だが、夫婦ともに正規雇用はそのうち4割程度。保育所の整備やテレワークの普及、また育児休暇の充実などが背景にあるといわれているが、実際には「妻もパート等で働かないと、家計がたちゆかない」のが現状ではないだろうか。
45歳「正規雇用でいればよかった」
「妊娠がわかったとき、つわりがひどかったせいもあったし、子どものために家にいてあげたいなんて思ってしまったがために仕事を辞めちゃったんですよね。それは後悔しています」ルリさん(45歳)はそう話す。30歳で結婚、すぐに妊娠したが、つわりだけでなく周りの目も気になったという。
「妊娠しているとわかったとたん、やけに労ってくる人がいたりして。『その仕事はいいよ、やっておくから』といって私から仕事を取り上げる人、あるいは毎日『気をつけてよ、転ばないでよ』と言う先輩女性などなど、なんだかそういう扱いに疲れたのもありました。
妊娠すると退職する人たちが多かったせいもあるんでしょうけど、もうちょっと普通に扱ってよと思っていました」
夫に愚痴を言うと、「辞めてもいいんじゃない?」と一言。夫はもともと彼女が専業主婦になることを望んでいた。9歳年上だから、すでにそれなりの収入があったのだ。結局、彼女は安定期に入るとほぼ同時期に退職した。
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結局、育児や家事って、時間をかけるかお金をかけるかのどちらかになるんだなと思った記憶があります」
30代は子育てに費やし、40歳で焦りを感じた
毎日、手作りの夕食が待っている。夫は喜んでいたが、小学生になった子どもたちはファストフードや市販のピザなどを食べたがる。ルリさんはピザシートや餃子の皮まで手作りだったのだ。「40歳になったとき、たまたま高校時代、仲のよかったグループで久々に集まろうということになったんです。5人のうち専業主婦は私だけ。あとの2人はパート主婦、ひとりは未婚でバリバリ働いている、ひとりは共働き子ありのバリキャリ。
いろいろな立場がいたけど、私ももっと働いていればよかったと痛切に思いました」
すでに子どもたちはそれほど手がかからない。実は夫の実家も近いから、頼めば応援してくれたはずだ。環境が整っていたのに仕事を辞めたのは間違いだったと感じたという。
夫の社内での立場が変わり「給料が減った」
現在、夫は54歳。昨年、グループ会社への出向が決まった。給料はかなり減った。
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夫は『人の気も知らないで冷たいことを言うね』と不機嫌になって。ああ、こんなことなら同世代と結婚すればよかった、仕事を続ければよかったと後悔しきりでした」
こうしてはいられないとルリさんは仕事を探したが、15年もブランクがあるため自分に何ができるのかさえわからない。
「家事しかやってこなかったわけですからね。それならそれを生かすしかない。家事代行サービスの会社に登録して、家事を仕事にしました。今は夫の扶養範囲内で仕事をしていますが、いずれは税金を払ってもいいくらいに稼ぎたい」
子どもたちが奨学金で苦しむのは避けたい
人の家の家事や料理を代行することで、自宅の家事や料理は手を抜くようになった。夫は機嫌がよくないが、そもそもあなたの収入が減ったからとルリさんは心の中で思っている。「夫婦関係がギクシャクしていて、家庭としてはよろしくない方向にいっています。でも子どもたちは大学まで行くつもりでいるようだから、なんとか出してやりたい。奨学金で苦しむのもかわいそうですしね。
大手企業で定年まで安泰という人や、起業して成功している人など一部の富裕層はお金の心配なんかしないで暮らしているんだろうなと思うと、私たちの人生、何がいけなかったのかと考えてしまいます」
こういう状況の人たちは少なくないのではないだろうか。いくら頑張っても、なかなか収入が増えていかない現状で、疲れ果ててしまう人たちも続出している。
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ルリさんの苦悩は、一般市民の苦悩でもある。
<参考>
・「共働き世帯1200万超、専業主婦の3倍に 制度追いつかず」(日本経済新聞)
・「2023年度 第4回雇用政策研究会 関係資料集」(厚生労働省)
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))