海自の「空母」いずも、西太平洋にて"いずも飯"で出撃セリ!

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2024年09月28日 09:10  週プレNEWS

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この航海はこの姿で『いずも』が出撃する最後の雄姿である。この後、ドックに入り、完璧空母に変身する(写真:柿谷哲也)


海上自衛隊のいずも型護衛艦『いずも』が、グアム米海軍基地から横須賀に向けて出航した。しかし、その海域は「天気、晴朗なれどメシ旨し」である。フォトジャーナリストの柿谷哲也氏がその船路に密着。艦内の意外な様子をレポートする。

*  *  *

去る6月20日、護衛艦『いずも』が米海軍との共同訓練を実施した。グアムの米海軍基地から出港した。『いずも』は現在、いわゆる「空母化」改修が進められている。まだF-35B戦闘機は搭載されてないが、対潜ヘリSH-60Kは健在だ。取材した柿谷氏はこう言う。

「今回の『いずも』の外観では最後の海外派遣となります。次に我々の前に現れる時は、空母の形になって登場します」


フィリピンを挟んだ西側の南シナ海では、中国とフィリピンの死闘が続いている。中国海軍は空母「山東」を投入。フィリピンを打ちのめして静かにさせようとしているのだ。そして、その東側の西太平洋では空母『いずも』が北上する。

しかし、そこでは静かなる情報作戦・宣撫(せんぶ)が行われる。宣撫とは民衆の人心安定のために行なう援助のこと。つまり、周囲を味方につけるための行為だ。その決め手となるのは"いずも飯"だった。


『いずも』には、東ティモール、シンガポール、ラオス、ツバルなどの太平洋、南シナ海に関係ある諸国の軍人、警察官が搭乗していた。彼らは防衛省・内局が進める次世代士官交流プログラム「シップライダー」によって参加した人々だ。

「対中国に関して、日本だけでは守り切れないことはすでに明確です。そこでアジア・太平洋諸国と一緒に地域の安全を高めていこうと、考えるようになりました。

米軍には懇親プログラムがあり、それを参考にしています。海自の場合、『いずも』『ひゅうが』型の全通甲板を持つ大型艦があります。その大型艦であれば、多くの人が乗れるし、艦内で見せる対象もたくさんあります。

そこで防衛省内局は、『いずも』を洋上のコンベンションセンターとして使う戦術に出たんですよ」(柿谷氏)

グアムから横須賀まで移動しながら、東京ビッグサイトでイベントが開催されているようなものだ。


シップライダーは、ただこの艦(ふね)に乗っているだけではない。司令部機能を発揮できる空母『いずも』には、統合作戦時に統合司令部として使われる多目的区画がある。そこがコンベンションホールとして使われ、連日会議が催された。

内容は、IUU(違法・無通告・際限のない漁労)と略称される「不法漁労」がメインテーマとされた。すでに、中国のお得意の武装漁民を先頭に、太平洋の各海域で不法漁労が行なわれている。やがて、その不法漁労から中国海警に代わり、最後には中国海軍が出てきて「ここは中国の海だ」と宣言するのだ。

そこで空母『いずも』は、艦内で果敢なPR戦に打って出た。

「米軍には『カラット』と呼ばれる、相手国と一対一で戦力を向上させる訓練があります。しかし、日本がいきなり他国にそのような戦い方を教えるのは、少し難しい。

そこで、法的な事を扱うことに目を向けました。国際法に基づく海洋法を中心にして、法的に海洋秩序を維持することをテーマに様々な会議が開催されました」(柿谷氏)


情報戦は一方的ではない。シップライダーとなった各国の軍士官、警察官たちは、自国の状況や文化を海自隊員たちに伝えて、交流は続いた。

そして、ここで"必中兵器"が登場する。

■「"いずも飯"、撃ち方!」発射された第一弾は餅


お土産でもらった半被を粋に着こなしたシップライダーたちは、食堂に集結。「いずもフェス」の開始だ。そこで始まったのは、日本伝統の餅つき大会だった。

「外国人たちにとって、餅つきは珍しいんですね。みんな餅つきをやりたいと希望していたので、全員がやらせてもらっていました」(柿谷氏)

ただ餅ができあがるだけでないのが"いずも飯"だ。

「できた餅は、シップライダーたちが給養員たちの指導の下、おはぎ、あんころ餅、きな粉餅など、自らの手で色々とアレンジするんですよ。これは好評でしたね」(柿谷氏)

海自隊員たちが考え抜いた演出だ。まず、餅で全員の気持ちと"いずも飯"を叩き込む。

「唯一、海軍のないラオスから参加したラオス陸軍のケット大尉は、おはぎの感想をくれました。『ラオスのカオニャオももち米で作られていますが、日本のもち米も粘りがあって驚きました。あんこと合せると不思議な味でした』と。

するとすかさず『いずも』の女性隊員が、『ラオスにも、もち米あるの?』と話しかけ、ケット大尉は『カオニャオは主食です』と答えていました。もち米から食文化の話へと、会話も広がっていましたね」(柿谷氏)

シップライダーたちとの交流は万全だ。

■"いずも飯"の第二弾はスイーツ


"いずも飯"の第二弾は、全員を懐柔させる「スイーツ大会」だ。シップライダーを甘い物でもてなし、日本の虜(とりこ)にする。

「給養員長が、『ウチにはスイーツを作れるやつがいるんだよ。いま作っているから、楽しみにしていてね』と言って始まったんですよ。そうしたら、ディスプレイが何かキラキラ光って食器みたいなのを作って、その上に各種手作りスイーツが並んでいるんですよ。

そのスイーツを作った給養員に取材しましたが、『パティシエ』の資格を持っているという事でした」(柿谷氏)

海自艦艇にはさまざまな前職、資格を持つ者たちが集う。その人間の幅が航海を楽しくさせる。そして、ここから"いずも飯"は個別撃破に移行する。


この重要な作戦会議、『献立会議』が秘密裏に行なわれるのだ。

「いずもカレーは一種類ではなく、多種類あるそうです。人気が高い場合、次の週の金曜日に同じカレーを出します。

給養委員長に聞いたところ、若い人に任せて献立を決めているそうです。若い人のほうが、艦を下りてから、外でいろんな物を食べ歩きしている経験と知識があるから、献立の幅も広がるそうです」(柿谷氏)

そして献立が決まり、給養員たちはシップライダーたちを個別撃破するための"いずも飯"を作り始めた。


シップライダーたちの"個別撃破いずも飯"が発射された。第一弾は天ぷらだ。海老魚雷がシップライダーたちの腹に叩き込まれた。

「パラオから参加した警察水上部隊の隊員は、鹿児島、呉に警備艇をもらいに行った際に、天ぷらを食べて、『大好きになった』と言っていました。天ぷらはシップライダーの間でも有名でしたね」(柿谷氏)

日本に来たことのあるシップライダーたちは、すでに日本食の虜になっていた。


"個別撃破いずも飯"の第二弾はうどんかと思ったら、「長崎ちゃんぽん」だった。さすが給養員。意外な攻撃である。

「この献立は『お腹一杯過ぎる』との感想でした。麺とご飯と肉まんですからね。しかし、海曹、海士たちの訓練は、もう本当に常に汗だくで大変なんですよ。エネルギーを大量に使うので、これくらい食べても全然太らないんです」(柿谷氏)

給養員たちは、海自隊員たちの大変さを良く知っている。


元々、海上では日付の感覚が希薄になる。それを防ぎ、艦上で曜日を思い出させるため、慣例的に毎週金曜日に出されるメニューがカレー。これこそ"いずも飯"の最強兵器だ。

「防衛大学校出身の東ティモール海軍のダ・コンサティサオ中尉はこう言っていました。『防大の時から日本のカレーは大好きです。味が懐かしい。さらに、防大の時から海自艦内の食事が一番おいしいことを知っています』と」(柿谷氏)

ダ・コンサティサオ中尉には思い出の味となっている。


一方で、多目的区画ではお菓子コーナーが常設されていた。防衛省から来ている女性職員の3名の出した案らしいのだ。

「お菓子屋さんのごとく、日本のお菓子が並んでいて、自由に取って良かったんです。グミ、ポッキー、チップスター、柿の種とかがありました。

最初は、シップライダーたちも控えめだったんですけど、2日目ぐらいからはバクバク食べてましたね」(柿谷氏)

至れり尽くせりの"いずも飯"だ。


しかし、このおもてなし作戦は横須賀に到着して終わりではない。横須賀の海保を見学したり、厚木基地の海自航空隊の見学がある。そして、その後には浅草、新宿、秋葉原の観光ツアーが設けられていた。

「グアムまで各国から来る航空代も日本持ちです。だから、シップライダーたちがお金を使うのはお土産ぐらいです。これはもう、日本の虜になるでしょうね」(柿谷氏)

取材/柿谷哲也 文/小峯隆生

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