【独自】大塚食品の報復人事訴訟 「不正告発後、仕事を取り上げられ孤立」告訴人インタビュー

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2024年09月23日 07:10  ITmedia ビジネスオンライン

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大塚食品公式Webサイト

 「ボンカレー」や「ジャワティ」などの製造販売を手掛ける大塚食品。このほど同社工場で品質管理を担当していた男性(以下「A氏」)が、内部通報をしたことにより会社から異動を命じられたうえ理不尽な環境での勤務を強いられ、うつ病を発症したなどとして、会社に慰謝料などを求め地裁に提訴したことが報道され、話題になった。


【画像】大塚食品が展開している商品


●何が起きたのか? 訴訟に至るまでの概要


 訴えによると、同社滋賀工場で「ポカリスエットパウダー」などの粉末原料が入っていたポリ袋からほこりや樹脂片などが検出され、社内調査の結果、本来包装に使用してはいけない非食品用のポリ袋が使われていたことが判明した。


 しかし会社側はそれ以上の対応をしなかったため、A氏は県に公益通報。県からは行政指導がなされたが、工場内では再発防止への周知も職員への処分もしなかったため、A氏は社長宛に内部通報した。


 その後、A氏は自分しかいない部署に異動させられ、監視カメラ付きの“軟禁状態”での勤務を強いられ、社内システムへもアクセスができなくなるなどの報復的措置を受け、うつ病を発症し休職することになったという。


 先般発覚した小林製薬の紅麹問題の例を見ても分かる通り、異物混入によって一般消費者に健康被害が出ていたら、大塚食品としても会社を揺るがす大問題になっていたはず。会社は、そんな事態を未然に防げた功労者であるA氏を称賛するどころか、報復人事によって追い出し部屋送りにしてしまった。


 また報道によると、A氏はうつ病で休職中であったにも関わらず、休職期間中に会社側が復職を要求したとのこと。一般に就業規則には「休職規程」が存在しており、「一定の休職期間を経ても復職できない場合は、業務遂行不可と判断し、当該従業員は自然退職となる」という主旨の規定もある。もし会社側が意図的に、復職不可能なタイミングを見計らって復職要請をしたとするなら、「A氏を自然退職に追い込みたい」との強い意思があったのかもしれない。


●【独自】「仕事を取り上げられ、孤立した」 A氏インタビュー


 筆者は、自身も報復人事の被害者として大変な状況にありながら、企業の問題行為に対して声を上げた本件訴訟の当事者である「A氏」に直接インタビューする機会を得た。これまでまだ明かされてない大塚食品の内情や、A氏の思いも踏まえた独自インタビューをお届けしたい。


新田: Aさんは、大塚食品工場内の衛生管理にまつわる内部告発が機能せず、公益通報をしたものの報復人事の被害に遭われた事態について提訴されたわけですが、これまで同社内で何らかの不祥事が発覚した際、会社側は再発防止策の実施や関係者の処分など、適切な対処はされてきたのでしょうか。それとも、隠蔽(いんぺい)体質が常態なのでしょうか。


A氏: 大塚食品は、過去にも意に沿わない社員に対して報復人事をしてきました。例えば2014年、社員の4分の1から3分の1をリストラしようとしたことがありました。これは当時新聞報道もされましたが、その際にも、退職に応じなかった社員に対して降格、転勤、配置転換などの報復人事が多く行われたことを、私はこの目で見ています。


 そして本件訴訟にかかる事件が発生する前、2016年にも、大塚食品が総合衛生管理過程変更手続においてHACCP(総合衛生管理)違反となる資料を近畿厚生局に提出していたことに関し、コンプライアンス担当取締役に対し内部通報をしたことがあります。


 その結果、違反の資料は取り下げられましたが、当該問題は社内では伏せられ、違反をした管理職たちが責任を取ることはありませんでした。代わりに、通報者である私が、内部通報の3カ月後に、他の工場への転勤となる左遷人事を受けました。


 また、私がこの訴訟で問題とする公益通報を行う直前の時期にも、職場内でマタハラ事案が発生しています。これは、管理職男性が女性社員に対して「お前が産休を取るから俺が大変になる」と公然と述べたもので、私ではない別の社員が内部通報したことで発覚しました。しかし会社側は、マタハラ発言をした管理職男性と被害者である女性社員のみにヒアリングしただけで、その場にいた多数の同僚目撃者には一切ヒアリングしませんでした。結果として、管理職男性はおとがめなし。それどころか、通報した側の方が3カ月後に退職してしまったのです。


 私は、これらの経緯があったことから、社内の内部通報窓口、コンプライアンス部は信用できませんでした。それが、この訴訟で問題となる公益通報を、外部である滋賀県食品安全監視センターに対し行った理由です。


新田: 現場最前線で品質管理を担当されている方からの内部通報だというのに、会社側は本当に何も対応しなかったのですか。


A氏: 県から会社に指導がなされましたが、それに対して会社は最低限の対応しかしておらず、従来同様、都合の悪い事案はすべて伏せ、社内への周知、再発防止に向けての十分な対応を怠っています。


 非食品用ポリ袋は、10年近く使われていました。会社は、非食品用ポリ袋自体が異物検出の原因ではないと発表していますが、ではなぜ異物が混入したのか。会社では、その発生源を特定するまでの調査をしていません。外部検査機関への試験依頼内容と結果はともに伏せられたままとなっており、十分に安全を保障出来るものとは言い難い状況です。


 またポリ袋の件以外にも不祥事があります。品質管理室内で製品の試験や検査をやるために用いる「実験流し台」という、常時清潔に保たないといけない所があるのですが、そこで男性パート従業員が複数回にわたって小便をしていたことも発覚しているのです。


 発生当時、取締役が東京から飛んできて、人払いさせたうえで実況見分をしていました。しかし当該男性パート従業員が定年退職するまでの1年間、会社側は聞き取り調査もせず、事態の調査が出来なくなるまで時間稼ぎをして伏せ続けました。この件もゴミ袋事案と同時に内部告発していますが、私としては、いずれの事案についても、会社が隠蔽しようとしたと考えざるを得ません。


新田: そのような度重なる会社側の姿勢に疑念を感じられ、公益通報されたのですね。


A氏: そうです。このような状態を放置すると、再び新たな衛生問題とその隠蔽が生じるのではないかとの危機感から、私は、社長と親会社、グループ会社への内部通報を追加で行いました。その結果、通報者が私であることの特定につながり、後の報復人事を受けることになったと認識しています。


 2023年4月に異動を命じられましたが、異動先では監視カメラが向けられた状態で執務し、十分な仕事を与えられず、多くの時間を待機状態とさせられ、畑違いの本事務所へ座席を置かれ、コロナ禍を理由に工場内への移動を制限され、他部署との連絡も自部署と他部署の双方の管理職に許可を取らないと仕事の話も出来ないなど、理不尽なものでした。


新田: 会社側の公式発表では「公益通報を理由に、違法な人事異動や異動後の取り扱いを行ったことは一切ございません」と表明していますが、一方でそのような、実質的に監視体制下にあるような勤務環境を強いられては、「報復目的」と指摘されても否定できないですね。


A氏: 会社が行った人事は「報復」と言わざるを得ません。本事務所内での軟禁および課長の週2回の監視来場、仕事の取り上げ、孤立化。仕事も出来ず、PCに向かって座り続け、定時が来るまで耐え忍ぶ日々がどんなに辛いことか想像できないでしょう。


 会社の目的は通報する邪魔者をいじめ、自己都合退職に追い込むこと、または休職に追い込み、解雇に持ち込むものと容易に推察できます。私が病休から復職する際も、主治医、産業医の就業環境配慮の進言を聞かず、嫌がらせを続けた行為は安全配慮義務違反と言えます。


 大塚食品は公益通報保護法と安全配慮義務を守り、直ちに嫌がらせをやめるべきです。そして消費者への裏切り行為を改め、説明責任を果たすべきです。それらのことを明らかにして、会社に社会的責任を自覚してもらい、耳に痛いことを述べる社員こそ大切にする会社になってほしい、という思いこそ、私がこの訴訟を始めることにした理由なのです。


●【独自】大塚食品の回答は? 


 筆者は一連の事案に関して、大塚食品側にも文書にて取材を依頼した。同社側からは詳細な回答が寄せられたので、その一部をご紹介したい。


「本件は、内部通報・公益通報に対する報復人事ではないか」との質問に対して


大塚食品の回答: 当社では内部通報窓口を設置し、通報者や通報に関する情報を厳重に管理した上で、通報者が不利益を被らないように適切に対応を行っており、内部通報を理由に、違法な人事異動や異動後の取り扱いを行ったことは一切ないことを改めてお伝えさせていただきます。


 人事異動につきましても、人材育成やキャリア開発につなげること、および組織の活性化を図ることを主な目的としており、ご質問にありますようなことはございません。


「内部通報で言及された、原材料への異物混入疑惑にまつわる製品の安全性」について


大塚食品の回答: 粉砕した原材料の製造前検査で異物が発見され、当該原材料はその時点で全て適切に廃棄しておりますので、食品衛生法に違反するものではありません。また、委託した外部検査機関による検査結果から、当時使用していたポリ袋の安全性も確認済みとなっております。


 当社製品は、原材料の受け入れから製品の試験まで適切に行っており、法令順守は勿論のこと、製品の安全性にも一切問題がないことを改めてお伝え申し上げます。仮に、何らか問題が生じた場合には、速やかに開示するのが当社の方針です。


「報道されている、A氏の異動後の監視体制など異様な就業環境」について


大塚食品の回答: 前提として不正確な報道内容の引用や一方的な認識、見解が多く含まれており、事実と異なる、あるいは、反論し得るものではありますが、係争中の案件であることから回答を控えさせていただきます。


 当社といたしましては、現在係属中の訴訟において、内部通報に係る案件に対する当社の対応に何ら問題がなかったこと、内部通報に対する報復として違法な人事異動や異動後の取扱いは一切行っていないことなど、当社の主張を法廷にて行ってまいる所存です。


●【独自】大塚食品の回答に対する、A氏の見解


 これら大塚食品側の回答に対して、A氏は次のような見解を示した。


 「会社は完全に逃げていると感じます。『何らか問題が生じた場合には、速やかに開示するのが当社の方針です』とありますが、中にいた者からしては、何を言っているのか? と思います。『隠蔽体質を隠蔽している』ことに他なりません」


 「原材料も廃棄したので安心しろと言っていますが、異物はどこから出てきたのかまだ特定できていない状況です。ポリ袋自体も10年くらい使っていて、どの過程で異物混入したか分からないし、発生源も特定できていない。外部検査機関に検査を出して問題ないとなったことが根拠かもしれませんが、そもそもどんな内容の検査をやったのか、社内にも開示してないので、本当に試験を依頼したのか。内容が適正かもわからないのです。10年分の安全を担保できるのでしょうか」


 A氏は最後に「とにかく、グループ全体の問題です。消費者の皆さんに申し訳ない」と語った。筆者も今後の裁判の進展を見守ると共に、こちらでも随時報告していく考えだ。


●悲惨な結果の数々――内部告発事例から見る問題の根深さ


 本件のみならず、内部告発者が「報われない」どころか、「悲惨な運命が待ち構えている」かのようなケースは多い。大きく報道されたものだけでも次のような事件が想起できる。


雪印食品牛肉偽装事件(2001年)


 豪州産牛肉を国産と偽装し、国からの助成金を騙し取ろうとした雪印食品を、取引先の倉庫会社社長が告発。一大スキャンダルとなり雪印食品は解散するが、他社も同様の偽装をしていたため、畜産業界全体を敵に回す形となった倉庫会社の取引先は激減。さらに「雪印食品と共謀して在庫証明を改竄(かいざん)した」として営業停止命令を受け、休業を強いられた。


ミートホープ食肉偽装事件(2007年)


 食肉加工大手企業が、「牛100%」をうたいながら豚肉を混ぜたり、消費期限切れ商品にラベルを貼り替えて出荷したりしていた実態を同社常務が告発。批判報道によって会社は自己破産したが、従業員は全員解雇となったほか、取引先からも「偽装商品を売りつけていたのか!」と批判を受け、取材攻勢に晒された元常務はそううつ病を患い、離婚、親族からの絶縁を言い渡された。


秋田書店読者景品水増し事件(2013年)


 読者プレゼントの水増しや未発送を指示されたことについて是正を申し入れた担当者が、社内から執拗な嫌がらせを受け、適応障害を発症。休職期間中に会社から「読者プレゼントを発送せずに盗んだ」として懲戒解雇された。


JA自爆営業身バレ事件(2023年)


 JA(農協)において共済(保険)契約のノルマが過大であるため、職員が不必要な契約を迫られる「自爆営業」の実態をTBS「news23」内で証言。しかし、証言した職員のインタビュー映像の加工が杜撰だったため、職場で身元が判明し、退職に追い込まれた。


補足とまとめ


 なお昨今の事例として「大阪王将ナメクジ騒動」で告発者が逮捕された件が記憶に新しいかもしれないが、これは告発者が店側とトラブルを抱えていたゆえの腹いせであり、実態としては誹謗中傷に当たるとして偽計業務妨害罪で起訴されているので、この分類には入らないと判断した。ちなみに当該事案の詳細は過去記事「なぜ、大阪王将“ナメクジ騒動”告発者は逮捕された? 意外と知らない『公益通報』のあれこれ」にて解説しているので、ご覧いただければ幸いだ。


 2022年6月1日に改正公益通報者保護法が施行され、常勤労働者数が300人を超える事業者には、内部通報窓口を設置し、通報された問題に対して迅速かつ適切に対応するとともに、通報者に不利益な取り扱いをしないことが義務付けられている。


 ただし、違反したところで行政指導や勧告を受け、企業名が公表される程度ということもあり、あまり抑止力になっていない面もある。結果的に通報者が充分に保護されていないとすれば大いに問題といえよう。


 近年は、公益通報や内部告発に期待できないからこそ、SNSや週刊誌を用いた暴露に至ってしまうケースも散見されるが、それらには告発者の身バレや懲戒リスクもあり得る。


 制度がきちんと機能して不正が是正されるためにも、公益通報者への不当な扱いには厳罰で臨み、問題を起こした会社や責任者には確実に責任をとらせるようになってほしい。


著者プロフィール・新田龍(にったりょう)


働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役


早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。


著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。


11月22日に新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)発売。



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