久保建英が活躍中のレアル・ソシエダの「エスタディオ・アノエタ」は美しいビーチが続く高級保養地のスタジアム

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2024年09月25日 19:01  webスポルティーバ

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欧州サッカースタジアムガイド2024-2025
第12回 エスタディオ・アノエタ(Estadio Municipal de Anoeta)

 ロンドンのウェンブリー・スタジアム、マンチェスターのオールド・トラッフォード、ミラノのジュゼッペ・メアッツァ、バルセロナのカンプ・ノウ、パリのスタッド・ドゥ・フランス......欧州にはサッカーの名勝負が繰り広げられたスタジアムが数多く存在する。それぞれのスタジアムは単に異なった形状をしているだけでなく、その街の人々が集まり形成された文化が色濃く反映されている。そんなスタジアムの歴史を紐解き、サッカー観戦のネタに、そして海外旅行の際にはぜひ足を運んでもらいたい。連載第12回目はエスタディオ・アノエタ、通称「レアレ・アレーナ」(スペイン)。

 日本代表MF久保健英が2022年からプレーしているのがスペインのレアル・ソシエダであり、ホームスタジアムは「レアレ・アレーナ」こと「エスタディオ・アノエタ」だ。
 
 ラ・リーガ1部に所属するレアル・ソシエダは、1980年代にリーグ戦で連覇を果たしている古豪で、この10シーズンほどは優勝争いこそできていないが、過去5シーズンは6位以上と安定的な成績を残しており、昨シーズンはチャンピオンズリーグにも出場している。
 
  本拠地はスペイン北東部の港湾都市で、バスク州キプスコア県の県都であるサン・セバスティアン(バスク語ではドノスティア)だ。フランス国境に近く、美しいビーチが続き、世界的な高級保養地としても名高い。そのため19世紀初頭から、スペイン王室が避暑地として利用するようになり、「夏の都」として利用されるようになった。
 
 20世紀初頭、イギリスからサン・セバスチャンにサッカーがもたらされ、前身のクラブでサッカーが行なわれるようになり、1909年には「クルブ・シクリスタ・デ・サン・セバスチャン」として国王杯で優勝した。
 
 当時のエンブレムの上部に自転車の車輪、下部にはサッカーボールを合わせたデザインだったように自転車部門が主だったため、この優勝をきっかけに独立する形でサッカークラブであるソシエダ・デ・フットボール(Sociedad de F?tbol)が誕生した。この頃から、市旗や市章の色に由来する青白ユニフォームが使用されるようになり、現在のエンブレムの原型も考案された。
 
  翌年の1910年には「夏の都」として使っていた、サッカー好きのスペイン国王アルフォンソ13世によって、「レアル(王)」の称号を授かり、サッカークラブとして初めてレアルの名を冠するクラブとなった。同時にエンブレムに王冠を施すことが許されたため、「ラ・レアル(La Real)」と言えば、一般的にはレアル・マドリードではなく、レアル・ソシエダを指す。
 

  ただ1931年、スペイン内戦により王政が崩壊すると、クラブ名はバスク語でサン・セバスチャンを意味する「ドノスティア・クラブ・デ・フットボール」と改名し、エンブレムの旗にあった王冠も削除された。1940年に王政が復活すると、再び、クラブ名がレアル・ソシエダとなり、王冠が復活し、エンブレムもほぼ現在のデザインとなった。
 
  そのレアル・ソシエダのホームスタジアムは、エスタディオ・アノエタ(Estadio de Anoeta)である。スタジアムが面している通りの名前から付けられた。現在はイタリアの保険会社がネーミングライツを取得していることにより「レアレ・アレーナ(Reale Arena)」と呼ばれている。
 
  アノエタは1909年から1913年まで使用したエスタディオ・オンダレタ、1993年まで80年ほど使用したエスタディオ・アトーチャに次いで、クラブにとって3つ目となるホームスタジアムだ。もちろん、バスク人デザイナーによって考案されたアノエタの特徴は何といっても流線形のUFOのような青い外観であり、どの時間帯でも太陽光が入るように半透明となっているという。
 
 スタジアムツアーもあり、カップの展示や、ロッカールーム、インタビュールームなども見ることができる。外部のコンコースには、1980年代前半に成功を収めた監督・故アルベルト・オルマエチェアの胸像がある。
 
  旧陸上競技場跡地に建てられたアノエタは、サン・セバスティアンのアマラ地区の南に位置する。新市街からバスに乗って15分ほどで、徒歩でも30分くらいで到着する。また、市の中心のアマラ駅からアノエタスタジアム駅までは電車でわずか3分だ。周辺にはスポーツセンターやスケート場などがあり、全体でいわゆる「アノエタ・スポーツ・シティ」の一部を形成している。このスポーツ複合施設の隣には「ドノスティア・アレーナ2016(通称イジュンベ闘牛場)」がある。

 建設資金はサン・セバスティアン市議会、ギプスコア州議会、クラブであるレアル・ソシエダが拠出し、スタジアムは市の団体であるソシエダ・プリヴァーダ・ムニシパル・アノエタコ・キロルデジアが管理している。クラブの投資金額が一番多いため、2074年まで本拠地として使用できる予定だという。 

  1993年7月29日、新スタジアムでは欧州ジュニア陸上選手権が開催され、8月13日にはレアル・ソシエダ対レアル・マドリードの親善試合が行なわれ正式にオープンした。試合は2−2の引き分けだった。同日、「カイショ・アノエタ(Kaixo Anoeta)」(バスク語でアノエタの敬礼)と呼ばれる落成式が行われ、旧エスタディオ・アトーチャの芝生がピッチの中央に置かれた。
 
 2004年、当時レアル・ソシエダの会長が改修プロジェクトを立ち上げた。 2007年の完成を予定していたこのプロジェクトでは、スタジアムの収容人数を30,000人ほどから42,000人に増やし、長年の懸案とされてきた陸上トラックを撤去する予定だった。しかし、この提案はすぐに市議会によって却下されてしまった。
 
  そこで2007年末、レアル・ソシエダの会長候補であった人物がスタジアムを購入することを提案した。これらの提案は市議会によって検討されることになっていたが、結局は、その後の会長がスタジアム改修の新たな試みを始めた。
 
  2015年、クラブはついにスタジアムを拡大するとともに、ついに、フィールド周辺のトラックを撤去すると発表した。 最終的に工事は2017年5月に始まった。2019年10月に完成すると、改修されたアリーナは約42,300人の観客を収容できることになった。
 
 改修工事の第一段階はトラックの撤去とサイドスタンドの下段の座席の設置、そして南側スタンドの全面改修で、2018―19シーズンのラ・リーガ開幕直後に完了した。新しい北側スタンド工事は、そのシーズン中に完了する予定だった。
 
 2019-20シーズンのリーグ戦の最初の3試合をアウェーで行ない、スタジアムの改築工事を完了させようとした。改修された新スタンドがオープンしてからほぼ1年後で、全席設置後の初戦は、収容人数39,500人となり、2019年9月14日に行なわれたアトレティコ・マドリードとの試合は2−0で勝利した。観客動員数は33,374人と発表され、改修前の最大観客動員数を上回り、クラブ記録となった。 その5カ月後、アスレティック・ビルバオとの「バスク・ダービー」を2−1で制し、36,730人という新記録を樹立した。
 
  改修が終わった2019―20シーズン、レアル・ソシエダはバスクのライバルであるアスレティック・ビルバオとの決勝を制して32年ぶり3度目の国王杯を獲得している。
 
 ファンは「ラ・レアル」ことレアル・ソシエダが、クラブとして3つ目のスタジアムでありフットボール専用場に改修されたアノエタで、3度目となるリーグ優勝する日を毎年、待ち望んでいる。

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