「100円マック」も今は昔 値上げしたマクドナルドなぜ好調? コスパ重視の客には500円台のセットで対応

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2024年09月22日 06:20  ITmedia ビジネスオンライン

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好調が続くマクドナルド(編集部撮影)

 日本マクドナルド(以下、マクドナルド)の業績が好調だ。国内の店舗数は大きく増えていないものの、全店売上高を表すSWS(システムワイドセールス)が伸び続けている。コロナ禍との相性が良いロードサイド店舗かつテークアウト業態という点が奏功し、コロナの影響が収まった今期も依然として好調が続く。


【画像】結構安い! マックの500円台セット4種と、お得なサイドメニュー(計6枚)


 ソフト面に着目すると、マクドナルドでは業界に先駆けてDXを推進し、商品構成では食事以外のカフェ需要も取り込んできた。換言すれば、ストレスを低減させる店舗運営、そして全時間帯で客を取り込もうとする施策が好調につながったと考えられる。


●「コロナ特需」が終わっても好調が続く理由


 2019年12月期から2023年12月期におけるマクドナルドの業績は次の通りだ。直営とフランチャイズ(FC)を含めた全店舗数はそこまで変わっていないが、全店売上高のSWS、そして企業としての業績が伸び続けていることが分かる。


SWS:5490億円→5892億円→6520億円→7175億円→7777億円


売上高:2817億円→2883億円→3176億円→3523億円→3819億円


営業利益:280億円→312億円→345億円→338億円→408億円


全店舗数:2910→2924→2942→2967→2982


 コロナ禍での好調は他の飲食業態に比べてロードサイド店舗が多いこと、そしてかつてよりテークアウトやドライブスルーの比率が高かったことに起因する。具体的な数字は公表していないが、決算資料で公開したグラフから判断するに、売り上げに占めるイートイン比率は3割もない。


 コロナ要因が収まった近年でも好調が続いており、今期も第2四半期段階で全社売上高は前年比10%増となっている。相次いで値上げを実施したが客数も減少せず、収益の改善につながった。好調の背景には地道に行ってきた施策が影響していると考えられる。


●モバイルオーダーが行列解消に寄与


 かつてマクドナルドといえばランチタイムの行列が課題だったが、最近は改善している。その一役を担っているのが、2020年に全国導入した「モバイルオーダー」である。


 モバイルオーダーは公式アプリを通じて行うもので、最初に店舗と商品を選択し、次に受け取り方法を選ぶ。店内カウンターで受け取るほか、イートインの場合はテーブルへの配膳、テークアウトの場合はドライブスルーでの受け取り、などを選択できる。支払いもアプリで済ませる仕組みで、各種クレジットカード、PayPayなどの電子マネーに対応している。店内受け取りの場合はモニターを通じて、自分の商品ができているか確認することが可能だ。


 モバイルオーダーにより、最近はレジに並ばず商品を受け取る客が目立つようになった。店舗・時間帯によっては注文の半数以上がモバイルオーダーになることもあるという。特にランチタイムに利用する客が多く、混雑解消につながっているようだ。


 一部店舗ではセルフオーダー端末(券売機)の設置も進んでいる。筆者の個人的体験だが、かつては長い行列を見てマクドナルドへの入店を何度か諦めたことがある。行列のストレスをなくす施策は地味ながら売り上げに貢献しているかもしれない。


●“本気カフェ宣言”も フラッペやマカロンを販売


 商品面に注目すると、マクドナルドは「マックカフェ」というブランドでカフェ需要を開拓してきた。日本では1998年に新業態店としてオープンし、現在ではメニューの1ジャンルとして提供している。3000店舗弱ある国内マクドナルドの中で8割ほどがマックカフェ対象店である。


 マックカフェではカプチーノやエスプレッソなどコーヒーを各種提供するほか、スターバックスのフラペチーノを意識しているのか、ホイップクリームの乗った「チョコフラッペ」「宇治抹茶フラッペ」を看板メニューとして販売している。甘いものを少し食べたいという需要にも対応すべく、フランスのお菓子「マカロン」も各種提供している。


 マクドナルドは2023年に“本気カフェ宣言”を行い、カフェ商品の強化を始めた。同宣言以降、一部店舗の限定だったフラッペやマカロンを全国の店舗で展開している。午後から夕方の間に店舗に寄ってみると、テークアウトでカフェドリンクを持ち帰る若年層や店内でカフェのようにくつろぐ客が見える。まるでスタバのような光景である。マックカフェは夕方の集客につながっているのではないだろうか。


●“下位互換”で低価格需要に対応


 「100円マック」を実施していたデフレ時代とは違い、現在のマクドナルドは安売り戦略を止めている。2014年から指揮を執ったサラ・カサノバ氏のもと、値上げで得た原資を基に品質・サービスの改善を進めた。その結果、以前よりセットメニューは高くなり、かつてのようなお得感はなくなった。通常のバーガーセットは700〜800円台である。


 しかし、コストパフォーマンスに長けた商品が全くなくなったわけではない。例えば「ちょいマック」はその一つだ。「マックチキン」や「エグチ(エッグチーズバーガー)」などのバーガー類などから構成されるメニュージャンルで、一般のメニューより低価格帯となっている。


 マックチキンは「チキンフィレオ」と同様にチキンパティを挟んだバーガーだが、重量は138グラム。183グラムのチキンフィレオより軽く、大きさも一回り小さい。カロリーもおよそ100キロカロリー少ない。マックチキンにポテト・ドリンクのMサイズが付いたバリューセットは500円〜であり、680円〜という設定のチキンフィレオセットより200円程度安い設定だ。“下位互換”の商品を生み出すことで、500円台の低価格需要に応えている。


 ちなみに、ちょいマックは以前に提供していた「おてごろマック」に代わり、2020年に誕生したもの。マックチキンも以前の「チキンクリスプ」に代わる形で、1月から販売している。外食各社が値上げを行う昨今、500円台で食事をできる場所は少なく、ちょいマックは他業態からの客寄せにも貢献していると考えられる。


 朝マックや夜マックを構成することで、マクドナルドは以前より昼以外の需要を開拓してきた。昼に客が集中するモスバーガーやケンタッキーといった業界の競合とは対照的である。そして近年ではマックカフェで夕方時間帯やカフェ需要を開拓しようとしている。さらに安いセットメニューにより、他業態の飲食店よりもお得感のある商品構成に成功している。このように時間帯や業種の垣根を超えた施策に取り組んでいることが、同社の戦略を見るとよく分かる。


 一方で、メニュー数を増やせばオペレーション面での負担になり得る。しかし、マクドナルドはモバイルオーダーを導入することで混雑を解消し、レジ要員の負担軽減にも取り組んでいる。カウンターの外から見ても分かるが、クルーの作業も洗練されている。商品構成で全時間帯需要の底上げに成功しているマクドナルドだが、ソフト面があってこその施策であり、競合は容易に真似できない。業界では売上高・店舗数ともにダントツのマクドナルド、その牙城は今後も崩れそうにない。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



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