人生は勉強だから、いろいろなことを学ばないと

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2024年07月17日 08:11  @IT

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後日送っていただいた結婚式(の準備中)の写真

 国境を越えて活躍するエンジニアにお話を伺う「Go Global!」シリーズ。前回に引き続き、今回もシステムの開発、保守を担う、システムエンジニアのHamel Fitri(ハマル・フィトリ)さんにお話を伺った。フィトリさんが思う「日本語ができないと特に大変なこと」とは何か。


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 聞き手は、AppleやDisneyなどの外資系企業でマーケティングを担当し、グローバルでのビジネス展開に深い知見を持つ阿部川“Go”久広。


●仕事とは思えないくらい楽しい日々


阿部川 “Go”久広(以降、阿部川) 現在(2024年4月当時)はどんな仕事をしていますか。


Hamel Fitri(ハマル・フィトリ、以下、フィトリさん) システムエンジニアとして、自社のプロジェクトを担当しています。エンジニアと案件をマッチングさせるWebサイトの保守をしています。「エンジニアがやりたいこと」によって案件とエンジニアのフィルタリングを厳しくして、よりマッチしたものだけ選ぶようにしています。将来は恐らくAI(人工知能)を使うことになるでしょう。


阿部川 (2024年4月で)仕事を始めてから4年目になりますね。その間はどんな仕事していましたか。


フィトリさん コロナ禍のときに仮想空間の会議室を作りました。「Unity」のエンジンを使ってVR(仮想現実)空間を作ったんです。先生として後輩たちに教える役割でした。他には金融系システムにも携わりましたね。


阿部川 問題解決が好き、というお話だったかと思いますが、そういった仕事の中で「問題解決の楽しみ」は感じられていますか。


フィトリさん 全ての仕事が何らかの問題解決なので、むしろ仕事として感じられないですよね。とにかく楽しくて。日本に来て良かったです。


阿部川 良かったですね。でも、しばらくしたらマレーシアに戻りたいでしょう。最近はいつマレーシアに帰りましたか。


フィトリさん 2023年です。4年ぶりでした。全てが変わっていましたね。


阿部川 4年たったらみんな変わりますよね。マレーシアに貢献したいし、ご家族もいらっしゃるし。でも目標があるから、今すぐに帰ることはまだできないといった感じでしょうか。


フィトリさん でも具体的にマレーシアに戻る計画はあります。実は2024年4月に結婚するのです。


阿部川 おめでとうございます! それ、最初に言っていただかないと(笑)。


フィトリさん ははは。4月にマレーシアで結婚式を挙げた後、妻と一緒にまた日本に戻ってきます。私だけだったら日本で長く生活できると思いますが、彼女のことを考えると、頃合いを見てマレーシアに戻った方がいいと考えています。


阿部川 奥さんは日本に来たことがあるのですか?


フィトリさん いえ、ありません。実は私もまだ彼女と会ったことがないのです。マレーシアではマリッジメールしかやっていません。母が奥さんを探して、私に紹介して、結婚する、という流れです。


阿部川 じゃあ、結婚式で初めて会うわけですね! でも、オンラインで話はできるんですよね。


フィトリさん ちょっと厳しいですね。ビデオ通話はダメで、メールしかしちゃいけないんです。


少し調べたところ、ムスリムは、親が結婚相手を探すのが一般的とのことです。イスラム教の教えとして、結婚していない男女が遊びに行ったり手をつないだりすることは推奨されないそうで、ビデオ通話すらダメな理由はそこにあるようです。びっくりしましたが、ムスリムの慣習的にはそこまで異例なことではないみたいですね。


阿部川 なんかドキドキしますね。俺がドキドキしてどうすんだって話ですけど。いやー、おめでとうございます。奥さんと一緒に素晴らしい家庭を作ってください。きっとマレーシアに戻ってからも日本の仕事の経験は役に立つと思いますから。


 ちなみに日本で仕事をしていて印象に残っていることはありますか。


フィトリさん 真面目なところですね。仕事をするときもインテグリティ(誠実さ)が高いと感じます。良いエンジニアになりたかったら、インテグリティが大事だと思います。


阿部川 個人的には真面目過ぎるのは問題だとは思いますが、確かに日本人の強いところだとは思います。真面目であったり誠実だったりというのはとても大事ですね。


フィトリさん マレーシアの“ルックイーストポリシー”の目的は、そういった日本の仕事のやり方をマレーシアに持って帰ってほしいということですからね。


阿部川 フィトリさんのように、日本で学んで、マレーシアに戻って、日本で学んできたことをマレーシアのために使うというのは、面々と今も続いているんですね。


●来日するなら「日常会話レベルの語学力」と「コミュニティー」が大切


編集鈴木 マレーシアのことについて教えてください。先ほどのお話ではITに進学した方が国のためになるということでしたが、今は政府としてもITを主要産業にしようと力を入れているのでしょうか。


フィトリさん そうですね、最近のマレーシアは、ITがもっと広まるように、業界だけじゃなく、学校でもITやインターネットを普及させようという動きが活発です。


編集鈴木 もう1つ。まずは、ご結婚おめでとうございます。(ありがとうございます)。結婚したら、奥さんは日本に来て一緒に日本で暮らすことになるんですよね。奥さんは、初めて会う旦那さまと初めて暮らす国で、よく知らない日本語に囲まれて暮らすことになりますが、その奥さんに、「日本で暮らすときはこういうところがマレーシアと違うから注意した方がいいよ」とか「こういうこと勉強した方がいいよ」などのアドバイスとはありますか。


フィトリさん 初めての日本での一人暮らしは寂しいよ、ということですかね。でも奥さんの場合は私がいるからその点は問題ありません。後は、日常会話ができるくらい日本語が分かっていた方がよいですね。日本に来てから勉強を始めるのはちょっと危ないと思います。


編集鈴木 英語が話せてもダメですか?


フィトリさん ダメですね。例えば銀行の書類は全て日本語なので、英語だけだと若干厳しいですね。実際、私もそういう経験をしました。


編集鈴木 奥さんは日本語を勉強中ですよね? 大丈夫ですか。


フィトリさん 私のことを信頼してくれているので、私に100パーセント任せてくれます。


編集鈴木 責任重大ですね。けんかしちゃったら大変。


フィトリさん けんかしたら、私が謝ります(笑)。私が今住んでいる場所はムスリムやマレーシア人も多いので、コミュニケーションや友達作りについてはあまり心配していません。ああ、そういえばそれも重要ですね。もし日本で暮らしたいなら、コミュニティーがあるところを探した方がいいです。同じ国の人たちとか、同じ宗教の人たちの周りに住めば、安全だし、問題も少ないと思います。


このインタビュー後、2024年4月に無事結婚式が開かれたそうです。当初の予定では式の後に日本に戻る予定でしたが、原稿執筆時点では奥さんと一緒にマレーシアで過ごされているそうです。奥さんが日本で孤立せずによかったですね。


●人生とは学びの連続だ


阿部川 日本のエンジニアにメッセージはありますか。


フィトリさん 私の経験から話すと「人生は勉強だから、いろいろなことを勉強しなさい」ということを伝えたいです。私も毎日、それを考えながら仕事をしています。


阿部川 「勉強すること」はフィトリさんの中ではどういう位置付けなのでしょうか。


フィトリさん 生き方、ですかね。いい生活、良い人生にするためにどうすればいいかを学んでいます。仕事はもちろん、人間関係の構築の仕方やコミュニケーションの取り方も勉強しないといけません。もし、そういうことを完全にマスターできたとしたら良い人生が過ごせると考えています。


阿部川 仕事だけではなく、人生のための勉強もした方がよい、と。


フィトリさん 全てのことにはバランスが必要ですから、バランスを取るために勉強が必要ということです。


編集中村 就職活動のときに50社ぐらい面接を受けたとのことですが、海外の就職活動でお断りが続くのは結構ダメージが大きいと思うのですけど、それはどうやって乗り切ったんですか。


フィトリさん そうですね、今、改めて思い返してみると、最初はショックで「断られた」という気持ちになったことがよくありました。でも、私がマインドセットをチェンジして、面接は会社に入るための勉強だと思うことにしたのです。1社で面接に落ちても、「大丈夫です。勉強だから大丈夫です」という意識があるから、あまりショックは感じない。そういう気持ちで就職活動をしました。


編集中村 「次もうまくいかなかったら、どうしよう」じゃなくて「チャレンジしてみてダメだったらまた次の機会に生かそう」というマインドセットに変えたということですね。


フィトリさん そうです。後は、なぜその会社でダメだったのかを自分で判断して、「じゃあ次の会社の面接はもっと良くしましょう」というポイントを見つけて、勉強するというか、弱点を乗り越えるようにやっていました。


阿部川 なかなかその境地にはいけないですよ、すごいですね。フィトリさんのように「これも勉強だから」と思えるように、見習わないといけませんね。


●Go’s thinking aloud インタビューを終えて


 フィトリさんは「人生は勉強だ」と何度も繰り返した。それを日本人の真面目さや誠実さからも学んだと言ってくれた。


 だが、真面目さも程度が過ぎると「融通の利かなさ」や「視野の狭さ」にもつながる。フィトリさんがそれをバランスよくこなせるのは、バックボーンにイスラム教の教えがあるからだろうか。


 春には結婚なさり、現在は2人でマレーシアに戻り、念願だった「国への貢献」にまい進していると聞く。そんないちずな人が、人生の大切な一時期に日本で暮らしていてくれたことを、私たちは誇りに思ってよいだろう。


阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)


アイティメディア 事業開発局 グローバルビジネス戦略室、情報経営イノベーション専門職大学(iU)教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 訪問教授 インタビュアー、作家、翻訳家


コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時から通訳、翻訳も行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在情報経営イノベーション専門職大学の学部長、教授も兼務。神戸大学経営学部非常勤講師、立教大学大学院MBAコース非常勤講師、フェローアカデミー翻訳学校講師。英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行う他、作家、翻訳家としても活躍中。


編集部から


「Go Global!」では、GO阿部川と対談してくださるエンジニアを募集しています。国境を越えて活躍するエンジニア(35歳まで)、グローバル企業のCEOやCTOなど、ぜひご一報ください。取材の確約はいたしかねますが、インタビュー候補として検討させていただきます。取材はオンライン、英語もしくは日本語で行います。


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