「今買わないと後悔しますよ」 客を萎えさせる「店員の声かけ」はこれだ

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2024年09月22日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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接客の声かけに意味はあるのか?

●連載:令和の無駄学〜僕らにはもっと無駄が必要だ〜


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合理的で効率化が求められる社会。どんどん便利になる社会。何不自由なく生きられる社会。しかし、それと逆行するように人々の幸福度は下がっている。


もっと豊かで人間らしい暮らしを得るには、時間的な余白や、一見どうでもいいような機能、生活必需品ではないものの購入など、いうなれば「無駄」が必要なのである。無駄こそ心にゆとりをもたらし、無駄こそ周囲へのやさしさにつながる。真の豊かさを求める上での最強の武器である「無駄」について、社会を解剖していく。


 世の中が加速度的に便利になる中で、効率は良くなったものの面白さが失われてしまった。だからこそ、今の時代には「無駄」が必要なのである! そんな考えのもと鼻息荒く始まった本コラム。今回テーマとして取り上げるのは「店員の声かけにおける効果」です。


 私たちは日常的に飲食店やアパレルショップなどで、店員さんの接客に触れ、「ご注文お決まりですか?」「何かお探しですか?」といった一言をかけられることが多々あります。


 しかし、これらの声かけは本当に顧客の購買意欲を高めているのでしょうか? 近年、特にアパレルショップなどでは「声をかけられたくない派」の人々が増えているように感じられます。


 声かけ自体は、消費者の心理プロセスを表す「AIDMA(アイドマ)の法則」に従うと、売り上げにつながるという結果が関西大学社会学部の池内裕美教授(消費者心理)の研究で出ています(※)。 


 しかし、インターネットやデジタル技術の普及により、例えばユニクロなどのファストファッション店舗では、マネキンやポスターでコーディネートを示し、全てのサイズを棚に並べるなどして、店員が声をかける必要のないより効率的な運営方法を取り入れています。さらに、接客サービスがなく無人対応の飲食店も増えてきています。そのため、従来の声かけの必要性が薄れてきているのも事実です。


 徐々に接客の声かけが合理化されている中で、あえて声かけを行うことに意味はあるのか? 今回は、そんな疑問を探っていきたいと思います。


(※)参照:店員の声かけ怖い? 消費者心理の法則「崩れた」背景は/2019年1月11日、朝日新聞デジタル


●「購買意欲が高まる」声かけの特徴とは?


 店員さんの声かけを分析するにあたって、アパレルショップで働くスタッフや飲食店での業務歴のある方に協力していただき、インタビューを実施しました。日常的によく耳にする店員さんのフレーズに焦点を当てて分析したところ、購買意欲が高まる言葉が持つ要素と、購買意欲を下げる言葉が持つ要素が、それぞれ見えてきました。


 まず購買意欲の高まる言葉が持つ要素として、「限定性」が挙げられます。


 著者が行ったインタビューで、購買率の高い声かけの例として「期間限定の商品です」「こちらセール価格になります」「この商品はコラボ商品です」などと、商品やサービスが限られていることを強調するフレーズが挙がりました。こういった、期間や個数に限りの意を示すことで、購入する予定のなかったものに対しても購買意欲を高めてもらうことができるようです。


 これは、希少性の原理に基づいており、人は手に入りにくいものや特定の条件下でしか得られないものに対して、より高い価値を感じる心理的傾向があります。その心理を働かせるために、こういった「限定性」の要素を含むフレーズを使うことは効果的なようです。


 また、限定性のある言葉をかけることで顧客に行動の緊急性を促す効果もあります。顧客に「今すぐ購入しなければならない」と感じさせ、瞬間的な購買意欲を引き出す力があります。このように、時間的な制約や数量的な制約を明確にすることで、顧客の購買行動を積極的に促進することができます。


 続いて「信頼性」です。


 同様に著者インタビューで「○○が監修した商品です」「こちら再入荷した商品です」「ファッション誌で紹介された商品です」といったフレーズも購買意欲を高めることが分かりました。これらのフレーズには、消費者に対して商品やサービスの信頼性を強調する効果があります。


 人は有名な人の意見や経験に影響を受けやすい傾向があります。特に知らない商品や初めて購入する商品に対する信頼性を高めるためには、有名人の評判や口コミが重要な役割を果たすようです。実際にその商品を使用したことがある人々の肯定的な評価は、新規顧客にとって大きな安心につながり、購買を促進する大きな要素となります。


 特に「再入荷」「メディアで紹介された」といったフレーズはかなり信頼度が高まりやすいようです。再入荷された商品は、過去に売り切れた経験があり、それだけ需要があったことを示しています。つまり、多くの人々が購入し、満足している結果として再度市場に投入されたと捉えることができます。


 また、メディアで掲載された商品は、トレンドを捉えており、今が買い時であることを示唆するため、より信頼感を抱きやすくなるようです。


 このように、「信頼性」を強調するフレーズや情報は、消費者に安心感と信頼感を提供し、購買行動を促進するための有力なツールとなり、リピーターの増加にもつながりやすいようです。


 最後は「共感性」です。


 「辛いものがお好きな方でしたらこちらのお料理がおすすめです」「お仕事中の肌寒い時などに羽織れるのでこちらのカーディガンはいいですよ」「シワになりにくい素材を使っているので、アイロンが面倒くさい方にはおすすめです」といった、相手の好みやライフスタイルに合わせたフレーズが購買意欲を高めることが、著者インタビューから分かりました。


 顧客の現在の気持ちや状況を理解し、相手が共感できるような言葉を投げかけることで、顧客は自分がそのアイテムを利用するシーンが具体的に想像しやすくなり、購買意欲を高めるようです。


 また、共感性を示すことで、顧客にとっては単なるセールストークではなく、個々の購入者に合わせた接客だと感じてもらえるようで、店員と顧客のコミュニケーションがより円滑になるようです。


 ただし、共感性を引き立てるためには、店員のコミュニケーションスキルが重要で、簡易的な声かけではなく、顧客が抱える問題やニーズを正確に把握した上で、共感性の高いアドバイスや提案をする必要があります。


●「購買意欲が下がる」声かけの特徴とは?


 購買意欲の下がる言葉が持つ要素として、まずは「主観的」だということがあげられます。


 「私も同じ商品を買いました」「私だったら、これを選びます」「今買わなかったら後悔するかもしれません」といった、店員の意見を強調した声かけは、顧客にとって具体的な判断材料に乏しく、店員の押し付けがましさを感じやすいため、購買意欲を下げる要因となり得るようです。


 特に「私」「私的には」といった表現は、店員自身の視点に基づいたものであり、顧客のニーズや期待に応えられていない可能性が高いようです。顧客が求めているのは自分自身に適した商品情報であり、店員の主観的な意見がそれを満たすとは限りません。


 そのため、顧客に商品を選ばせる際には、客観的で具体的な情報提供が重要となります。つまり、顧客に対しては自身で判断する機会を与え、その選択を尊重する姿勢が求められます。よって、購買意欲を高めるためには、顧客中心の視点に立った、具体性と客観性を持つアプローチが不可欠のようです。


 続いて「認識の齟齬」が挙げられます。


 「少し量が多いですがよろしいでしょうか」「時間がかかりますがよろしいでしょうか」「そちら店頭に出している商品のみで……」といった表現も、顧客にとっての購買意欲を損なう要因となり得るようです。


 顧客が認識していた情報と異なることが伝わると、顧客は少し後ずさりしてしまう傾向にあります。


 このように情報を注文後や購入決定の直前に伝えることは「事前に知っていたら選ばなかったかもしれない」という感情を引き起こすため、顧客は不安や疑念を抱くことがあります。特に時間や量に関する情報は、顧客のニーズや期待に直接影響を与えるため、最初から明確かつ適切に伝えることが求められます。


 そのため、認識の齟齬を防ぐには、正確でタイムリーな情報提供が必要です。顧客が安心して購買決定を行える環境を提供することが、信頼関係を築き、満足度を向上させる鍵となるようです。


 その他にも「今入荷したばかりの商品です」などの、あからさまに売りたいという下心が見える発言や「いかがですか?」と急かされる言い回し、「〇〇よりもいいですよ」と競合を落とす発言や、「たぶんそのくらいです」といった抽象的なアドバイスなども購買意欲を下げる傾向にあることが分かりました。


●分析から見えてきた“最強の売り文句”


 以上のように、購買意欲の高まる要素と下がる要素をそれぞれ挙げましたが、今回のインタビューを経て、顧客への声かけにおいて「顧客の課題を特定し、解決すること」が重要なように感じます。顧客が実現したいと思う理想を明らかにして、理想と現状の差分としての課題を特定し、商品・サービスを用いてどのように課題を解決していくか。そんな個人ごとにカスタマイズされた課題解決型の声かけが必要とされているのではないでしょうか。


 逆を言えば、その課題が自分で理解できている人にとって、声かけは不要のものであり、あまり求められない世の中になってきているのかもしれません。その課題の見極めこそが、効率化された接客サービスが増えていく中で、接客サービスのある店舗が生き残る要因となるように思えます。


 以上を踏まえ、“最強の売り文句”を考えてみました。


 「購入を悩んでいるようでしたら、ネットでも買えるので、ゆっくり考えてみてください。ただ、テレビで紹介されたこともあって、売り切れてしまう可能性が高いので、早めにご決断された方がいいかもしれませんよ」


 このように、最大限相手に寄り添い、他でも購入できる選択肢を与えつつも、限定性や信頼性などの要素を散りばめた声かけで購入意欲を高めることができるかもしれません。


●著者紹介:石井拓弥


株式会社 九州博報堂 BXP局 


マーケティングプラナー/ヒット習慣メーカーズ


2021年 九州博報堂に入社。そろそろ脂の乗りたい4年目。


福岡のはずれでスローライフ満喫中。



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