「ピクトグラム」では良さが伝わらない…… ワークマン、機能の「格付け」を始めた背景 対ユニクロも意識か

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2024年09月24日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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「格付け」を始めるワークマン

 ワークマンが「秋冬新製品発表会」を開き、自社の衣料品の機能を「格付けする」と発表しました。テレビでは格付け番組が人気です。一般的に、企業の信用格付けや飲食店の格付けでは「AAA」や「★★★」のように信用度をアルファベットや記号で表記することが多いですが、少なくとも筆者は衣料品の格付けなどこれまで見たことも聞いたこともありません。


【画像】こんなにあったの!? ワークマンの製品タグに付いている「ピクトグラム」、新しく開発した「格付け」(全6枚)


 果たして、ワークマンの格付けとはどのようなものなのでしょうか。消費トレンドを追いかけ、小売り・サービス業のコンサルティングを30年以上にわたり続けているムガマエ代表の岩崎剛幸が分析していきます。


●新たに「格付け」を開始


 ワークマンは8月末に2024年秋冬の新製品発表会を開催しました。メインテーマは「機能の格付け、始まる。」です。高機能で低価格なアパレルとして第一想起される企業を目指す――これがワークマンの戦略であり、何より同社の最大の強みは「機能性」にあります。


 今では同社製品の機能性はプロの職人だけでなく一般客にも知られ、顧客層が広がり、1019店舗まで拡大しました(8月末時点)。2022年から展開している「#ワークマン女子」でも、機能性と低価格を売りに、毎日レジ待ちの行列ができるほどの人気になっています。


 しかし、2022年4月に東京・銀座へ出店したあたりから、ワークマン製品の機能性が消費者に十分に伝わっていないのではないか? と個人的に感じるようになっていきました。デザインや「おしゃれ感」から女性の支持は集めたものの、本来の機能性を売りにしていたブランドイメージが徐々に薄れているように見えたのです。


 それはワークマン自身も感じていたようで、もっと消費者に本来のワークマンの機能性を分かりやすく伝える方法はないかと模索していました。そして、その一つの手段として、商品を格付けし、グレードに分けて提案する新しい手法を、新製品の発表会で紹介していました。


●4項目で5段階評価 機能性を分かりやすく訴求


 ワークマンの店頭で商品を見ると、機能性を表現した商品が多いことに気付きます。商品タグには、東京五輪で話題になった「ピクトグラム」を活用しています。文字や言語に頼らず、視覚的な図記号で情報や注意を表す案内記号で、ワークマンの最も多機能な製品には14個もピクトグラムが付いています。ちなみに、ワークマンで使用しているピクトグラム数は全部で260個だとか。ただ、製品や製品タグにピクトグラムを付記しても、一般消費者(特に女性客)からは「分かりづらい」との声が多かったと同社の担当者は話しています。


 発表会のスライドを見ても、消臭機能で5種類、抗菌機能で9種類など、さまざま存在します。ただ、どのピクトグラムが何を意味しているのかまでを理解するのは難しいのではないでしょうか。機能にこだわるあまり、機能の説明が複雑になり、商品特徴が逆に分かりづらくなり、消費者に伝わっていなかったのです。


 そこで、新たに「耐雨度」「防寒度」「ストレッチ度」「美脚度」と4項目で5段階評価の格付け基準を作り、商品タグに格付け内容が分かる表記を付けることにしたのです。星の数で格付けを行い、その内容に応じて商品のグレードを示すことで、どこまでの雨や寒さ、伸縮に耐えられるのかを分かりやすくしました。


 例えば耐雨度は「耐水圧」「透湿度」「撥水度」でレベル分け、そして耐雨度を5つのグレードに分類し、「小雨」「本降り」「豪雨」などどこまでの雨量に対応できるかを明示しています。


 会社全体としてはデザイン性を高めつつも、本来の強みである機能性に特化し、より幅広い消費者にアピールするのが格付けですが、あらためて、なぜワークマンはこのような取り組みを始めたのでしょうか。そこにはワークマンの現状が関係していると筆者は考えます。


●格付けで「複数買い」も誘発できる?


 近年、自社の好調さが話題になることの多いワークマン。2024年3月期の損益計算書を見ると、営業利益率は17.8%と高く、当期純利益率も12.1%で実績は申し分ありません。しかし、その成長性が止まりつつあるように見えます。


 同社の商品別売上高に、その兆候は表れています。カテゴリー別で最も売り上げ構成比が大きいワーク・アウトドアウエアの売り上げが落ちており、防寒アウターの売り上げは前期比13.8%減少、ウォームパンツが同12.2%減少したことが響いています。


 それ以外でも、防寒系アイテムが軒並み苦戦。暖冬の影響でやむを得ない部分はありますが、今後も天候異変は続くことが予想できます。通常の売り方を継続していたのでは、売り上げの成長を続けるのは難しいと同社が判断したのだと筆者は推測しています。


 今回、ワークマンが格付けを導入した理由の一つは防寒商品の売り上げを伸ばすことにあるでしょう。同社の売り上げを支えてきた防寒商品などのアウターは、単価が高い商品です。さらに伸ばすためには、冬の寒さが緩くても厳しくても変わらず売れる工夫が必要です。格付けで機能性を分かりやすくして、シチュエーション別に必要なアイテムを理解してもらうことも有効でしょう。例えば、防寒のグレード3と5、2着を購入してもらったり、台風や豪雨に備えて、日常使いの耐雨グレード3とグレード5の2着の同時買いが期待できます。


 現状のワークマンの1人当たり買い上げ点数は2.5点。もう1点購入点数が増えれば客単価は1100円上がりますので、現在2977円の客単価が4000円になる可能性もあります(数値は2024年3月期決算資料を基に筆者推計)。単純計算で、店舗数が増えなかったとしても全体の売り上げを630億円押し上げられるのです。もちろんここまで一気に上がることはないでしょうが、売り方を変えていけば今の国内だけでもまだ売り上げを上げられると同社は見ているということです。


●今後は格付けを世界標準に?


 格付けを導入したもう一つの理由は、ワークマンの業界内におけるポジショニングの変化です。


 ワークマンはこれまで「機能性×低価格」を武器に、作業服の専門店から、機能性ウエアの専門店としての地位を確立してきました。しかし「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」や「Workman Colors」などの新業態により、徐々に大人カジュアル、アウトドアカジュアル、デザインを重視したアイテムが増えてきました。もともとは図表内で左下のポジショニングだったのが、今ではユニクロを筆頭に、国内SPAブランドと競合する場面も見られるようになっています。


 一方、ユニクロはヒートテックやエアリズムなどの機能性商品を続々と開発しており、機能性では世界中で高い評価を得るブランドになっています。つまり、両社は別々のポジションにいたはずですが、同じような市場で競合し合う関係になり始めています。そこでワークマンはあらためて自社の一番の強みである機能性に特化することで差別化しようと、機能格付けを始めたのでしょう。


 ワークマンでは今後、格付けを日本の同業者へ普及させて世界標準にし、世界へ店舗網を拡大していくためのデファクトスタンダードにしようともくろんでいます。その上で、機能に特化したアパレル小売りチェーンとして拡大していく想定です。今秋冬の目玉商品である「XShelter 断熱」シリーズは、オンラインストア限定で予約販売したところ4日間で2万点を販売し、早くも売り切れて予約販売を終了しています。格付けは、秋冬のアウター商戦を乗り切り、同社の描く世界進出につながる取り組みとなるでしょうか。新しい動きに注目したいと思います。


(岩崎 剛幸)



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