110mハードルの泉谷駿介が走幅跳で3連勝&8m14の好記録 来年の東京世界陸上へ“二刀流”での挑戦に意欲【全日本実業団陸上】

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2024年09月23日 11:05  TBS NEWS DIG

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全日本実業団陸上(山口市維新百年記念公園陸上競技場)2日目の9月22日、男子走幅跳は110mハードル日本記録保持者の泉谷駿介(24、住友電工)が8m14の今季日本2位記録で3連勝を達成。来年の世界陸上参加標準記録の8m27突破も期待できる力を示した。
昨年の世界陸上ブダペストは110mハードルで日本人初の入賞(5位)を達成した泉谷だが、パリ五輪は準決勝で13秒32、0.06秒差で決勝進出を逃していた。
来年の東京世界陸上で再度入賞を目指すが、走幅跳と2種目出場にも意欲を見せた。前例のない挑戦を行う意思表示をした。

全日本実業団陸上で成長を確認

8m14は1回目の試技だった。これまでの自己記録は、昨年の同大会で跳んだ8m10。更新できた要因を問われた泉谷は「ベースアップもありますし、思ったよりスプリントも上がっています。そういうのも含めてかな」と答えた。

パリ五輪から帰国後初戦は100mで、10秒14をマーク。追い風2.1mで、記録公認範囲の追い風2.0mより僅かに強く参考記録となってしまったが、予選とはいえ9秒98を持つ小池祐貴(29、住友電工)に0.12秒先着した。100mでも日本トップレベルの力がついていた。2回目はパスし、3回目と4回目は助走途中で脚が痙攣してファウル。5、6回目も無理をしないでパスをした。

津波響樹(26、大塚製薬)が6回目に8m03と8mジャンプを見せたが、泉谷が11cm差で専門外種目で3連勝。競技終了後の泉谷は開口一番「8m27の(東京世界陸上)参加標準記録を出せなかったことが少し悔しいですね」とコメントした。

110mハードルの標準記録は13秒27で、適用期間に入った8月以降に突破済み。来季の日本選手権などの成績で代表入りは有力だ。
二刀流をするのか? という質問には「そういう挑戦もありかな、と思っています」と、2種目での代表入りに意欲を見せた。

昨年の今大会では走幅跳に出場することの負荷の大きさや、スケジュールの難しさで走幅跳代表入りへの挑戦は躊躇っていた。しかしパリ五輪では、アナウンサーの「来年、世界陸上が東京で開かれます」という質問に「ハードルや色んな種目を試して、自分が楽しめるような陸上をやりたいと思います」と答えていた。

「2種目やっていきたい気持ちは自分の中にずっとあったので、そういう意味もあってのコメントだったと思います」

全日本実業団陸上はこれで、入社1年目から3連覇を達成。最初の年が自身初の8m台となる8m00、2年目の昨年が8m10で走幅跳代表の橋岡優輝に勝利。そして3年目の今年8m14とパリ五輪5位相当の記録をジャンプした。今大会での自身の成長が、泉谷に走幅跳でも世界に挑戦することを決意させた。

“二刀流”は両立が難しい2種目のケース

陸上競技で2種目の代表になる選手は多い。海外ではカール・ルイス(米国)が有名だ。91年東京世界陸上では100mに9秒86の世界新(当時)で優勝し、走幅跳は追い風参考の8m91で2位(公認で8m87の世界歴代2位)。

日本では朝原宣治が思い出される。95年イエテボリ世界陸上走幅跳で決勝に進出して12位になり、100mは01年エドモントン大会など3大会で準決勝に進出した。実際には簡単なことではないが、「速く走ることができれば遠くに跳べる」とは走幅跳関係者がよく使う言葉だ。

100m(または200m)と走幅跳の組み合わせ以外でも、短距離の100mと200m、中距離の800mと1500m、長距離の5000mと10000m、跳躍の走幅跳と三段跳、投てきの砲丸投と円盤投などは、近い動きで行う種目で二刀流とは言いにくい。

その点、男子110mハードルの代表選手が、他種目で代表になる例はほとんどない。ドワイト・トーマス(ジャマイカ)が100mで10秒00の記録を持ち、05年ヘルシンキ世界陸上は100mで5位に入賞。09年ベルリン世界陸上は110mハードルで7位に入賞したときは話題になった。

日本の110mハードル代表選手が、他種目でも世界陸上の代表入りした例は過去にない。女子100mハードル代表も、金沢イボンヌが99年セビリア大会、青木益未が22年オレゴン大会の4×100mリレーを走ったが、他の個人種目に出場した選手はいない。

パリ五輪男子110mハードル入賞者の、他種目の記録を調べてみた。

1位・G.ホロウェイ(米国)
走幅跳8m17、100m10秒21

2位・D.ロバーツ(米国)
100m10秒45

3位・R.ブロードベル(ジャマイカ)
200m21秒05

4位・E.ロピス(スペイン)
200m21秒82

5位・村竹ラシッド(JAL)
100m10秒68

6位・F.クリッテンデン(米国)
100m10秒78

7位・O.ベネット(ジャマイカ)
100m10秒54

8位・H.パーチメント(ジャマイカ)
200m21秒53

五輪&世界陸上で金メダル4個のホロウェイだけが、走幅跳で8m17と世界大会を戦える記録を持つが、他の選手はそのレベルの記録は持っていない。それだけ、世界レベルの二刀流は難しいことを示している。

混成競技出身だから可能な2種目挑戦

女子のハードル選手は、海外選手もスプリント種目や走幅跳で活躍してきた。G.ディーバース(米国)は93年シュツットガルト世界陸上で、100mハードルと100mで金メダルを取ったことがある。

女子ハードルは高さが83.8cmで、男子の106.7cmと比べ、身長比で見ても低い。踏み切る角度が低く、ハードリングが比較的走る動きに近いことが理由だと言われている。国内で100mハードルと走幅跳の2種目で活躍する選手がよく見られるのも、ハードルへ踏み切る角度が男子より近いからだと思われる。

両立できるのは泉谷が、混成競技で高校時代に日本一になった能力があるからだろう。110mハードルのように踏み切り角度が大きくても、走幅跳のように小さくても強い踏み切りができる。泉谷も「僕のいいところは、色んな種目ができること」と言う。

「110mハードルと走幅跳ができる選手は、やればいる思うのですが、実際にやろうとしている選手はいません。僕は単純に2種目で強くなりたい気持ちがありますし、アピールポイントにもなると思います。自分のいいところを最大限に発揮したい」

実際のところ2種目の挑戦は簡単なことではない。泉谷自身、「現実的に厳しいという感じ方もしています」と正直に話す。それでも全日本実業団陸上で2種目への挑戦を明言した。それだけ、やってみたい気持ちが強くなった。日本人では陸上競技史上初めて、世界的に見ても極めて珍しい挑戦を、来季の泉谷は実行に移す。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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