280円プラン×旅行特典を打ち出すHISモバイル ただし“日本通信ショック”で激震、改定が急務に

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2024年09月27日 06:11  ITmedia Mobile

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10GBと30GBを新設し、100MB未満と20GBを値下げした「自由自在2.0プラン」

 HISモバイルは9月5日に、料金プランを改定。「自由自在2.0プラン」を導入した。1GBプランで100MBを下回った場合の料金を10円値下げした他、10GB、30GBを新設して中容量帯のラインアップを厚くしているのが特徴。もともと提供していた20GBプランも2190円(税込み、以下同)から2090円に値下げした。これらに加え、5分かけ放題の時間を1分追加して6分にするなど、全体的に料金プランを見直している。


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 もう1つの特徴が、HIS本体との連携だ。例えば、ハワイでは「LeaLeaトロリー」の1日乗り放題パスが無料になる他、「LeaLeaラウンジ」も最大7日間、優待特典として利用できる。ベトナムも「VuiVui Ride」も乗り放題パスが無料になる。他にも、HISの旅行代金が最大3000円引きになるなど、HISモバイルがHISグループのMVNOだからこそ実現できる特典を充実させた。親会社の事業でシナジー効果を出すのは、MVNOらしい戦術といえる。


 一方で、ドコモがahamoのデータ容量を10月1日から30GBに増量することで、導入したばかりの20GBプランや30GBプランの魅力が薄れてしまったのも事実だ。HISモバイルをMVNEとして支援する日本通信も、これに対抗する料金プランを打ち出している。こうした動きには、どう向き合っていくのか。H.I.S.Mobileで代表取締役社長を務める猪腰英知氏に話を聞いた。


●従来の料金プランにミスマッチがあり、離脱の理由になっていた


―― 今回、料金プランを全体的に改定し、名称も自由自在2.0プランに改めました。なぜ、料金改定に踏み切ったのでしょうか。


猪腰氏 料金の相対的な優位性が下がってきていたからです。この1年ぐらいのトレンドで、いろいろな会社が10GBプランを出してきました。HISモバイルにも7GBプランがあり、(データ追加で)10GBも賄える作りでしたが、(その上が20GBになり)間があまりに空きすぎているとは感じていました。7GBプランもニーズがだんだんと落ち、データ容量の上限まで行く人が増えています。


 うちの中の料金プランと、世の中で提供されている料金プランのミスマッチがあり、それがユーザーの離脱の理由にもなっていました。その数値が上がっていることもあり、適正値に戻さなければと思ったのが料金を見直した理由です。全体的に料金体系を見直すということをしました。


―― なるほど。280円という部分がフィーチャーされますが、どちらかといえば中容量帯の見直しという側面の方が大きかったということですね。その中で100MB未満を10円値下げしたのは、やはり日本通信への対抗という意味合いが大きかったのでしょうか。


猪腰氏 280円の根本には、日本通信とのすみ分けがあります。今までは金額が290円でまったく同じでしたが、それだと1GBまで使える日本通信でいいとなってしまいます。少なくとも、ほとんど使っていない人であれば、10円でも安い方がいい。日本通信もいろいろな料金プランを出されていますが、そことなるべく離れにいくというところで値下げしました。弊社のユーザー属性として、やはり海外に行っている方が比較的多い。そういうところを出しつつ、HISらしくやれたらという思いで280円にしました。


●社内の人脈を生かして旅行関連の特典を開拓 HIS側にメリットも


―― 280円で維持していても旅行関連の特典が使えるのはなかなかすごいですよね。


猪腰氏 これは昔からやりたかったことです。そもそもコロナ禍は想定外でしたが、それがあまりにも長引いている間にHISも冬眠状態が続いていました。われわれは自由自在プランを出し、流入も増えていましたが、現地(海外)で人が動いていない。お客さまも旅行には行かないという状況が続いていました。昨年(2023年)、自由自在スーパープランを出したときはようやく動き始めていましたが、動き始めたばかりで交渉にならない。


 その間にぐるっと一周回って、今は料金がどんぐりの背比べになっています。それならHISの看板を出して訴求した方が分かりやすい。せっかくHISなのに、何で特典がないの? という声は多かったですからね。業界で問われているのも、キャリアとどう差別化するかです。そこに従い、うちらしさを出すために力を入れて交渉しに行きました。


―― コスト構造的には、大丈夫なのでしょうか。


猪腰氏 社内的には協力体制ができています。原価構造として、1件使うごとにコストが増えるようなものは出せませんが、トロリーのようなサービスは基本的に全て買い切ってから提供するため、増発しなければならないほど人が増える状況にならなければ問題はありません。満員電車の乗車率が80%から100%になっても、基本的な原価が変わらないのと同じです。


 私自身、ずっとハワイの仕事をしてきましたし、HISモバイルに出向してきたメンバーの中にも社内的な人脈のある人が増えてきました。そのへんの交渉がスムーズにいくようになり、協力を仰げたのは大きいですね。お金を出せと言われるとなかなか難しいところですが、グループ同士で応援し合う形で同意が取れました。これは、社内人脈が効いている部分でもあります。


―― なかなか豊富な特典ですが、これをそろえるのは大変そうです。


猪腰氏 ベトナムの支店に行って交渉し、ハワイの支店に行って交渉しを繰り返しました。各部署それぞれと交渉がいりますからね。ただ、それをまったく知らない人がやるのと、ちょっとミーティングを入れさせてと入れる人がやるのとでは全然違います。相手が誰かを分かっている状態なので、イエスかノーの世界で、1時間、2時間程度の交渉で特典が増えていきました。


―― HIS側には何かメリットがあるのでしょうか。


猪腰氏 私もツアーの責任者をしていましたが、その中で売れ残っている商品や売らなければいけない商品はどうしてもあります。現地で数を握っているケースですね。困ったときに、それを会員限定で販売できるような顧客基盤があったらいいのにずっと思っていました。


 例えばチャーター便やクルーズになると、それこそ何千ルームになるわけですが、仮に売れ残ってしまったとしても、社割価格のようなものを外に出すわけにはいきません。クローズドな環境でそのメリットをお届けできれば、お客さまにとってもプラスになります。今まで、それがあまりできていませんでした。旅行が戻り、それをなしうる体制がHISとHISモバイルの両方で整ってきたといえると思います。


●ahamoショックより日本通信ショックの方が大きかった


―― 新料金に合わせて初期費用を抑えるエントリーコードを販売しましたが、アクセスが殺到していたように見えました。急きょ、販売を楽天市場に広げたのも確認しています。実際、いかがでしたか。


猪腰氏 エントリーコードは想定の10倍ぐらい売れています(笑)。1000、2000ぐらい売れればいいかと思っていたのが、実際には万単位でした。しかもサーバが落ちてしまい……。バックアップで走らせた楽天市場からも、普段とは異なるお客さまが流入してきました。


―― 万単位はすごいですね。全員が移ってきたらかなりの純増になると思いますが、最初は33円だったので、取りあえず買ったという人も含まれているのでしょうか。


猪腰氏 今、まさに分析しているところですが、開通率は今のところ50%を切っています。この期間中(料金プラン発表からインタビューまで。インタビューは9月19日に実施した)にいろいろな出来事があったので、別の検討をしている方もいるかもしれません。要因が重なりすぎていてなかなか分析しきれない部分があります。


―― 確かに、再びahamoがデータ容量を増量したことで料金が動き始めています。日本通信も料金を改定しました。


猪腰氏 正直に言うと、ahamoショックより日本通信ショックの方が大きかったのですが(笑)。ただ、昨日の今日なので、まだ日本通信とは話をしきれてはいません。本来、うちはMVNOと戦うのではなく、ahamoと戦う体でやっていたので、もともと日本通信には値段を合わせていませんでした。ただ、日本通信が容量を上げてきたので、うちも上げられるなら上げていきたい。少なくとも、価格なり容量なりは変えていきたいと考えています。


 日本通信もahamo対抗でああいったプランを出したのだと思います。本来刺そうとしていたのはうちではなくahamoのはずなのですが、うちも近くにいて被弾した状況ですね(笑)。


―― MVNEなのに(笑)。


猪腰氏 ただ、50GBの部分を大きく狙っていたかというと、そこまで大きなマーケットではありません。対策するなら、うちも容量を上げますというようなことをすると思います。一方で、10GBプランは日本通信の「合理的みんなのプラン」とのバランスも取って値付けしていたつもりでした。あれが20GBになるのであれば、もう少し値段を下げたい。価格のとがり方が鋭角になれば、プラン自体の価値は戻ってくると考えています。


―― 料金改定が相次ぎましたからね……。


猪腰氏 iPhone発表のタイミングを狙われたのだと思います。うちも本当はもう少し早く発表したかったのですが、完全にかぶらなかったのが唯一の救いですね……。


●通話は5分からはみ出している人の30%が6分の範囲に収まる


―― 今回、かけ放題も5分から6分にしました。この狙いを教えてください。


猪腰氏 5分からはみ出している人の30%が、無料の範囲に収まるようになるからです。別の言い方をすると、6分だと秒課金が発生しない方が3割増えるということです。その微妙な1分に、結構な数の方がいらっしゃった。どうやってお客さまにアプローチしようか調べていたときに、面白い数値のかたまりがありました。


―― HISモバイルは、従量部分の料金も30秒9円で他社と比べて安くなっています。ここを目当てに契約する人もいるのでしょうか。


猪腰氏 そこが目当てかどうは分かりませんが、従量課金の部分は安くしています。ただ、かける人は5分かけ放題をつけています。また、かけ放題に入っていているにもかかわらず、全然使わないという人もそれなりにいます。実際に使っているのは全体の2、3割ですね。1GBプランでそのまま使わず、サブ回線として持っている人は当然電話もしないですから。比率でいえば、そこも大きいかもしれません。


―― それでいうと、メインとサブどちらとして使っている人の方が多いのでしょうか。


猪腰氏 サブの方が多いと思います。1GBプランをサブという認識でお話ししていますが、全然使っていない人もそれなりにいますね。ある程度使って1GBに収まっている人もいて、バックアップ的に使われているのだと思います。これは旅行の特典もそうですが、まずはドアを開けていただき、スマホの中に入らせていただく。そこに入りさえすればアプローチすることができます。そういう意味で、280円は非常に大事なプランです。そのためには、マイページの充実化が必要ですが、前段としてAIを入れることにしました。


●店頭で相談していたことをAIでやれるようにしたい


―― AIはどういう使い方になるのでしょうか。


猪腰氏 AIを使わなければ、これからのビジネスは成り立ちません。どんな使い方ができそうなのかということは、2年ぐらい前から調べてきました。まずはコールセンターで、ヘルプデスクの自動化を進めるうえで以前のチャットbotには限界がありました。これをAIにやらせると、回答精度がぐんと上がり、使えるねという話になりました。その使えるAIをどう次に生かすのかという中で、料金プランもトライアルとしてはやりやすい。完全従量制だとAIが出てくる場面はありませんが、AIとの対話で店頭に行ってやっていたこと(料金プランの相談)をやれるようにしたい。


 質問と回答のラリーをするだけで、「気付いていないけどこういう使い方ができますよ」という提案や、「こういう料金プランがありますよ」というような提案をAIができるようにしていきたいと考えています。今はデータを食べさせながら実証実験をしていますが、まずは料金を安くするところから自然な形で導入したいですね。


―― 自由自在プランを出してから、契約数はどの程度まで伸びましたか。


猪腰氏 増えてはいますが、まだ数10万程度です。ただ、純増は昨年の20%アップぐらいで伸長しています。ストックが増えると解約率も増え、伸びが鈍化するところがありますが、新料金の10GBプランのところで解約率を下げたい。当然新規契約も上向かせないといけないので、そこを意識しながらやっています。


●取材を終えて:ahamoと日本通信に合わせた改定が急務に


 満を持して投入した新料金プランだが、どちらかといえば10GBなどの中容量プランで解約を抑止する狙いが強かったようだ。裏を返せば、100MB未満の安さが受け、新規契約は順調に獲得しているということ。旅行関連の特典が加わり、その魅力はさらに増している印象だ。HISならではのMVNOとして、他社との違いも打ち出しやすくなっている。


 一方で、データ容量を30GBに増やしたahamoや、そこに対抗した日本通信SIMのあおりを受けていることも分かった。特に、合理的みんなのプランが1390円のまま、10GBから20GBに増量される影響は大きいという。10GB、20GB、30GBの料金プランはahamo対抗として打ち出しただけに、改定は急務といえそうだ。



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