「3つの証拠ねつ造」認定 再審で袴田巖さん(88)に無罪判決 逮捕から58年 裁判長が謝罪「時間かかり申し訳ない」【news23】

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2024年09月27日 12:22  TBS NEWS DIG

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TBS NEWS DIG

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袴田巖さん(88)は、58年前、静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定していました。有罪の決め手となっていたのは、犯行着衣とされる「5点の衣類」ですが、やり直し裁判で静岡地裁は、5点の衣類を含む証拠3つに捜査機関によるねつ造があったと認定、無罪を言い渡しました。

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58年後の無罪「長い間ありがとう」

9月26日、袴田巌さん(88)の姉・ひで子さん(91)。弟の潔白を信じ、白のジャケットを着て裁判に臨みました。そして、午後4時頃…

記者
「姉のひで子さんが静岡地裁前から出てきました。そして今、袴田巌さんに無罪判決という旗が出ました。袴田巌さん無罪判決です。ついに悲願が実る判決が出ました」

無実を訴えて58年。

袴田さんの姉 ひで子さん(91)
「皆さんの応援のおかげです。本当に長い間ありがとうございました」

袴田さんは死刑執行への恐怖のもと、長期間収容された影響で意思疎通が困難な状態。出廷することができないため、判決の時間は自宅で過ごしていました。

支援者
「巌さん、いいことがあったっていま連絡きました。いいことがあったそうですよ」

1966年、静岡市の旧清水市でみそ製造会社の専務宅が全焼。焼け跡からは刃物で殺害された一家4人の遺体が見つかりました。

警察は、みそ工場の従業員で元プロボクサーの袴田巌さん(当時30)を逮捕。そして14年後の1980年、無実の訴えは届かず、最高裁で死刑が確定しました。

ただ、事件の“証拠”には不可解な点が多くありました。

厳しい取り調べの末、木工用の「くり小刀」で4人を殺害したと自白した袴田さん。しかし、刃先はわずか数ミリ欠けていただけでした。

くり小刀を売ったとされる、刃物店の息子・高橋国明さん(74)は...

高橋 国明さん(74)
「肋骨の切断や貫通などといったような荒使いを大きく超えたような場合、ほぼ原形のまま残っていることは極めて不自然」

去年亡くなった高橋さんの母・みどりさんは57年前の一審の裁判で、「袴田さんの顔写真に見覚えがあった」と証言しました。ところが…

高橋 みどりさん(故人/2014年取材)
「私は本当は…見ていないんです」

高橋さんは、母親が証言台から帰ってきたときの言葉が忘れられません。

高橋 国明さん
「『証言の仕方って教えてくれるのね』って言ったもんですから、何らかの誘導があったのかなと思ってならないんです」

警察による袴田さんへの取り調べは過酷を極め、1日平均12時間に及びました。

取り調べの録音テープより(1966年 逮捕から19日目)取調官
「お前は4人も殺したんだぞ。お前が殺した4人に謝れ、謝れ、お前」

当初、犯行を否認していましたが、この翌日に袴田さんは自白しました。

3つの証拠ねつ造認定 裁判長「時間がかかり申し訳ない」

逮捕から48年が経った2014年。静岡地裁は、再審=裁判のやり直しを認め、袴田さんを釈放しました。

再審裁判で最大の争点となったのが、通称「5点の衣類」です。

事件の1年2か月後、みそタンクの中から血まみれのシャツやズボンなどの衣類が見つかりました。着衣についていた「赤い血痕」について検察側は、みそ漬けされても血痕の赤みが残る可能性はあるとして死刑を求刑。

一方、弁護側は「捜査機関によってねつ造されたものだ」と無罪を主張していました。

25日の判決では、1年以上みそ漬けにされた場合は、血痕に赤みが残るとは認められないと指摘。「捜査機関によって血痕をつけるなどの加工がされた」とまで言及しました。

また、当時の取り調べは袴田さんに精神的苦痛を与え、供述を強制する非人道的なもので実質的なねつ造と言及、合わせて「3つのねつ造」があると指摘しました。

公判の最後、裁判長は出廷していた姉のひで子さんに謝罪しました。

裁判長
「自由の扉は開けました。この裁判にものすごく時間がかかっていて、裁判所は申し訳ないと思っています」

判決後の会見で、ひで子さんは…

袴田 ひで子さん(91)
「『主文 被告人は無罪』というのが、神々しく聞こえました。私はそれを聞いて、感激するやら嬉しいやらで涙が止まらなかった」

逮捕から58年。奪われた時間は取り戻すことはできません。

「開かずの扉」再審の高い壁

藤森祥平キャスター:
事件が発生した時、袴田さんは当時30歳でした。
そして58年後、2024年9月26日に再審で無罪判決になりました。今年88歳でいらっしゃいます。

姉のひで子さんや弁護団は、この長期化の原因について「開かずの扉」と言われている「再審制度」に問題があるとし、その見直しを訴えています。

特に弁護団らが問題視しているのが、証拠開示のルールがないという点です。

そもそも、やり直しの裁判が認められるには、弁護側は無罪を示す新しい証拠が必要です。
ただ、一方の検察側はこのやり直しの裁判については証拠の開示に応じる必要がないということで、通常の裁判で設けられているような証拠リストを示すルールが再審では、設定されていません。

今回のケースは、事件から40年以上経ってようやく「5点の衣類」のカラー写真などが証拠として出され、それにより「やっぱりおかしい」ということがわかり、ようやく無罪判決にたどり着きました。

ですから、今回の判決について日弁連も会見では、“手続きに関する規定がないことから、証拠の開示が進まず、時間がかかってしまった”という見解を示しています。

小川彩佳キャスター:
そういったことで袴田さんやお姉さんの貴重な時間が奪われ続けてしまったとすれば、何のため、誰のための再審制度のルールなのでしょうか?

株式会社 QuuizKnock CEO 伊沢拓司さん:
「再審法」と呼ばれている領域については、先ほど述べられたこと以外にも条文がそもそも少ないです。手続きが安定しないとか、検察の不服申し立てによって長期化してしまうといったことが現実的に起こっています。

本来、「疑わしきは被告人の利益に」が原則論のはずなのに、「疑わしきは確定判決の利益に」の形になっているケースがとても多いです。それがずっと問題点として指摘されていたのに変わっていません。

法務省や国会での動きも未だに見られていません。本当に取り返しのつかないことが起こっていますが、せめて今回の一連の流れが民の大きな声に繋がって、「再審法」と呼ばれる領域の改正に繋がっていくことを痛切に期待したいです。

小川キャスター:
そして真犯人も、真相も藪の中になります。

今後は検察が控訴するかどうかが焦点となりますが、静岡地検は「裁判をいたずらに延ばすことは考えていないので、上級庁と相談の上、判決内容をきちんと精査した上で適切に対応したい」としています。

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<プロフィール>

伊沢拓司さん
株式会社QuizKnock CEO
東京大学経済学部卒 クイズプレーヤーとして活躍中

このニュースに関するつぶやき

  • 刑事裁判とは国家と一個人の戦い。前提が公平であっても圧倒的力の差がある。しかも国側は都合の悪い証拠は隠すことができる仕組み。殺人犯に仕立てることは容易。
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