いまも生きているハプスブルク帝国の遺産・・・皇妃エリザベートが愛した白馬の牧場

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2024年09月22日 10:00  TBS NEWS DIG

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現在のオーストリア、ハンガリー、チェコなどを含む中央ヨーロッパを広く支配したハプスブルク家。

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16世紀から20世紀の第一次世界大戦の終結まで続いたその支配領域を、ハプスブルク帝国と呼びます。

この帝国が残したものはいくつも世界遺産になっていて、たとえば帝国の都だった「ウィーン歴史地区」。

ウィーンの環状道路の内側に建つ宮殿、大聖堂、博物館、歌劇場など、ハプスブルク家の統治下で作られたものです。

さらに歴代君主が夏の離宮として使ったウィーン郊外の「シェーンブルン宮殿」も世界遺産。

ハンガリーの世界遺産「ブダペストのドナウ河岸とブダ城地区およびアンドラーシ通り」も、ハプスブルク帝国の時代に築かれた街や教会、王宮です。

こうした多くのハプスブルク帝国の遺産の中で、帝国が滅んで100年以上経ったいまも現役で稼働しているのがチェコの世界遺産「クラドルビ・ナド・ラベムの儀式用馬車馬の繁殖と訓練の景観」。

ハプスブルク帝国が行う儀式のときに馬車を引く白馬。それを育て、調教するために16世紀に作られた牧場で、実に450年以上の歴史があります。それにしても、ひとつの牧場が世界遺産というのは他に例がないのではないでしょうか。

現在の名称は「クラドルビ・ナド・ラベム国営牧場」といって、チェコ政府によって運営されています。

広さは東京ドーム280個分。

広大な敷地の中に、放牧場や調教場、厩舎が点在しています。

ここで飼育しているのは「クラドルバー」という種類の白馬で、現在は600頭ほど。

馬車を引くための馬なので馬体はがっしりしていますが、鼻筋が弧を描いて高く、顎を引いて馬車を引くと、とても「絵になる」容姿をしています。

このクラドルバー種の馬の肖像画まで持っていたのが、皇妃エリザベート。

美貌とモデル並みのスタイルを持ち、映画や舞台などで幾度も主人公となっているハプスブルク家のスターの一人です。彼女は馬好きで、乗馬もよくしました。

ウィーンのシェーンブルン宮殿に、ハプスブルク帝国の黄金の馬車が残っているのですが、これを引いたのもクラドルバーの馬たち。

装飾が多くて重量級の馬車を引くために8頭立てになっていました。

エリザベートもこの黄金の馬車に乗ったといいます。

ハプスブルク帝国に由来するこの牧場は番組「世界遺産」でも撮影したのですが、面白かったのは調教の段取り。

普通の乗馬用の馬と同じ訓練をした後、ベテランの馬たちの中に1頭だけ若く経験の浅い馬を入れて馬車を引かせ、その若手がベテランたちから習っていくのです。

4頭立てなど複数の馬たちの、それぞれの足を上げるタイミングやリズムなどがピッタリ合っており、「馬車には馬車の引き方、走り方があるんだなあ」と感心しました。

もうひとつ興味深かったのは、牧場に隣接しているクラドルビ・ナド・ラベムという村。

ここの村人は昔から牧場で働いたり、馬具を作る職人になったり、クラドルバーの馬と牧場と共に生きてきました。

1918年、第一次世界大戦で敗れてハプスブルク帝国が崩壊すると、この地域はチェコスロバキアという国になり、やがて社会主義国となります。

王侯貴族のために馬車を引く馬など社会主義と相容れるはずもなく、クラドルバーの馬たちは田畑を耕す馬鍬(まぐわ)を引いたりして使役馬として生き延びました。この苦しい時代の牧場を支えたのも、クラドルビ・ナド・ラベムの村人だったのです。

この牧場で育てられたクラドルバーの白馬は、現在でもデンマーク王室で使われており、儀式・式典で王室の馬車を引いています。

まさに「いまも生きているハプスブルク帝国の遺産」なのです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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