マイクロソフト「Copilot+ PC」の衝撃 「AI PC」が起こす地殻変動

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2024年09月14日 11:31  ITmedia ビジネスオンライン

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「DXフォーラム2024 パーソナルAIの未来」で講演した日本マイクロソフト業務執行役員 デバイスパートナーセールス事業本部 事業本部長の佐藤久氏

 生成AIをPC本体に組み込んで性能を向上させたAI内蔵PC(AI PC) が今後、普及していきそうだ。日本マイクロソフトは先頭を切って日本市場にAI機能を付けた「Copilot+ PC」を投入。個人向けには6月に発売し、家電量販店や各社オンラインストアで販売している。


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 法人向け「Copilot+ PC」はOEM各社によってコンディションは異なるものの、「Surface」の法人モデルは9月10日から出荷するという。この他のPCベンダーも同様のAI PCを投入してくる見通しで、AI PCの競争が激化しそうだ。


●Windows10サポート終了が追い風 法人市場で存在感


 これまでのPCではインターネットにつないで、クラウド上にあるAIを使っていた。だがAI PCでは、本体にAIを内蔵したことによって処理スピードを速め、従来はなかったアプリなど新しいサービスの提供が可能になる。加えて2025年10月にマイクロソフトのWindows10のサポートが終了することもあり、特需の発生も予想されていて、2026年度以降はOS更新も加わってPCの販売台数は大幅に伸びそうだ。


 MM総研の調査では、2024年度は8%ほどの法人市場におけるAI PCの比率が、2025年度には18%まで増加。2028年度には65%にまで上昇するとみている。企業の規模別にみると、IT、AI人材を採用できている大手企業(従業員数が3000人以上)は80%が生成AIを積極的に活用しようとしている一方、従業員数が25〜300人の企業では40%台にとどまるなど、企業規模により取り組み姿勢に違いがみられるという。


 マイクロソフトなどの調査によると、職場でのAI利用の割合が日本は32%と、欧米などと比べると低い結果になっている。PCに内蔵させることによってAI利用のハードルを下げ、マイクロソフト製品を普及させたい狙いがある。


 Copilot+ PCには、超高速のCPUに加えてNPU(ニューラル・プロセシング・ユニット)と呼ばれる大手半導体メーカー・クアルコムが開発した最新のチップ「SnapdragonXElite、XPlus」を搭載している。このチップは1秒間に40兆回の操作を実行できる性能があり、これによりリアルタイムの翻訳や画像生成などが瞬時にできるという。


 節電機能も優れており「Surface Laptop」(第7世代)は1度の充電で最大20時間、「Surface Pro」(第11世代)では、最大で14時間の稼働ができる設計にした。価格も「Surface Laptop」(13.8インチモデル)では20万7680円と低く抑えている。


 一方、米半導体大手インテルは、NPUを組み込んだ最新のプロセッサー「Core Ultra」を発表。PCメーカーはこれを内蔵したAI PCを投入してきていて、競争は一層激化しそうだ。


●AIによる画像生成 画面を自動録画する「リコール機能」


 7月1日に東京で開催された「DXフォーラム2024 パーソナルAIの未来」で講演した日本マイクロソフトの佐藤久業務執行役員デバイスパートナーセールス事業部長は「Copilot+ PCは、生成AIが搭載されたことにより、これまでPCで日常的に実行していた『検索』する作業から『AIに対して質問する』ことが多くなる」と話す。このため「まずは、質問の仕方を覚える必要がありますが、自然言語で質問できるため、専門的用語を覚える必要はない」と指摘した。


 Copilot+ PCの新たな機能には、AIによる画像生成がある。例えば「女性が笑っている」「青空の下の窓辺」などと作成したい画像のイメージをテキストで入力し、手書きでイメージを伝えるだけで簡単に画像を作成できるようにした。


 もう一つのメリットとして、5秒ごとにPCのスナップショットを作成する「リコール機能」がある。


 「このPCは5秒ごとにユーザーが操作してどの画面を見ていたかを録画しているため、記憶の断片を手掛かりとして、過去に表示したPCの画面を再度見つけられます。自然言語を使用して検索したり、時間をさかのぼってスクロールしたり、テキストと視覚的な一致から探している場面に戻れます。すべて録画されるのは好ましくないというユーザーは、フィルターをかけることで録画を排除することもできます」


 外国人と会話をするときなどは、リアルタイムで翻訳してくれる外国語翻訳機能もある。クラウドを使っていた従来よりも翻訳スピードを速め、翻訳の質も向上させた。日本語への対応時期は未定ではあるものの、44カ国語から英語への翻訳ができるという。


 気掛かりなセキュリティについては「Windows11が搭載されているため、セキュリティの脅威に対しては最も安心できるOSです」と自信を示した。AIの活用に関しては「無償で生成AIを使うことができます」と述べ、あらゆる業務面で生成AIの利活用ができるとしている。


●市場をリードしたい狙い


 ChatGPTを2022年11月にリリースした米オープンAIとビジネスパートナーの関係にあるマイクロソフトは、AI PCを売り出すことによって、世界の市場をつかみ取りたい狙いがある。生成AIが世の中で使われるようになったことで、PCやスマホにも「標準装備」されるのは時間の問題だ。


 今後はAIを搭載したPCやスマホで、いままでにない新しいサービスを提供できるかどうかが勝負の決め手になってきそうだ。マイクロソフトとしてはWindows10のサポート停止と合わせて新商品を出すことで、OS更新の特需を獲得したい思惑もある。AI体験が普及し生産性が向上することによって、PCが自分の相棒のようになっていきそうだ。


(中西享、アイティメディア今野大一)



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