荻原拓也「夢が叶った」CL初出場 バイエルン戦で初ゴールも「残酷なほどの差を感じた」

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2024年09月28日 07:20  webスポルティーバ

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 歓喜と悲哀──対極するふたつの感情が入り交じっていた。ただし、試合を終えて、心の中を埋め尽くしていったのは、痛みと悔しさだった。

「起き上がる前に、また殴られるような感覚でした。それも何度も、何度も。それくらい衝撃的でした」

 9月17日、ディナモ・ザグレブ(クロアチア)に所属する荻原拓也は、夢だったUEFAチャンピオンズリーグ(CL)の舞台に立った。

 今季より大会の仕様が変更されたリーグフェーズ第1節で、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)と対戦。アリアンツ・アレーナ(バイエルンのホームスタジアム)のピッチに整列して、アンセムを聴いた時には、これまで感じたことのない高揚感に包まれた。

「この舞台に立てたことが、まず誇らしかったし、何ものにも代えがたかったですね。選ばれた者しか許されないピッチに立てたことがすごくうれしくて、まさに夢が叶った瞬間でした。ほんと、エモーショナルでした」

 対戦相手にはマヌエル・ノイヤーやハリー・ケイン、セルジュ・ニャブリといった錚々(そうそう)たる顔ぶれが並んでいた。

「彼らと同じピッチに立てることに感動を覚えましたけど、入場前の通路で見た時には、思っていたよりも身体の大きさは感じなかった。それこそ、左サイドバックのアルフォンソ・デイビスは大好きな選手のひとりで、憧れでもあったのですが、実際に見ると、思っていたよりも自分と身長や体格は変わらなかった。もっと身体も大きくて、足も長いイメージだったんですよね。

 だから、試合が始まる前までは、自分も戦えるのではないかと思っていました。試合をやる前までは......」

 荻原が「試合前までは」と強調したように、ディナモ・ザグレブはCLでのワースト記録となる9失点を喫して、バイエルンに屈した。その失点数が示すように、左ウイングバックとして73分までプレーした荻原も、ほとんどの時間を守備に費やした。

「5バックで戦えば守備も堅く、ある程度は相手の攻撃を防げるだろうという想定を持って試合に臨みましたが、実際はボールホルダーに対してまったくプレッシャーがかからなかった。加えて、バイエルンはしっかりとしたチーム戦術があるため、必ずどこかでフリーになる選手を作られてしまった」

【バイエルンは一瞬でゴール前までボールを運ぶ】

 最終的にオフサイドになったが、8分にダイレクトパスをつながれ、ジャマル・ムシアラにゴールを割られた時には、すでに相手の脅威を感じ取っていた。

「ゴール前に人はいるけど、簡単にゴール前へと進入されてしまう感じでした。こちらの対応はすべて後手に回り、一人ひとりがどこにポジションを取ったらいいかわからないような状況に陥ってしまいました。

 たとえばですけど、相手の展開の速さについていけず、センターバックとボランチが入れ替わってしまったり、誰が誰のマークにつけばいいのかもわからなくなったりするような感じで、プレーしていてどこか悲しくなるというか、残酷なほどの差を感じました」

「残酷」とまで言い表した相手の脅威を、さらに説明する。

「縦パスが入ってからゴール前に行く瞬間的な進入スピードが、とにかく鋭かった。

 これもたとえばですけど、右サイドを攻められている状況では、逆サイドにいる自分は時に傍観者になる場面もあるじゃないですか。自陣のゴール前へポジションを取り直そうとしていても、プレーに関与できない瞬間ってありますよね。

 でも、バイエルンは、それを見てしまうと一瞬でゴール前までボールを運んでくる。まさに『瞬(まばた)きする間に』という表現が正しくて、あっという間にゴール前に運ばれて、あっという間にDFの裏を取られて失点していた」

 それでも0-3で折り返した後半、ディナモ・ザグレブは、投入したルカ・ストイコヴィッチを起点に反撃姿勢を見せると、48分にブルーノ・ペトコヴィッチが1点を返す。

 そして50分、荻原が自陣からボールを持ち運ぶと、中央のヨシプ・ミシッチへパス。ミシッチからスルーパスを受けた荻原は、バイエルンのGKスベン・ウルライヒと1対1になると、股下を抜くシュートを決めた。

 ウイングバックながら、CL初出場にしてマークしたCL初得点だった。

【CL初ゴールは「意外と冷静でした」】

「体力的にはすでにキツい状態だったのですが、いい状態でビルドアップに関われて、ミシッチとのワンツーで相手を剥がすことができました。パスがつながった流れがよく、スピードにも乗れていたので、気がついたらゴール前まで身体を運べていた感覚でした。

 相手もハイラインだったので、瞬間的にスプリントをかければ抜け出せる自信はあったので、いいタイミングで走れたことがゴールにつながったんだと思います。

 シュートシーンはタイミングが難しかったのと、自分はFWではないから、GKと1対1になる経験が少なかったので、『えっ、もうゴール前なの?』みたいな感じ。少しふわついたんですけどね。

 それもあって、ちょっとおぼつかないところもあり、足を踏み換えた瞬間にGKに詰められたので、股下を抜くか、ループを狙うしかないと思って、股下を狙いました。最後のところは、意外と冷静でした」

 ベンチに下がる73分までに5失点を喫し、その後もディナモ・ザグレブは4失点を許した。荻原は「何度も試合を見返しましたけど、何から話したらいいかわからないくらい、いろいろなミステイクが積み重なっていたので、どこを反省すればいいかもわからない試合でした」と話す。

「一番の印象は、前半から試合をしていて、体力的にしんどいというか、苦しかったこと。それこそ得点したあとも、体力的にキツくて吐きそうなくらいでしたから。今まで経験したことのないようなキツさでした」

 今年1月にプロとしての自信を培った浦和レッズを飛び出し、ヨーロッパに渡り、目指してきた最高峰の舞台に立って感じたことは多い。

「当たり前のことなんでしょうけど、とんでもないスピード感でプレーしているなかでも、バイエルンの選手たちは、技術的なミスがまったくなかった。点と点で合わせるプレーも当たり前のようにやっていたし、それがトップレベルのクオリティだということを実感しました。

 あと、何がすごいかって、全員が常にゴールに直結するようなプレーをしていたことでした。たとえば、状況的にはゴールから遠ざかるプレーであっても、それも最終的にはゴールに直結する流れのひとつになっていた。

 だから守る僕らは、一方向を意識するのではなく、常に360度、全方向のリアクションをイメージしなければいけなかった。そこにずっと恐怖心を感じながらプレーしていました」

【FWケインは捕まえるのがかなり大変】

 それでも体験しなければ掴めなかった手応え、経験しなければわからなかった学びがある。

「チームとしては、後半の数分間は流れを引き寄せられたように、エネルギッシュに戦って相手にプレッシャーをかけて、ボールホルダーに自由を与えない構図を作れれば、もっと戦えたのではないかという教訓を得られました。

 個人としては、チームとしての勝利を大前提にしつつ、今回は1対1の状況でのプレーも意識していました。1対1でバトルできるシーンも意外とあったのですが、そこでは相手を引っかけてボールを奪えることもできたし、直接、ガバッと抜かれてやられるようなシーンはなかったので、守備での1対1では戦える自信も得られました」

 バイエルンと対戦して、特に印象に残った選手はいるかと聞くと、「全員がヤバかったですよ」と答えつつ、目を輝かせて教えてくれた。

「特にケインはヤバかったですね。何でもできるストライカーというか。中盤に降りてきて攻撃の組み立てに参加するFWは、最終的にゴール前に入ってくることができない選手もいますけど、ケインの場合は起点になりつつ、ゴール前にも必ず顔を出していた。それでゴールもしっかり決めるので、マークするDFとしては捕まえるのがかなり大変ですよね」

 2-9の大敗を受けて、ディナモ・ザグレブは、セルゲイ・ヤキロヴィッチ監督との契約解除を発表した。

「監督が交代したように、クラブの歴史においても、大きな敗戦を引き起こしてしまったという感覚はあります。そこは重く受け止めていますし、相手がバイエルンだったからのひと言では済ましたくはない。

 ゴールを決めたことで称賛してくれる人もたくさんいましたけど、自分としてはやっぱり悔しい。その悔しさはボディーブローのように効いてきて、痛みとして、どんどんと心に重くのしかかっています」

【新監督のもとでどんな力が発揮できるか】

 それでも、「この教訓を次に生かせるか?」と聞くと、荻原は即答した。

「間違いなく生かせると思います。1試合を経験しただけでも、個のところにおいては、一つひとつのバトルのレベルを上げなければいけないと思いましたし、最後のところで戻りきるなど、守備のベースアップも図らなければいけない。突き詰めていかなければならないところがたくさんありました。

 チームとしても、個人としても、新しい監督のもとで、何ができるか、どんな力が発揮できるのかを見つめ直していきたいと思います」

 リーグフェーズとなったCLは、第2節でASモナコ(10月2日/ホーム)、第3節でRBザルツブルク(10月23日/アウェー)との試合が続いていく。異なるリーグ、異なるスタイルのチームとの対戦は、荻原に新たな学びと成長を与えていく。

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