤のプロセスの一部」と考えることで、失敗の概念は根本から再定義されます。失敗は成功の対極にあるのではなく、成功するための不可欠な要素なのです。


 こうした視点を持つことで、イノベーションに対してより系統立ったアプローチが可能になります。失敗を含めた全てのステップが、イノベーションの実現に貢献しているのです。企業は、英知と先見性を持ってリスクを取ることで、影響力のあるイノベーションを推進できるのです。


著者:関屋 剛(ミロ・ジャパン合同会社 Head of Japan Sales)


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