今回はスイッチについてお話をします。ネットワークにはたくさんの通信機器が置かれますが、役割がよく似ていて、混乱するものも多いと思います。スイッチとルーターはその最たる機器かもしれません。
ルーターはネットワークとネットワークの境界に設置して、それを接続する(言い方を変えれば隔てる)機器でした。ネットワークとは「同じ通信技術を使っている、同じポリシーで運用されている、ブロードキャスト(全員宛ての通信)が届く範囲」のことでしたよね。
スイッチはネットワークの中に置いて、それをさらに分割する機器です。
もともとの作りでは、ネットワークの中はそこに所属している機器のすべての通信が飛び交っています。パソコンA〜Zが存在したとして、パソコンAがパソコンB宛てに発した通信はパソコンCにもパソコンDにも届きます。もちろんパソコンCやDは「B宛ての通信」などいらないのですが、それは受け取った後で「宛先が違うな」と判断して捨てるのです。面倒なように思えますが、仕組みとしてはとてもシンプルなので、対応する機器を簡単に作ることができます。
最初のうちはそれでよかったのですが、コンピューターの需要が増え、ネットワークが大きくなるとそうも言っていられなくなってきました。例えばコンピューターが1万台ある企業では、コンピューター0がコンピューター1に通信を送りたいだけなのに、残りのコンピューター2〜9999にも通信が届くわけです。すると常に通信が混雑している状態になり、性能が悪化します。しかも、業務の情報化が進む中で性能に対する要求は上がり続けるわけです。
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この状況を改善するルーターの一つの方法はネットワークを分割することです。例えば、ルーターを使って営業部と総務部のネットワークを分けてしまえば、混雑は緩和されます。でも、同じ会社に所属して同じポリシーに従っているのにネットワークを分割すると、それはそれでデメリットが生じます。例えば営業部が全員宛ての通信を送っても、ルーターに阻まれて総務部には届かなくなります。
そんなときに使う通信機器がブリッジです。先の例で言えば営業部と総務部の間にブリッジを設置します。ブリッジは行き交う通信の宛先情報から、どのコンピューターがどこにあるのかを徐々に学んでいきます。すると、「この通信は総務部発総務部宛てだから、営業部側に中継する必要はないな」といった制御ができるようになり、無駄な通信をネットワーク中に配信してしまう事態を防止できます。
現在ではブリッジは部署と部署の間に設置するというよりは、1台1台のコンピューターをタコ足配線のようにつなぐのが主流です。そのためにはたくさんの接続口(ポート)が必要で、そのようにマルチポート化されたブリッジをスイッチ、もしくはスイッチングハブと呼びます。
スイッチングハブでは、パソコンAからB宛ての通信はBにしか中継されない(CやDが接続されているポートには中継しない)ため、通信の衝突がなくなり、通信効率が非常に高まっています。
【著者略歴】
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岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/政策文化総合研究所所長。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」「プログラミング/システム」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)、「メタバースとは何か」「Web3とは何か」(光文社新書)など。