45歳・稲本潤一、41歳・今野泰幸が現役にこだわる理由 「引退」についての率直な思いも吐露した

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2024年09月28日 07:30  webスポルティーバ

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ベテランプレーヤーの矜持
〜彼らが「現役」にこだわるワケ
第7回:稲本潤一&今野泰幸(南葛SC)(3)

百戦錬磨のキャリアを積み上げながら、たとえステージが変わっても、今なお現役として戦い続ける30代後半〜40代の選手にスポットを当てた同連載。今回は日本代表でも中心選手として活躍し、一時代を築いたふたりのトッププレーヤー、南葛SCの稲本潤一と今野泰幸を直撃。現役にこだわる理由や、迫りくる"引退"について、それぞれの考えを聞いた――。

――ここまでは攻撃に関する話がほとんどでしたが、守備については風間八宏監督からどんなことを求められているのでしょうか。

稲本潤一(以下、稲本)正直、そこまでたくさんのことは求められないです。でもフロンターレ時代に比べると、多少は求められるようになったし、多少は練習もするようになりました。

今野泰幸(以下、今野)フロンターレ時代は(守備のことは)ほぼ言わなかったんですよね?

稲本 うん、まったく。自分たちがボールを保持していたら守備をしなくていいだろう、的な考え方やったから。その当時に比べると、風間さん的にはかなり守備のことを求めている感覚なのかも。

今野 しかも、その守備も、前の状況を見ながら、後ろの動きを決めるというような、バルセロナのような守備を理想とされていますからね。正直、それも僕にとっては初めての守備のやり方なので、めちゃめちゃ難しいです。どこから奪いに行くのか、どこでハメるのかではなく、前の動きに合わせて後ろが判断して動かなければいけない分、相当な強度も求められますしね。

稲本 だから、コミュニケーションは不可欠。相手DFに対して前線がまっすぐ寄せれば、このエリアは完全に機能しないよね、的な考え方だから、寄せ方の角度だったりをチームで合わせられなければボールは奪えなくなってしまう。そのベースには今ちゃん(今野)の言う個々の強度も不可欠だろうし。

今野 今の守備のやり方を教わるようになってバルサの試合とか見ると、ペドリとかえげつないもん。強度も桁違いだし、かなりのスピードで寄せて、外されたらまたかなりのスピードで戻って......ってしながらボールも受けるから、もうすごすぎる!

稲本 あの域にはどのチームもなかなか到達できひんやろな。

――おふたりが頻繁に口にされている「難しい」という言葉を踏まえても、風間監督のサッカーで結果を求めるのは大きなチャレンジになりそうですね。

稲本 正直、時間はかかると思います。ただ、さっきも少し話したように、僕が加入して3シーズン目で、過去2シーズンのチャレンジでは勝てなかったという事実もあるので。もはや僕ら自身も、昇格のための正解がわからなくなっているなかで、この新たなチャレンジを信じてやり続けるしかないのかな、と。

 実際、今年はここまでシーズンを進んできたなかでも、風間さんがほとんど順位のことは口にしていないことや、ひたすらチーム、個人を育てることに特化していることからも、風間さん自身もすぐにこのサッカーが結果として実を結ぶとは......結べばもちろんそれがベストですけど......考えていない気がします。

 ただ、クラブを含め、そうは言ってもいつまでも結果が出なくてOKではないと思うから、どこかで今のサッカーを結果とリンクさせる瞬間が必要やろうけど。

今野 もう、ペドリにオファーするしかないんじゃない!?

稲本 来てくれる?

今野 オファーするのは自由だから、出してみるのは手かも。何に魅力を感じるかなんてわかんないし。

稲本『キャプテン翼』ファンやったりしないかな? どうせなら、ラミン・ヤマルもセットでほしいけど。

今野 夢ある〜! そのクラスが来たら、間違いなく僕はお払い箱になると思うけど(笑)。

――少しキャリアについての話をお伺いします。先ほど、今野選手から「動ける体と情熱があったから現役続行を選んだ」という話がありました。南葛SCでのプレーも3シーズン目を迎え、ご自身の"現役"に対する考え方に変化はありますか?

今野 正直、今のところはまったく変わってないです。僕はやっぱり、選手としての今の生活が好きというか。とにかく毎日、一生懸命練習して、うまくなりたいと思ってプレーして、練習が終わって炭酸水を飲む瞬間が最高に幸せだから。

稲本 炭酸水を飲むのが!?

今野 いや、炭酸水を飲むことだけじゃないですよ! いい練習ができて、ご褒美に炭酸水を飲む瞬間が幸せ。

稲本 炭酸水飲みながら、車のなかでネットフリックス観るまでがセットやろ?

今野 待ち時間はそれが最高! でも、そこに幸せを感じる一方で、試合になるといまだに緊張しますからね。準備していたものがうまくいくのかと心配になるし、勝ちたいって気持ちがありすぎて不安にもなる。負けたらどうしようとか、余計なことばっかり考えて毎試合、吐く寸前までいっています。

 それでも、今の生活を楽しく感じているってことは、そこを含めて自分が欲しているってことだと思うから。この生活を失ったら、すぐにボケちゃう気もしますしね(笑)。

 だからまだしばらくは、この生活をやめたくない。以前、デビッド・ベッカムが「サッカーには中毒性がある」って話をしていたけど、まさに僕はその中毒性から抜けられないです。イナさん(稲本)くらいになると、そこも通り越して達観しているかもしれないけど。

稲本 いやいや、僕も今でも試合になると緊張はするよ。それでも、うまくなりたい、もっとできるんじゃないかって向上心がある限りは、ましてや、それを含めてサッカーを楽しいと思えている限りは現役でいたい。

 それこそ、SC相模原でプレーするようになった頃から、正直、プレーする環境としては決していいとは言えないなかでキャリアを続けているのも、それがいちばんの理由やし。裏を返せば、Jリーグ5部に相当するカテゴリーでプレーするのって、そこに楽しさを感じていられなければ無理やと思う。

 しかも、今年から風間さんが監督に就任されて、改めて自分にもまだ伸びしろがあるんやなって感じられているし、技術もまだまだうまくなると思えているから。体が動かないなら、その技術とコーチング、ポジショニングでいくらでもカバーできるのがサッカーの面白さでもあるし、そうした自分の持ち味で若い選手と競争できることも楽しい。

 それに、技術を向上させていく作業もやっぱり真剣勝負のなかでやるからこそ楽しいと思うから。そのためには当然、最低限のフィジカルは必要になるので、そこも自分に求めながら、楽しさを追い求めるチャレンジをまだまだ続けたい。

――昨今は同世代の小野伸二さんや遠藤保仁さんが"引退"という決断をされました。おふたりのなかではまだその二文字がよぎることはなさそうですね。

今野 以前より全然、(引退が)よぎるようにはなってきましたけどね。特に南葛に来てから、やたらと引退後のセカンドキャリアを一緒に考えていきましょうよ、みたいな話を持ちかけられることが増えたせいか、「ああ、いよいよ僕にもそういう時が近づいているんだな」って自覚するようになった。

稲本 もう41歳やしね(笑)。だから最近、オンラインサロンみたいなのを始めたの?

今野 そうそう!

稲本 今ちゃんのことが好きな人たちを集めて稼ごうとしてる?

今野 いや、言い方!(笑)。稼ごうとは思ってないけど、僕も変わらなくちゃいけないって思い始めたというか。実際、南葛に来てからずいぶんマインドも変わったし......いや、そんな変わってないか!?

稲本 どっち!

――ガンバ大阪時代に取材をさせていただいた時と比べたら、あまり変わっていない気もしますが......。

今野 ハハハッ(笑)。でも、こう見えて僕、最近は子どもの学校のパパ友ともすごく喋るようになったんですよ。

稲本 それ、普通やから。パパ友と話すようになったから、変わったとは言えない。

今野 ハハハッ(笑)。でも昔の自分を考えたら、これでもかなり社交的になった気がします。ってか、今になって思えば、昔の僕はどうかしてました(笑)。特にFC東京時代くらいまでは、すごく尖っていたなって思う。実際、サッカー選手なんだから結果さえ残していたらいいでしょ、みたいな考え方をしていましたしね。

 でも最近は、プロサッカー選手はピッチでの結果がすべてじゃないと考えるようになったし、いろんな人に支えられて、応援されて成立する職業だと心から思えるようにもなった。そういう意味では......あまり変わっていないかもしれないけど、だいぶ変わりました。

稲本 自己申告(笑)。サロンではどんなことを伝えたり、話したいと思ってる?

今野 いろんな話をしてみようかな、とは思ってます。僕、こう見えて、ちゃんと聞いてくれさえしたら、自分が経験したことに関しては意外といい話ができるので(笑)。学生時代はまったく無名だった僕がJリーガーにもなれたのも奇跡だったけど、その状況から日本代表にもなれて、ワールドカップにも出場して、40歳をすぎた今もこうして現役選手としてキャリアを続けられていますしね。

 その過程では悩んだ時期も、メンタル的に苦しんだ時期もあったし、いいことも悪いことも経験したけど......っていうような経験に基づく話をできたらな、と。ちなみに、イナさん、もう会員になってくれました?

稲本 いや......Xで情報を見て、でもこれ以上先に進んだら、変なお金が発生しそうやからビビってボタンを押さなかった。

今野 変なお金じゃないから!(笑)。でも、会員になってくれる人たちから「こんなことを聞いてみたい」「こういうことを一緒にしませんか」みたいな話があって、それに自分が興味を惹かれたら、仕事としてやってみるのもいいかなとは思っています。そうやって人のつながりを広げていくことも目的のひとつだから。

稲本 今ちゃんがそういうのをやるイメージ、なかったわ〜。

今野 誰も入らないかもしれないけど(笑)。でも、イメージがないからいいというか。それによって、世界が広がるかもしれないし、何よりいろんな人とコミュニケーションを図るとか、サッカー以外のいろんな話をできるようになるのも、この先の自分には必要なことだと思いますしね。

 いつか引退する時に今の自分のまま外の世界に出ても、何もできないんじゃないかって不安だし。だから自分の成長のためにも、やってみることにしました。

――稲本選手は"引退"がよぎることはありますか?

稲本 もちろん、めちゃめちゃよぎるし、セカンドキャリアについて考えることもあります。今はとりあえず、選手を続けながらB級ライセンスまで取得しているのも、引退後は指導者の道に進みたいって思いもあってこそなので。

 ここ最近は、メディアで試合の解説をしたり、ゲストに呼んでいただくこともありますけど、自分の性格を考えると、いずれメディアの世界の仕事は飽きそうな気がしているんです。今はまだ現役やからそれも楽しめているけど、選手じゃなくなって、単に試合を見て感じたことを話して終わり、では自分自身への刺激というか、サッカーを通じて得てきた気持ちの抑揚みたいなものも感じられなくなっていくんじゃないか、と。

 それなら、現場で勝った負けた、これがうまくいった、ここはうまくいかない、みたいな浮き沈みに直面しながら、いろんな苦労と向き合っているほうが楽しいと思えそうな気がする。

今野 指導するカテゴリーにはこだわりますか?

稲本 正直、できるだけ上のカテゴリーから見てみたいとは思っているかな。選手時代もそうやったけど、一番頂点を知ったうえで、カテゴリーを下げていくほうが見えるものも違っていく気もするしね。自分が選手としてお世話になったクラブで、今度は指導者としての関わりを持てたらいいなとも思う。海外での指導は正直、家族の問題もあって現実的じゃないから、基本は国内で考えているけど。

(つづく)

稲本潤一(いなもと・じゅんいち)
1979年9月18日生まれ。大阪府出身。1997年、ガンバ大阪の下部組織からトップチームに昇格。若くしてチームの中心選手として奮闘した。そして2001年、アーセナルへ移籍。以降、フラム、WBA、カーディフ、ガラタサライ、フランクフルト、レンヌでプレーし、2010年に帰国。川崎フロンターレに加入した。その後、北海道コンサドーレ札幌、SC相模原に在籍し、2022年に南葛SC入り。その間、日本代表でも活躍。世代別代表では、1995年U−17世界選手権(現U−17W杯)、1999年ワールドユース(現U−20W杯)、2000年シドニー五輪に出場。A代表では、2002年、2006年、2010年と3大会連続でW杯に出場した。国際Aマッチ出場82試合、5得点。

今野泰幸(こんの・やすゆき)
1983年1月25日生まれ。宮城県出身。東北高卒業後、北海道コンサドーレ札幌入り。1年目から出場機会を得て、2年目にはチームの主軸として存在感を示す。2004年にFC東京に完全移籍。ナビスコカップ(現ルヴァンカップ)、天皇杯などの栄冠獲得に力を発揮した。そして2012年、ガンバ大阪へ移籍。2014年のリーグ制覇をはじめ、数々のタイトル獲得に貢献した。その後、2019年夏、ジュビロ磐田へ移籍。2022年に南葛SCに加入した。日本代表でも常に中軸として活躍。世代別代表では2003年ワールドユース(現U−20W杯)、2004年アテネ五輪に出場。A代表でも、2010年、2014年とW杯に2度出場した。国際Aマッチ出場93試合、4得点

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