大谷翔平「50-50」達成の舞台裏・対戦相手からの視点 清々しい真っ向勝負を選んだ理由

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2024年09月22日 17:01  webスポルティーバ

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本塁打を打つたびに、次の塁に走るたびに、それが新たな歴史となるロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平。

ひとつの節目となった「50-50」はマイアミ・マーリンズ戦での6打数6安打10打点3本塁打2盗塁という比類なきパフォーマンスのなかで生まれたが、下位に低迷するマーリンズはなぜ大谷との真っ向勝負を挑んだのか。

スキップ・シューメーカー監督、50本塁打を打たれたマイケル・バウマン投手の証言を元に振り返る。

【ベストな持ち球で勝負したバウマン】

 MLBを代表するスーパースターとなった対戦相手の大谷翔平が、50本塁打―50盗塁(50-50)という大記録の目前に迫っていた。この日のゲームではすでに4打数4安打1本塁打2二塁打と絶好調で、自軍は3−12と大量リードを許していた。

そんな状況下でチームの指揮官はどんな判断をすべきか。勝負を続けるか、それとも敬遠四球を与えて大記録の被害者となることを回避するかーー。

 マーリンズのシューメーカー監督は9月19日(日本時間20日)、ホームでのドジャース戦で選択を迫られた。絶好調期間に突入した大谷は、ナ・リーグ東地区でダントツの最下位に沈むマーリンズの投手陣にとって荷が重い相手であるが、とはいえ投手たちもハイライトシーンの引き立て役になることを好まないだろう。少なからずの野球人が頭を悩ませる状況で、シューメーカー監督の答えは明快だった。

「1点差のゲームだったら、たぶん歩かせていた。ただ、あれほど大差がついた状況でそれをやったら、ベースボール的に、カルマの面(意志を伴う行為とその結果)からも、野球の神が見ても、不適切な動きになる。(あの状況では)勝負し、打ち取ろうとするべき。このゲームに敬意を払い、勝負にいったんだ」

 結果を振り返れば、真っ向勝負を選択したことは完全に裏目に出たように見える。7回一死三塁の場面で右腕マイケル・バウマンが投じた得意のナックルカーブを、大谷は逆らわずに左翼に弾き返す。打球はマイアミのローンデポ・パーク特有のレストラン席に吸い込まれ、ここでメジャーの歴史が動いた。

「50-50」が達成された瞬間。大谷がスイングした直後、「しまった」とばかりに両手で顔を覆うような動きをみせたバウマンの姿も球史に刻まれることになる。昨季はボルチモア・オリオールズのリリーバーとして10勝を挙げた投手にとって、少々不名誉なことであるのは間違いないのだろう。

 ただ、救いを見出すならその試合後、メディアに囲まれたバウマンからは深い後悔の念は感じられなかったことだろう。29歳の右腕は日米の記者たちの前に直立不動で立ち、淡々と質問に応えていった。「歩かせるという考えはなかったのか」と聞いても、静かに首を振った。

「(ナックルカーブが)望んでいた場所にいかなかったが、彼はいいスイングをした。あれが私のベストの持ち球で、(機会があれば)また投げるよ。よい打撃だったから、脱帽するしかない。アグレッシブにいきたかった。ただ、彼がよい仕事をしたということだ」

 バウマンは18日のゲームでも大谷と対戦している。3対8とリードされた8回二死1、2塁の場面で、96マイル(154km)、97マイル(155km)の速球で簡単に追い込んだ末にナックルカーブで三球三振。真っ向勝負の気持ちよさは感じられた。第2ラウンドはリベンジに遭った形だが、その横顔にはリマッチでも"ベストの持ち球"で攻めにいった誇りが滲んでいた。

【勝負を選択したシューメーカー監督の人物像】

 また、自軍投手たちに敬遠を指示しなかったシューメーカー監督の言葉も最後までポジティブであり、潔さすら感じさせた。

「彼がホームランを打ったことは、ゲームの一部だ。私が見てきたなかで、最も才能のある選手。これまで誰もやっていないことを成し遂げている。もう何年かピークが続いたら、史上最高の選手になるかもしれない。ダグアウトではなく、ファンとしてスタンドでそれを見られたらよかったのかもしれない。ただ、私は選手たちが彼を恐れず、勝負にいったことを誇りに思う」

 すべてを美談にしようとするのは、適切ではないのかもしれない。メジャーを代表する低予算チームであるマーリンズは、昨季は予想外の形でプレーオフに進んだものの、今季は57勝97敗と低迷。下位チームはブルペンの力がかなり落ちるのが特徴であり、マーリンズもチーム防御率4.83はリーグの全30チーム中29位だ。この試合、大谷にとっては偉業を達成したのみならず、6打数6安打3本塁打10打点2盗塁というとてつもないモンスターゲームでもあったが、相手の戦力不足の産物である部分も否定できない。

 ただ、それらのすべてを考慮した上で、ここでのマーリンズの姿勢とバウマン、シューメーカー監督の言葉は清々しさを感じさせた。シューメーカー監督の言葉どおり、ペナントレースとは関係なく、点差がついた場面だからこそ、勝負を避けていたらファンを落胆させていたはずだ。 

 ベースボールファンなら、シーズン終盤のタイトル争いが敬遠合戦の末に決着するシーンを見た経験があるはずだ。アメリカにおいても、記録がかかった場面での真っ向勝負が避けられる光景は見られる。マイアミではそうはならなかったことに、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督も感謝に近い言葉を贈っている。

「スキップ(シューメーカー監督)は、翔平には莫大なリスペクトを抱いているから(勝負させる)と言っていた。それは翔平に限らず、このゲーム自体へのリスペクトなのだろう。大差がつき、スタメンの選手たちは交代していた。それによってファンが取り残されてしまいがちだが、翔平とスキップはもっと重要なことがあると理解していた。それを私もリスペクトするよ」

 シューメーカー監督は現役時代には打率3割を打ったシーズンを複数回記録しており、セントルイス・カージナルス時代の2011年には世界一に貢献した経験もある。カージナルスの選手らしく、勝ち方を知った知性派というイメージだった。そんな人物が引退後、すぐに指導者の道を歩み出したことも納得できる。

 昨季は就任1年目でナ・リーグの最優秀監督賞を受賞したシューメーカーが、最後に残した言葉もまた印象的だった。

「マーリンズにとってよくない日でも、ベースボールにとっていい日だった」

 引き立て役であっても、巨大なエンターテイメントの重要なキャストであったことに変わりはない。視野の広さと気品を持った44歳の青年監督が今後、若い選手たちが多いチームをどう導いていくかが楽しみでもある。

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  • 勝敗が付いていたのなら勝負もまた練習の一環。勝負すれば強くなる。逃げれば強くなれない。
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