オンワード樫山の「ニットシューズ」が10万足を突破 従来の“不満”を解消して「大人気」

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2024年09月28日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

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ニットシューズ「steppi(ステッピ)」が好調

 痛い、脱げる、蒸れるといった従来の靴のデメリット解消を目指し、「履き心地の良さ」を追求して誕生したニットシューズブランド「steppi(ステッピ)」。


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 アパレルブランドを多数展開するオンワード樫山(東京都中央区)が2022年に発売した新ブランドで、発売から2年で10万足を販売するヒット商品になっている。オンワード樫山の公式通販サイトの売り上げランキングで、ステッピの売れ筋商品「ベーシック ポインテッド パンプス」が5週連続で1位を獲得した実績もある。


 特徴は、自社開発したニット生地を採用していること。軽い、伸縮性や通気性にすぐれている、撥水機能があり、デザイン性が高く、洗濯機で洗えるなど、メリットが多い。従来の靴にあった不満を解消しやすいことがヒットの要因のようだ。


 ステッピはどのように誕生し、支持を獲得してきたのか。オンワード樫山 PR・コミュニケーションSec. 課長代理の榎本拓也氏に聞いた。


●「機能性」と「美しさ」を両立


 ステッピの開発は今から4年ほど前にさかのぼる。当時、米国で市場規模を拡大しているニットシューズブランドがあり、ニットの機能性の高さから浸透が進んでいる背景があった。日本ではニットシューズはほとんど存在していなかったが、米国同様に浸透する可能性がありそうだと考え、開発に着手したという。


 求めたのは「機能性」と「美しさ」の両軸をかなえること。第1弾の製品として、女性をターゲットにした「パンプス」を開発した。


 ニットは伸縮性や通気性にすぐれた万能素材であり、革や合皮と比較して履き心地の良さを出しやすい。そうした特徴に加え、1本1本の糸に撥水加工を施し、密度高く編み込むことで撥水性も高めた。


 さらに、美しさを追求するために革靴を作る際に使用する木型をベースに、革靴を得意とする工場で生産することにした。靴のできを左右する重要な要素となる木型の開発は、最も苦労した点の一つだという。


 伸縮性があるニットを使ってパンプスを作るにあたり、100人以上の女性にサンプルを試し履きしてもらいながら、木型の微調整を相当数重ねたそうだ。


 また、軽さを求めてアウトソール(底)にはラバーではなく、合成ゴムを使用した発泡ソールを採用。軽量でクッション性が高く、摩耗に強いメリットもある。一方、素材の配合バランスが難しく、温度によって変形してしまうことも。試行錯誤しながら、製品化にこぎつけたという。


 そうして、従来の革や合皮のパンプスよりも機能性が高い製品が完成した。「軽い」「伸びが良く足にフィットしやすい」「足が痛くなりづらい」「通気性がいい」「水を弾く」「丸洗いできる」といった特性がある。


 実際にパンプスを履いて少し歩いてみたところ、フィット感が良く、脱げにくいと感じた。筆者個人の感覚だが、自身の足にフィットするパンプスを見つけるのは非常に難しく、いつもの足のサイズに合わせても脱げやすい、あるいはキツさを感じて足が痛くなることがほとんどだった。そうした従来のパンプスに比べると、失敗を防ぎやすいかもしれない。


●パンプスから始まり、ラインアップを拡充


 まずはパンプスから展開し、つま先の形が異なる4タイプ(ポインテッド、スクエア、バレエ/ラウンド、ローファー)を販売した。販売価格は7990円〜と安くはないが、手の届く価格でありながら購買後の満足度を高めることを意識したという。


 「5000円以下に下げるのは容易なのですが、そうするとオリジナルの木型や発泡ソールをあきらめることになります。履いてみて重かったり、靴擦れができたり、底が擦り切れやすかったりすると結局コスパが悪い印象になってしまうだろうと考え、価格以上のコスパの良さを感じていただけることを目指しました」


 きちんとした印象のあるパンプスは、職場や結婚式などのイベントだけでなく、プライベートの外出で履く人も少なくない。オンワード樫山が拾った顧客の声には、「子どもの学校行事の際に室内履きにしている」「会社の置き靴にしている」「旅行で履いている」などさまざまな声があり、シーンに合わせて選べるよう形や色を幅広くそろえている。


 中でも一番人気は、つま先が尖った「ベーシック ポインテッド パンプス」だ。同商品をPRで押し出していることもあるが、通常、先が尖ったパンプスは足が痛くなりやすい。そうしたネガティブな印象がありながら、「足が痛くなりづらく歩きやすい」、かつ「着用シーンが広く汎用性が高い」という特性が支持されている理由だという。


 当初は22.5〜25.5センチメートルのサイズ展開だったが、「サイズが合わない」という声を踏まえ、21.5から26センチメートルとサイズを増やした。


 2022年3月のテスト販売から1年間はパンプスのみを展開していたが、好調な実績を受け、2年目以降にブーツ、サンダル、スニーカー(多機能ニットシューズ)、子ども用とラインアップを拡充していった。


●医師と一緒に開発した靴もヒット


 総数でいうと販売期間が長いパンプスが最も売れているが、現在はパンプスとスニーカーが同じぐらい売れ行きが良く、季節製品のサンダル(7990円〜)とブーツ(1万4990円〜)も好調だという。


 スニーカーのカテゴリーで2024年に発売した「多機能ニットシューズ」(9990円)は、整形外科医師と共同開発した製品で、100人以上の医師の声を聞きながら開発したという。


 「昨今、アパレルメーカーが医療現場用のスクラブ(医療用白衣の一種)を発売するケースがあり、ファッショナブルで機能性が高い白衣の選択肢が増える一方で、靴の選択肢は少ないままでした。そこで、過酷な現場で働く医療従事者へ向けたニットシューズの開発にいたりました」


 病院の環境や医療従事者の働き方を踏まえ、濡れた床でも滑らないグリップ力の強いソールを採用し、手を使わずに脱ぎ履きできる靴とした。数カ所の医療学会でブースを出して宣伝したり、専門業者に商談したりする中で口コミが広まり、特に男性の医療従事者から支持を得ているという。


 「特に、黒いニットに黒いソールで製作したデザインは革靴の見た目に近く、スーツと合わせやすいということで男性から好評です。病院内だけでなく出張や外出の際も持ち運びやすいなど、用途の広さからも支持を得ています。医師以外の方にも購入されています」


 現在は、働く女性の声を受けてヒールのあるパンプスも開発している。さらに、来年の夏に向けてビーチサンダルの開発も予定しているそうだ。ビーチサンダルながらカジュアルすぎず、ラクに履ける商品を目指していると榎本氏は話した。


●試し履きの機会を増やし、購入につなげる


 販売方法に関しては、ECからスタートして徐々に店舗展開を広げていく施策を取っている。サンダルやスニーカーなどの商品と比較してパンプスはサイズ選びが難しいが、顧客がサイト上に投稿したレビューを読んで、別の顧客が購買を決めるという流れがあり、ECでも一定数の販売につながったという。


 「ニットシューズという新規性のあるカテゴリーながら、洋服も含めた公式EC全体よりも返品率が低いんです。『軽くて履き心地がいい』『0.5センチサイズアップしてちょうどよかった』などのレビューを多く投稿いただき、多くの方が購買の参考にされているようです」


 その後、オンワード樫山のブランドを扱うショッピングセンターなどの店舗で販売したり、ポップアップストアを実施したりして、試し履きできる場を増やしていった。現在は、販売できる店舗が増えたことから購入場所の割合は、7(リアル店舗):3(EC)になるという。


 発売からの2年間でポップアップストアの開催は数十回に及ぶ。駅ビルやショッピングセンター、駅ナカなどで開催したところ、最も売れ行きが良かったのが「駅ナカ」だったという。JR横浜駅構内で8日間、JR品川駅構内で9日間実施し、幅広い層から反響を得た。


 人通りが多いのはもちろんのこと、わざわざ店舗内に足を踏み入れずとも商品の目の前を人が行き来するので、商品への接触率がバツグンに高くなり、購買につながったという。


 「まず手に持ってみて軽さに驚き、履いてみて履き心地の良さを実感し、購入するという流れが多いですね。品川駅構内で実施した際は羽田空港を目的とするお客さまが多くおり、旅行時に履く靴として購入された方が目立ちました」


 駅ナカでファッションアイテムのポップアップストアを開催するのは珍しく、かつ開催時期は夏場の暑いタイミングだった。非常に暑い駅ナカの環境で立ち止まって試し履きしてもらえるのかという懸念はあったが、結果的に想定以上の販売数につながったそうだ。


 ニットシューズを販売する難しさとして、履いてもらわないと良さが伝わりづらい点がある。そこで、「軽さ」が伝わりやすいビジュアルを採用したり、言葉の表現を工夫したり、試し履きできる場所を増やしたりして、認知と売り上げを拡大してきたという。


 榎本氏いわく、今年に入り他社からもニットシューズが続々発売されている流れがあるという。ステッピがニットシューズ専門ブランドとして地位を確立できるか否かは、今後の商品展開がカギになりそうだ。


(小林香織)



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