Snow Man目黒蓮の起用で“テレビ離れ世代”に訴求 業界の覇者「レグザ」が自信のワケ

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2024年09月14日 11:31  ITmedia ビジネスオンライン

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目黒蓮は、特にアジアの若者の間で知名度が高いという

 若者のテレビ離れが進んでいる――。よく言われることではあるものの、テレビは本当に不要になったのだろうか?


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 かつての地上波に加え、インターネットの普及によってYouTube、ABEMA、Netflix、Amazonプライムビデオなど、有力なメディアが次々と台頭した。視聴者はそれらの豊富なコンテンツをスマートフォンでいつでも気軽に観られる。テレビ放送と違い、リアルタイム視聴に縛られる必要もない。


 「テレビ=地上波放送」という前提であれば、確かに多くの人はテレビを必要としなくなった可能性がある。だが、それはテレビの在り方が変わっただけで、不要になったわけではない。


 家電量販店・オンラインショップの実売データを集計した「BCNランキング」によれば、2023年の家電薄型テレビ全体(液晶テレビ+有機ELテレビ)のメーカー別販売台数の業界トップは「TVS REGZA(前・東芝映像ソリューション)」で、2年連続となる。同社は7月、フラグシップモデルとなる4K有機ELテレビ「X9900N」シリーズ、4K Mini LED液晶テレビ「Z970N」シリーズを発売した。


 レグザは地上デジタル放送番組を最大6チャンネル自動で録画する機能を搭載。加えて、テレビ放送・ネット配信を問わずに、キーワードで検索すれば全てのプラットフォームを横断して観(み)たいコンテンツを検索・表示する機能も押し出している。映画は2倍速で観る、YouTubeも配信全体を切り抜いたまとめ動画が好まれるなど、いわゆる“タイパ”を重視する視聴者への訴求を狙う。


 同社は、かつて東芝の映像事業部門だった。しかし経営不振から、2018年2月末に中国電機大手の海信集団(ハイセンス)に売却。それからわずか数年で立て直し、今回はSnow Man目黒蓮をグローバルブランドアンバサダーに起用し、“テレビ離れ世代“にも訴求する構えだ。今回の製品開発はどのようになされたのか。取締役副社長の石橋泰博氏に狙いを聞いた。


●東芝から離れたことで得た強み


――「若者のテレビ離れ」という業界の課題を、どのように捉えていますか?


 若い方の中にはテレビを持っていない方もいますね。そういった方に、どうやってテレビを使っていただくかが重要だと考えています。「YouTubeやABEMA、Netflixがあれば十分だ」という方は、必ずしもそのメディアだけでコンテンツを観たいわけではありませんよね? あくまでも観たいのはニュースや映画、ドラマなのです。だったら最初から観たいコンテンツに、最短距離でリーチできるUIを作るべきです。それを提案することで、テレビの新しい使い方を見いだせると思っています。


 今までのテレビは「放送を観るもの」というイメージが強かったと思います。しかしインターネットの普及によって、ネットコンテンツを観る割合が増えています。これまでは数チャンネルだけから選んでいた状況が、膨大な量のコンテンツが目の前にあり、競争は激化しています。そこで「好きなコンテンツにたどり着くまでに非常に時間がかかる」という課題が生まれました。この課題はPCもスマホでも、視聴者が自分で探してたどり着かなければいけないので解決できません。


 一方レグザの商品は、この課題を解決できるUIを持っています。「タイムシフトマシン」のように録画忘れの心配もなく、録画でも配信でも膨大なコンテンツの中から観たいものにだけ最短距離でリーチできる「ざんまいスマートアクセス」も搭載しています。


――タイムシフトマシン、ざんまいスマートアクセスとは、どんな機能ですか?


 タイムシフトマシンは、地上デジタル放送最大6チャンネルを自動で録画し続けてくれる機能です。各番組の内容を目次にした「番組ガイド」も当社独自の機能ですね。ざんまいスマートアクセスは、気になるアイドルや俳優、キーワードなどを登録することによってテレビ番組とネット動画の垣根を越えて、視聴したい番組を探してくれます。


 今回、当社は番組視聴のUIとして新「ざんまいスマートアクセス」をメインに据えました。これはコンテンツベースのUIなので、顧客がテレビの番組表やネット動画メディアのプラットフォームに個々にアクセスして、コンテンツを探す手間を省きます。


 今まではABEMA、Netflix、Amazonプライムビデオなど、VOD(ビデオオンデマンド)メディアごとのUIがベースにあって、必ずそこを経由して観たいコンテンツを探す必要がありました。これはテレビ番組にも言えることですね。しかし、これからは観たいコンテンツを優先したUIであるべきです。視聴者は、テレビを観るときは非日常感に浸っていても、観たい番組を探すオペレーションをすると現実に引き戻されてします。長年、没入感を最大化させる方法を求めてきた結果、生み出せたものです。


●テレビの「新しい使い方」を訴求


――今回はざんまいスマートアクセスを訴求する上で、Snow Manの目黒蓮さんをグローバルブランドアンバサダーに起用したのも、狙いにマッチしているからでしょうか?


 そうです。さまざまなコンテンツがある中で、顧客は好きなものを好きなだけ観たいですよね。スポーツ、ドラマ、SF、ミステリーとジャンルはたくさんあります。目黒蓮さんはざまざまなドラマや映画に出ていらっしゃいます。コンテンツベースでの訴求力を考えて起用しました。


――時短を好むZ世代にも刺さりそうですね。これらの機能は東芝時代からあったのですか?


 タイムシフトマシン機能は、さかのぼること20年ぐらい前からありますね。東芝からは離れたものの、クラウドのエンジニアも、テレビのソフトウェアを作っているエンジニアもほぼ全員が残っています。私もエンジニア出身で開発の全統括をしています。


 その観点から申し上げますと、テレビ開発は自分たちの技術進化を追い求めていくことだけでなく、やはりマーケティングをしっかりして、顧客からのニーズをうまく掛け合わせないと良い製品ができません。東芝は良い意味でも悪い意味でも非常に大きな会社なので、いろいろな組織が絡んでしまっていました。しかし、離れたことによって現在は800人ほどの社員数になりました。


 営業も開発もマーケティングも商品企画も部署がギュッと小さくなりました。距離感が近くなるので、意見交換しやすい状況ができています。新しい考え方がうまく融合できる土壌があるからこそ、新機能も生まれました。


――これまでテレビはどのメーカーも画質の追求をしてきた印象があり、あまり差がないと感じていました。


 画質はもちろん最重要事項です。実際、コロナ禍による巣ごもり需要によって、テレビの大画面できれいな映像を観たいという需要が増えました。レグザはラインアップが豊富ですし、競合他社に負けないよう差別化を図っています。


 上位機種には、高画質映像処理エンジン「レグザエンジン ZRα」が備わっています。これはYouTubeにアップされた荒い動画であっても、できるだけきれいにしてくれます。また、AIによる自動高画質機能によって、夜景や花火、星空、リングスポーツ、サッカーなどのコンテンツシーンをAIが判別して、最適に高画質化してくれます。一方でわれわれは、重箱の隅をつつくように画質ばかりを追い求めていてはいけないと考えています。それにプラスして便利さ、時短、没入感を提示していく必要があると考えています。


――ハイセンス社との役割分担はどのような形になっていますか?


 製品開発は弊社に任されていて、実際の製造は中国のハイセンスで行っています。こちらの仕組みのメリットは、製品価格を抑えられる点です。当社はフラグシップモデルからお求めやすいモデルまで、非常に多くの製品バリエーションがあります。それはバックにハイセンスという世界でシェアの大きい企業があるからで、製造面ではボリュームを含めて非常に能力が高いです。テレビは共通化できる部品も多いため、スケールメリットが生まれるのです。


 ただ、やはり価格競争は非常に厳しいです。同じ価格で競争したとしてもレグザは原価力があります。どれくらい利益を取れるのかというところが、他のメーカーさんと大きく変わる部分で、レグザは非常に良いポジションにいると考えています。


●「日本のブランド力はまだ生きている」


――今後の展望として国内だけでなく、グローバル展開も視野に入っていますか?


 実は東芝時代に海外のビジネス展開は縮小していて、テレビ事業も撤退しているんですよね。しかし今回、海外市場への再参入を一生懸命やろうとマーケティングを含めて動き出しています。まだ始めて間もないのですが、伸び始めています。特にアジアの若者の間で目黒蓮さんの知名度は非常に高いのです。


――日本のものづくり神話が崩壊し、グローバルではだいぶ遅れている印象があります。


 いえ、そうでもありません。むしろ海外に行くと、日本のブランド力がまだ生きていることを実感します。私も何回か海外で新商品発表会のスピーチをしていて「日本人が来た」ということに対して、彼らがとても喜んでくれるのを見ています。


 私は英語を話せるのに、(あえて)「日本語でやってください」と言われるぐらいなのです。そういうところで日本ブランドが生きていることを感じます。だったら、そのブランドを使わない手はないですよね? 海外展開では製品に「Designed in JAPAN」といったようなバッジやキャッチをつけて、日本で開発した製品だと分かるように、うまく訴求をしています。


●UIが変わるだけで劇的に売り上げが変わる可能性 


 以上がインタビュー内容だ。


 日本の技術力に裏打ちされたテレビの新しい使い方を提案することで、顧客数も一気に増える可能性がある。テレビに限らず、インターネット上のショッピングやフリーマーケットなどを見ても、従来と比べてUIが分かりやすく、便利になったことによって成功した後発が多くあるからだ。


 かつて日本の家電は、不要な高機能を付けた高価格帯であったため、現地のニーズに応えたリーズナブルな簡素化モデルを展開した海外メーカーに遅れた。しかし、レグザのようにユーザーの利便性を考えた機能を備えた商品で勝負すれば、海外市場での日本ブランドは復興する可能性がある。


 過去から現在まで家電に共通して求められるのは、生活を便利にすることではないだろうか。技術の進化に伴い、ユーザーの要求はどんどん上がっている。テレビ離れをしている消費者の背景にあるのは多忙さだろう。観たいコンテンツが高画質・大画面で観られる満足度だけでは足りない。いかに見たいときに「時短」で見られるかのバリューが大きいのだ。製品開発がゴールではなく、優れたユーザー体験を提供することが全ての企業に求められる。


(乃木章、アイティメディア今野大一)



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