苦労して採った優秀人材が「合わない」とアッサリ離職……“採用の悲劇”を防ぐ2つのポイント

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2024年09月27日 08:11  ITmedia ビジネスオンライン

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採用時のコミュニケーション、2つのポイント

 人材不足の状況下で、多くの企業が採用に力を入れるのと並行して、リテンション(優秀人材の流出防止)にも注力するようになってきました。


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 採用活動の多くの時間や費用を投じ、せっかく入社してもらった優秀人材が「この会社には合わない」と退職を決めてしまった──担当者が頭を抱える、このような事態を防ぐためには、まずは採用を見直すことです。採用の段階で生まれてしまったミスマッチは、後から対応することが困難です。


 ミスマッチを生じさせない採用活動には、どのような視点が必要なのでしょうか。2つのポイントをお伝えします。


●引きとめは「必ずしも正解ではない」


 前回の記事「人材不足でも、引きとめは『必ずしも正解ではない』──人事・上司に知ってほしい6つのこと」では、従業員のキャリア自律を促すことがリテンション(優秀人材の流出防止)の基盤となること、一方で、離職の引きとめが常に正解ではないことをお伝えしました。


 改めて「望ましいリテンションとは何か」を言葉にするとすれば、従業員が能力を発揮して仕事に意味を見いだせるよう、企業との間でオープンなコミュニケーションが重ねられること、仮に退職に至ったとしてもつながりを持ち続けられることといえるでしょう。


 反対に、企業にとっては理由が分からないまま、あるいは関係がもつれたまま人材が去ってしまい、そこで関係が絶たれてしまう事態が繰り返される場合、リテンションは適切に機能していないといえます。このような事態に陥ったときには、企業は自社の採用とマネジメントが適切に行われているかを点検する必要があります。


●リテンションを考える上で採用が最重要である理由


 企業がリテンションを考える上で、まず考えるべきは採用です。採用の段階で生じたミスマッチは、後から解消することが難しいためです。


 例えば、職務や組織風土が従業員の持ち味と合わず、成果を上げられない場合。あるいは従業員が自社について誤った認識や偏ったイメージを持ったまま入社してしまい、現実とのギャップを受け入れられない場合。このような場合は、異動や育成、コミュニケーションでは解消しきれない根深いミスマッチが存在する可能性があります。


 また、採用の機能不全が長期化すると、さらに深刻な事態を招きます。採用段階でのミスマッチは入社者にとっても、入社者を受け入れる組織にとっても大きな負担となるため、組織の生産性や士気の低下を招きます。


 そうなればリテンションが困難になり、離職のリスクが増します。頻繁に離職が起きるようになると、限られた人材で業務をこなし、マネジャーもメンバーも多忙に。コミュニケーションに時間を割くことが難しくなり、加えて「育ててもすぐに辞めてしまうのではないか」という不信感が生まれ、ますます人材の定着が妨げられます。


 組織に対するネガティブな感情が増し、それがインターネットに書き込まれれば、採用にも大きな影響を及ぼします。このように、採用とリテンションは密接に連動しているのです。


●採用時のコミュニケーション 2つのポイント


 こうした負のサイクルに陥ることを防ぐため、採用活動において、具体的にどのようなことに留意すればよいのでしょうか。応募者とのコミュニケーションに関して、2つのポイントがあります。


(1)情報提供を行い、企業理解を促す


 昨今は、インターネットでさまざまな企業情報を閲覧できます。採用活動・就職活動を行う上では非常に便利ですが、実はミスマッチの潜在的な要因にもなっています。


 インターネットの情報は、何をどのように受け取るかが個人に委ねられ、かつ候補者が情報を「受け取るだけ」で自己完結しやすいものです。企業は採用イベントや面談・面接など応募者と個別で接する機会を最大限に活用し、自社に対する理解度や興味関心を確かめ、情報を補う必要があります。


 ある会社の例をご紹介します。長年、新卒採用を行っているA社では、応募者の情報収集が「自己完結型」に変わってきていることを踏まえ、数年前から対策を取っています。


 面接時の「自社アピール」を廃止し、代わりに応募者から知りたいことを質問してもらい、なぜそのことが気になるのかを掘り下げた上で回答し、さらにその回答を聞いて候補者がどのように思ったかを確認しています。


 このような方法は、新卒採用や未経験者の中途採用など、特に入社後のイメージを持ちにくい対象者とのコミュニケーションにおすすめです。


(2)応募者の人物特徴を理解する


 採用選考を通じて応募者の特徴を把握することで、自社への適性を見極められるとともに、入社後の配置やマネジメントに生かせます。


 また、企業が捉えた特徴を本人に伝える(フィードバックする)ことで、「この会社は自分を理解しようとしてくれる」という感覚を高め、キャリア自律の一要素である自己理解を促すことにもつながります。入社後のリテンションの観点から、採用時に特に捉えておきたい人物特徴は2つあります。


 1つは「資質」で、性格や基礎的な能力が該当します。これは大人になるまでに身についたものの見方・考え方や行動のパターンで、入社後にもあらわれる可能性が高いからです。


 資質の中で際立った要素は、あまり意識せずとも発揮できる強みといえます。資質を確認するには、実際の職務行動を観察するか、過去の経験談を数多く聞き、一貫した特徴を探ります。採用選考では応募者とコミュニケーションを取れる時間が限られていることが多いため、適性検査を併用するのも有効です。


 採用時に見ておきたいもう1つの人物特徴は「働くことに対する志向・価値観」です。「チームをリードしたい」「専門性を発揮したい」などのように職場での行動の動機となる考えのことで、長期的にはキャリアを方向付ける要素です。


 経験を積む中で明確化し、組織への定着に深く関わるため、特に中途採用においては資質とあわせてチェックしましょう。


 過去の経験において何を考えて行動を取ったかや、自社で働くに当たってどのような希望や期待を持っているかを尋ね、その理由を掘り下げます。転職理由との一貫性を確認することも重要です。


 最近は、新卒採用でも志向や価値観を確認する会社が増えています。高度にパーソナライズされたサービスに慣れた若年層は「自分がいいと思うものを選びたい。合わないものは早めに除外したい」という気持ちが強いためです。


 当社が就職活動生を対象に実施した「2024年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」でも、ここ数年、勤務地や配属先組織が確約されるかどうかが志望度や入社意思を大きく左右するようになっています。企業としては、選考中の辞退を防ぐとともに、入社前後で認識のギャップを生まないよう、志向・価値観を押さえて情報提供を行いたいものです。


 新卒採用特有の留意点として、応募者の働くことに対する考えが固まっていない可能性があります。そのため、現時点での考えをたずねるとともに、応募者の視野を広げたり、言語化を手伝ったりするようなアプローチを取るとよいでしょう。


 具体的には、自社にどんな考えをもった人がいるかを紹介する、就職活動中に感じたことを問いかける、発言から垣間見えた特徴をフィードバックするといった方法が有効です。


 特定の職務における即戦力を求める場合には、知識・スキルを採用の要件とされることも多いでしょう。しかし、同様の職務内容でより良い待遇のポジションの募集が社外に出てきた場合に、知識・スキルを生かせることだけを理由にリテンションを図ることは難しいといえます。自社の一員として働き続けてもらうことを考えるならば、資質・志向・価値観のマッチングも考慮する必要があります。


●社内事例を収集し、採用活動を改善する


 ここまでの内容を読んで「自社の採用活動を見直したい」と思われた方には、まず社内でリテンションが必要となった事例や離職に至ってしまった事例を集めて分析し、関係者間で共有することをおすすめします。


 事例の分析を通して、採用段階で見極めるべきことや応募者に伝えるべきこと、採用後に取り組むべきことを明らかにし、採用活動とマネジメントの改善につなげることが目的です。責任の追及や対応の良しあしを評価するのではなく、あくまで事実を冷静に見つめましょう。


 リテンションや離職の情報は通常当事者間でのみ扱われますが、それゆえ採用に還元されにくかったり、面接者の個人的な採用基準として取り入れられ、公式の採用基準とずれが生じたりすることもあります。そのため、人事部門が中心となって取り組むこともポイントです。


 事例収集を行う際には、当事者からのヒアリングが基本となります。しかし、視点の偏りや臆測、建前が含まれる場合もありますので、定量的な情報もあわせて活用しましょう。採用時の適性検査の結果や評価情報、仕事に臨むコンディションを把握するためのサーベイの結果などを活用できます。


(飯塚彩、リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員)



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