新車が売れない! 今、日本の自動車市場で何が起きている?

1

2024年08月02日 06:50  週プレNEWS

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

週プレNEWS

他の追随を許さない10万台超をマークし、上半期のトップに立ったホンダのN-BOX。下半期もこの勢いは続くか!?

上半期のクルマ業界がヤバい!? 不祥事も相次いだが、新車が驚くほど売れなかったのだ。どうしてこんな惨劇に? その理由はいったい何? この先どうなりそうなの? 自動車業界の最前線を取材してきた!

【図表】2024年上半期の新車販売総合ランキングベスト10

■認証不正と下請けイジメで不信感爆発!?

今年上半期の新車販売総合トップに輝いたのは、やっぱりあのクルマだった! 

自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)が、7月4日に今年上半期の新車販売ランキングを発表した。それによると、総合トップに輝いたのは、10万680台という圧巻の数字を叩き出したホンダの軽スーパーハイトワゴンのN−BOXであった。

2011年12月に爆誕すると、瞬く間に圧倒的人気を獲得! 現在、シリーズ累計販売台数は250万台を軽く突破。軽部門では9年連続トップを独走する"絶対王者"で、新車販売の年間総合ランキングでも3年連続で首位に立つ無双ぶり。

そんな"絶対強車"のN−BOXが3代目へ進化したのは昨年10月だが、どうも販売に勢いがない。事実、今年2月の新車販売では、昨年11月に6年ぶりのフルチェンを受けたスズキの3代目スペーシアに1476台まで肉薄され、5月の新車販売の総合ランキングではスペーシアに惨敗......。23年7月以来の首位転落となった。

しかも、今回の上半期トップに立った数字をシッカリ見ると前年割れとなっている。「フルチェンしたばかりの人気モデルに異変か?」と思ったが、上半期のランキングをご覧いただければわかるとおり、前年割れはN−BOXを含めて4台もある。

実は上半期の新車販売台数が2年ぶりに減少となったのだ。具体的には前年同期比13.2%減となる212万7490台。この数字がマジでヤバい。新型コロナの影響で半導体不足に陥った22年上期の208万台を別にすれば、09年のリーマン・ショック時の218万台を軽く下回るからだ。

この大低迷の背景には何が? 多くのメディアは一連の自動車メーカーの不祥事を挙げている。確かに今年の上半期はトヨタグループ(ダイハツ工業、豊田自動織機)による認証不正の影響で販売台数は大幅な減少となった。

実際、ダイハツは60.5%減と落ち込み、18年ぶりに上半期の軽販売トップの座をスズキに明け渡した。また、ダイハツからOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けているトヨタが63.8%減、スバルも54.9%減だ。

しかも、5月末には日産による下請けイジメが明るみに! そして翌月にはトヨタ、ホンダ、マツダ、スズキなどの認証不正が発覚。クルマ業界に対する国民の不信感は一気に増した。

一方、ネットには、《円安だから海外に輸出したほうがボロ儲けできるわけで、国内の納期遅延や受注停止は方便だ!》《日系メーカーが海外市場で販売好調なのが、国内販売をないがしろにしている何よりの証拠だろ?》というような声も飛び交っている。海外ブランド車の幹部は苦笑いしながらこう言う。

「その話の真偽はわかりませんが、上半期は海外ブランドも苦戦していますけどね」

JAIA(日本自動車輸入組合)によると、上半期の輸入車の販売台数は11万3887台(前年同期比7.2%減)で2年ぶりのマイナス。加えて、6月の輸入車の販売台数は2万2534台(前年同月比8.1%減)。これで6ヵ月連続の前年割れとなった。

■最盛期の61%まで落ち込んだ日本市場

史上最も新車が売れたのは1990年の約777万台だ。これに対して、昨年は約478万台だったので38%減となる。ちなみに市場規模は最盛期の90年から61%まで落ち込んでいる。

一方、国内の乗用車の保有台数に目を向けると、90年が約3492万台だったのに対し、22年は約6216万台で78%も増加。自工会(日本自動車工業会)によると、新車の平均保有期間は7.7年で、10年超が2割強とのこと。

「一部のスポーツモデルなどを除けば国産モデルは燃費性能に優れ、先進安全機能も充実している。N−BOXを例に出すまでもなく、軽の進化は目覚ましい。今どきのクルマは整備を怠らなければ、購入から10年以上が経過しても快適に乗れる。

しかも、最近のクルマは値上げがすさまじく、20年前の1.5倍近い価格に。さらに、日本の平均給与所得は90年代半ばから右肩下がりです。当然、新車販売の動きは鈍い」(自動車誌編集者)

長年、新車販売が厳しい状況にあるのはよくわかった。では、なぜ今年上半期にリーマン・ショックを下回る販売台数まで一気に落ち込んだのか? 日系メーカーの販売店からはこんな声が出た。

「初売り、決算、ボーナス商戦で感じたのは、お客さまの財布のひもが固くなっていること。実際、これまで定期的に整備や洗車をご利用くださっていたお客さまの足も遠のいている。理由を伺うと、ガソリンや物価の高騰などで懐具合が厳しいようで......」

7月8日、厚生労働省が発表した5月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動を反映させた実質賃金は前年同月比1.4%減となった。これで26ヵ月連続のマイナスとなり過去最長を記録。要するに長引く物価高騰により実質賃金はマイナスが続いているのだ。

当然、庶民は生活維持に四苦八苦。事実、7月からの電気料金の大幅値上げが家計を圧迫し、殺人レベルの酷暑にもかかわらず、電気料金を節約するため、エアコンの使用を控える家庭も少なくないという。

この節約志向の流れは今年の夏休みにも影響が出そうで、日本生命の「夏季休暇の過ごし方」というアンケート調査によると、2位の国内旅行を引き離し、半数近くとなる48.4%の人が、「自宅・自宅周辺で過ごす」と回答。言うまでもないが、庶民は新車どころではないのだ。

■場外バトル過熱で、割を食ったのは?

ところがである。そんな節約志向の中で、海外ブランドの高級EVだけはニッポン市場で人気を集めているというから、ビックリ仰天!

「上半期、EVは1万785台(前年同期比17%増)をマークし、輸入車全体の10%を占めている。国や自治体の補助金の存在が大きい」(前出・海外ブランド車の幹部)

だが、日産自慢の軽EVのサクラは前年同期比38%減ともがき苦しむ。今、ニッポン市場で何が起きているのか?

「富裕層は原資が血税の補助金を利用して海外ブランドの高級EVが買える。富裕層は安価な軽EVにあまり興味はなく、頼みの綱の庶民は実質賃金マイナスにより家計は火の車で、軽EVどころではないかと」(自動車誌の元幹部)

つまり、この国は二極化が進んでいるのだ。富裕層は海外ブランドの高級EVを乗り回し、庶民は物価高や電気料金の大幅値上げに悲鳴がもうどうにも止まらない。しかも、この厳しい状況は下半期も続きそうだ。

実は7月19日に政府が、経済財政諮問会議(議長=岸田文雄首相)で自動車メーカーの認証不正問題の影響などを踏まえ、今年度のGDP(国内総生産)の実質成長率を今年1月に試算した1.3%から0.9%に下方修正しているからだ。

さらに気がかりなことも。実は認証不正問題に端を発した国土交通省とトヨタのスッタモンダの場外バトルが話題を集めた。ザックリ言うと、トヨタの豊田章男会長が認証制度の見直しを口にしたことで、《日本の認証制度はガラパゴスだ!》などとファンらがネット参戦し、完全にカオス状態に。すると、この"ガラパゴス"というワードに国土交通省のお役人が即反応。異例の大反論をブチあげ、一部メディアがそれをあおりにあおった。

報道が火に油を注いだかどうかは不明だが、7月18日、豊田会長は報道陣の前で、「みんな(自動車業界)この国を捨てて出て行ってしまいます。出て行ったらこの国は本当に大変ですよ。ただ、今の日本は、ここで踏みとどまって、頑張ろうという気になれない。(メディアは)強いものを叩くことが使命だと思ってらっしゃるかもしれませんが、強いものがいなければ、国というものは成り立ちません」と海外移転を示唆するような、"世界のトヨタ砲"を炸裂させた。

7月31日。国交省はトヨタの佐藤恒治社長を呼び出して是正命令書を手渡した。これまでトヨタは7車種の衝突試験で不正があったと発表していたが、国交省の調査で新たに7車種の不正が明るみになった。

これで今回認証不正が発覚したトヨタのクルマはホンダの22車種(ホンダには行政処分ナシ)に次ぐ14車種となった。ちなみに不正はあったが、使用に関しては問題がないという。一連の生産停止などで割を食ったのは、大企業トヨタではなく、取引先の中小企業や地域経済である。

このありさまでは下半期も新車は売れず、来年度のGDPはダダ下り確実か!?

取材・文・撮影/週プレ自動車班 写真/時事通信社

    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定