スーパーの“隠したい扉”に動画を流してみた、店の売り上げはどうなった?

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2024年09月25日 06:30  ITmedia ビジネスオンライン

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スーパーの“あの扉”に動画を流すと、どうなった?

 「スイングドア」をご存じだろうか。前後に開閉するドアのことで、スーパーやコンビニなどでよく使われている。お店のスタッフが商品を運ぶとき、台車をドアに「ばーん」と押し当てて、バックヤードに入ったり、出てきたりしているシーンを見たことがあるはずだ。


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 「ほ〜、アレって『スイングドア』っていうのか。荷物で両手がふさがっていても、作業できるので便利そうだよね。で、それがどうかした?」などと思われたかもしれないが、これまであまり目立ってこなかったドアにお客の視線を集めて、店の売り上げを伸ばそうという取り組みが始まっているのだ。


 どういうことかというと、スイングドアにデジタルサイネージを搭載して、ディスプレイに商品動画などを映し出す。それを見たお客が関連商品を購入するという流れである。製品名は「サイネージスイングドア」。1970年代からスイングドアを手掛けているユニフロー(東京都品川区)という会社が2023年5月に開発し、スーパーなどで導入を図っている。


 ユニフロー社製の特徴は、頑丈であること。台車を頻繁に使う現場でも、ほぼメンテナンスなしで長期間使用できる。また、スーパー、コンビニ、ドラッグストア、工場など、現場に合わせて1ミリ単位で製品を提供していることも好評のようで、同社のシェアはトップ(建材マーケット調べ)。市場全体で年間の販売数は3万5000枚ほどだが、同社はその85%を占めているという。


 新しい製品をつくらなくても、売り上げは安定してそうだが、なぜユニフローはサイネージスイングドアを開発したのか。きっかけは2つあり、1つはお客からの声である。「各店舗での販促を活性化させたい」「チラシやPOPの経費・手間を減らしたい」という要望があった。


 もう1つは、耐久性である。先ほど紹介したように、スイングドアはなかなか壊れない。それは「会社の信頼」につながることなのでとてもいいことだが、一方で「そろそろ交換しようか」という動機がなかなか生まれない。新しい製品を投入することで、交換需要が生まれるのではないかという狙いがある。


●耐久テストは50万回超


 ユニフローによると、スイングドアにサイネージを搭載した製品は「世界初」だという。では、どのように開発したのか。


 国内外でサイネージを手掛けている会社に声をかけたところ、「難しい」「壊れそう」という理由で、話がなかなか前に進まなかった。色よい返事がなかったが、とある会社に相談したところ「壊れないという補償はできないが、一緒にやってみましょう」という言葉が返ってきた。


 とはいっても、もちろん簡単に完成したわけではない。最も時間を要した……いや、要しているのは耐久テストである。お客に「完成しました! 使っていただけませんか?」とアピールしても、先方からはこうした言葉が返ってくるはずである。「これって壊れないの?」「本当に安全なの?」と。


 「サイネージスイングドアも耐久性がある」ことを分かってもらうために、同社は耐久テストを何度も何度も繰り返す。専用の機械を設置して、台車を何度もぶつける。その数は、100回や200回ではない。1万回や2万回でもない。50万回である。気が遠くなる数字であるが、24時間ぶっ通しでテストを繰り返して、開始から6カ月が過ぎたころにようやく終了した。


 結果は「問題なし」。その後、実店舗で試験的に2年ほど使ってもらう。搬入業者もお店のスタッフも台車を使って、1日に何度も「ばーん」を繰り返す。結果、ここでも「問題なし」。同社はそれでも満足せずに、いまでも耐久テストを続けているそうだ。


●開くだけではなく、“売る”扉に


 サイネージスイングドアが完成して、次に何を行ったのか。ディスプレイに動画を流して、お客はその商品を購入するかどうかの実験である。


 神奈川、千葉、大阪、三重のスーパー4店舗で、1カ月ほど効果を検証した(期間は2022年12月から2023年2月にかけて)。鍋つゆのレシピ動画を流したところ「関連商品」の売り上げは、前年同時期と比較して、全店で増加したのだ。PI値(レジ通過客1000人当たりの購買指数)が最も伸びたのはB店で93%、次いでD店が60%、A店とC店はいずれも12%という結果に。


 サイネージスイングドアが売り上げを大きく“スイング”させたわけだが、残念ながらデータの母数が少ない。また、現状の課題は「導入店舗の数」である。これまでになかった製品であること、製品の特性上なかなか交換しないこと。こうした背景があって、導入は10台ほどにとどまっている。


 じっくりじっくり売っていく作戦のようだが、この市場でトップを独走している会社にとって、この数字はちょっぴり寂しい。というわけで「壊れないこと」「安全であること」をアピールして、導入台数を増やしていく構えである。


 それにしてもスイングドアというのは見せるドアではなく、これまではどちらかというと“見られたくないドア”だった。しかし、新しいドアを設置すれば、一人でも多くの人に見てもらうドアに生まれ変わらなければいけない。


 「あれ、なんだろう。このドアで動画が流れている。ちょっと買ってみようか」――。こうしたお客が増えていけば、未来の“扉”が開くかもしれない。


(土肥義則)



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