ユーロ2024で市場価値爆上がり中 ニコ・ウィリアムズはこうしてブレイクした

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2024年07月05日 07:40  webスポルティーバ

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 スペイン代表のニコ・ウィリアムズ(21歳、アスレティック・ビルバオ)は、現時点で「ユーロ2024で最も価値を高めたアタッカー」と言える。

 今や欧州のトップクラブが、こぞってニコに食指を動かしている。プレミアリーグだけでも、リバプール、アーセナル、チェルシー、トッテナム、アストン・ビラがご執心。パリ・サンジェルマン、ユベントスなども興味を示しているという話だ。

 一番、熱心なのがバルセロナだという。スペイン代表で攻撃の対角を成すバルサの新鋭ラミン・ヤマルと、ニコは大の仲良し。また、同じバルサのフェルミン・ロペスとはプレーステーション仲間だし、ペドリは同世代でよくふざけ合っている。

「ジョアン・ラポルタ会長(バルセロナ)から、選手たちが"囲い込み指令"を受けているんじゃないか?」

 そんな噂が広がるほどだ。

 たしかに、バルサは歴史的にアスレティックの選手が比較的多く活躍し、関係性は悪くない。今もクラブ間で選手の行き来がある(2023−24シーズンはイニゴ・マルティネスがアスレティックからバルサへ移籍するなど)。ネイマール以後、バルサは右利きの左サイドアタッカーを追い求めていることもある。

 しかしながら、ニコは昨年12月、アスレティックと新たな契約(2027年6月末まで)を更新している。それだけに本人も、「今はユーロに集中している。自分にとって、アスレティックが自分の家だよ」と移籍騒ぎに釘を刺した。ただし、移籍違約金は5800万ユーロ(約100億円)と言われ(久保建英よりも安い)、ビッグクラブにとっては"お買い得"なのだ。

 市場価値爆上がりのニコの正体とは?

 今大会、ニコは爆発的スプリントで主に左サイドを切り裂いている。時速36.5キロの俊足もさることながら、スタート&ストップの緩急差が特徴だろう。トップスピードでの両足ボールコントロールにも優れ、瞬間的に相手を置き去りにできる。縦への推進力だけでなく、カットインから切り込むプレーもあり、マーカーに次のプレーを読ませない。

【バスクの教育と土壌が奏功】

「AVION」

 前スペイン代表監督であるルイス・エンリケは、代表デビューさせたニコを「飛行機」と喩えていたが、規格外のスピードスターだ。

 ニコはガーナから移住してきた両親の息子である。パンプローナで生まれ、地元クラブで頭角を現し、11歳の時にオサスナの育成組織タホナルに入団した。ただ、次の年には名門アスレティックの育成組織レサマのオファーを受け、兄イニャキ・ウィリアムズ(アスレティック)がすでに有力なユース契約を勝ち取っていて、母親も含めてビルバオに引っ越すことになった(父はロンドンで働いていた)。

 着実にカテゴリーをステップアップしたニコは、2021年4月にトップデビューを果たしている(アスレティックはバスク人純血主義を信奉しているが、バスク地方で育成年代を過ごせば"バスク人"と認められる)。クロスからのゴールが伝統のチームで、強度や精度が鍛え上げられた。また、バスク独特の教育と質朴さを求める土壌が功を奏し、闘士に育った。

 2022−23シーズン、ニコは10代で定位置を奪うも、スペイン国王杯準決勝で敗れた後に戦犯につるし上げられ、ネットでも炎上している。苦難を過ごしたが、兄イニャキの支えは頼もしく(ちなみに兄はガーナ代表を選択)、2023−24シーズンは奮起。国王杯で3得点5アシストと暴れ回り、優勝を決めたマジョルカ戦後はMVPに選ばれ、雪辱を果たした。

 現時点では、ゴールよりもチャンスメーカーの要素が濃い。実はラ・リーガでも1、2を争うアシスト数を記録。レアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオールをも上回る数字だ。

 そして、まだ化ける力を秘めている。

「ニコは、友達と公園でボールを蹴るようにプレーする。そのポテンシャルは計り知れない」

同じ左サイドを担当するマルク・ククレジャ(チェルシー)は、ニコのダイナミックなプレーに感嘆の声を上げる。

 2022年カタールW杯ではスーパーサブという立場だったニコは、今回のユーロで攻撃の主役に成長している。グループリーグのイタリア戦では守備を伝統にする相手を翻弄。ラウンド16のジョージア戦も、同点弾は彼がマークを引きつけたうえ、預けたボールをロドリ(マンチェスター・シティ)が放り込んだもの。3点目は自らロングカウンターで抜け出し、GKの頭上にボールを突き刺した。

 迎えるドイツ戦、ニコは左サイドでジョシュア・キミッヒとマッチアップすることになるだろう。老獪なディフェンスで対処してくるだろうが、ボールが足元に入ったら、ニコの突破は止められない。相手が一歩下がったら、精度の高いクロスを両足で入れ、あるいはワンツーから抜け出す。手数は多く、技は次々と生まれる。

 ヤマルとのプレーは以心伝心で、対角同士で通じ合っている。どちらかのアシストで、どちらかのゴールが決まるかもしれない。両サイドから万力で押し潰す攻撃だ。

「ドイツ戦はインテンシティの高い勝負になるだろう。僕はやる気に満ちているよ」

 ニコはそう言って臨戦態勢に入った。無邪気な好奇心と奔放な野心が、彼の成長を加速させる。

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