「はやぶさ」「こまち」はなぜ連結して走るのか 欠点を上回る分割併合運転のメリット

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2024年09月28日 09:31  ITmedia ビジネスオンライン

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「はやぶさ」と「こまち」が連結している理由は?

 東北新幹線「はやぶさ」と秋田新幹線「こまち」は、東京〜盛岡間で連結して走行する。同じく、東北新幹線「やまびこ」と山形新幹線「つばさ」も東京〜福島間で連結して走行する。合わせて17両の長い編成で、色の違う列車がつながっている姿はユニークだ。盛岡駅と福島駅で連結、分離する様子も興味深い。まるでロボットアニメの合体分離のようで、子どもたちだけではなく、大人も見入る場面である。


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 2024年9月19日、東北新幹線「はやぶさ6号」と秋田新幹線「こまち6号」が走行中に、期せずして分離した。本来は東京駅まで連結しているはずだった。幸いにも自動的にブレーキが作動して両方とも停車した。「こまち6号」の車掌が非常ブレーキを使ったとも報じられている。本来は連結したままの連結器が外れる異常事態だ。自動ブレーキが万が一作動しなければ追突の恐れもあった。ともあれ、乗員乗客が無事で良かった。事故の原因は調査中とのこと。


●併結運転の利点


 そもそもなぜ「はやぶさ」と「こまち」、「やまびこ」と「つばさ」は連結して走っているのか。そんな疑問をお持ちかもしれない。別々に走れば分離しなかった。しかし、連結して走る理由がいくつかある。


 1つは、東京〜大宮間のダイヤが過密になっているからだ。


 東京〜大宮間は東北新幹線のほか、上越新幹線、北陸新幹線の列車が乗り入れる。時刻表サイトや市販の時刻表は路線ごとに分かれているので、東京駅発車時刻をまとめた。


 上の表は臨時列車の発着枠も含めているから、毎日全ての列車が走るわけではないけれども、最繁忙期は最大でこれだけの列車が発車する。発車時刻がほとんどの時間帯で4分間隔となっている。長距離列車だけの時刻表と思えないほどの過密ダイヤだ。通勤路線の朝ラッシュ時に近い。


 ちなみに東海道新幹線が実現した「のぞみ12本ダイヤ」で1時間当たりの本数は、のぞみ12本、ひかり2本、こだま2本で合計16本。3分間隔の時間帯もある。これは全ての列車が16両編成で同じ性能に統一されているからできた。


 JR東日本は新旧の車両が混在し、加速性能もわずかながら異なる。JR東海の乗り場は6線あるけれど、JR東日本は4線だ。このような環境の差でJR東日本は4分間隔を実現している。素晴らしい運用能力だ。しかし現在の車両や設備では、これが限界といえそうだ。同じ時刻表を見ると、臨時列車のいくつかは上野駅始発となっている。東京駅が混雑しているため、東京駅を発着できない。


 この発着枠の制限があるため、「こまち」「つばさ」を全て単独で運用できない。「つばさ」は単体運用があるけれども「こまち」は常に「はやぶさ」と併結する。併結しているおかげで「こまち」は乗り換えなしで東京〜秋田間を運行できる。


 もう1つの理由は、運転士を効率よく運用できるためだ。「はやぶさ」「こまち」を例にすると、東京〜盛岡間はひとりの運転士が乗務する。仙台駅で交代する場合が多いけれども、「はやぶさ」10両、「こまち」7両を合わせて17両編成をひとりで運転する。「こまち」の運転士は盛岡〜秋田間だけ往復すればいい。


 また需要と供給の調整ができるという利点もある。東北新幹線の場合、東京〜仙台間の需要が最も多く、北へ行くほど乗客が少ない。「はやぶさ」10両編成で十分。あるいは少し足りない。この区間に7両の「こまち」「つばさ」では足りない。そこで、17両編成で東京〜仙台間の需要を吸収しつつ、秋田、山形、新函館北斗方面の列車を分割する。


 時刻表を見ると、途中の駅で分割しないまま、17両編成で運行する列車もある。それだけ需要が大きい時間帯といえる。「やまびこ」「はやぶさ」単体で17両編成の列車を見つけたときは、「こまち」「つばさ」用の車両を選ぶと、普通車でも4列座席になる。車体はひとまわり小さくなるけれども、窮屈な「3列の中央」がない。


●欠点もある


 連結運転は、駅のプラットホームや車両を効率的に運用できるほか、需給調整もできる。利用者は乗り換えなしで目的地に行ける。良いことばかりのようだけれど、欠点もある。


 1つはダイヤが乱れた場合の回復が難しいこと。例えば、東京行きの「こまち」と「はやぶさ」の一方が遅れて、所定の時刻に盛岡駅に到着しなかった場合は、連結にこだわると両方の列車が遅れてしまう。東京駅到着時刻が遅れると、大宮〜東京間を共用している上越新幹線、北陸新幹線のダイヤに影響する。


 数分程度の遅れであれば、連結相手を待たせて連結し、大宮まで少し速度を上げて遅延回復する。しかし運転速度では回復できないほど遅れた場合、東京到着時刻を優先させるならば、遅れた方の列車を盛岡駅で打ち切り、連結相手を先行させる処置も必要だ。せめて大宮駅まで走って打ち切ってほしいけれども、運用上、急に運転士を用意できない。


 「はやぶさ」と「こまち」、「やまびこ」と「つばさ」の連結運転では、「こまち」と「つばさ」の遅延が発生しやすい。原因は天候だ。「こまち」の田沢湖線、「つばさ」の奥羽本線はともに奥羽山脈を越える地点で豪雨、豪雪が起きやすい。この問題を解決するために、田沢湖線、奥羽本線ともに長距離トンネルを新設する計画がある。


 悪天とは無関係の平常時も懸念はある。連結作業の分だけ停車時間が長くなる。連結も解結も自動化されているけれども、「低速で進入し、いったん停止し安全確認」という手順は省略できない。東北新幹線では所要時間が延びるリスクと、乗り換えなしで直通できる利点を比較して、直通を採っているわけだ。


 鉄道では原則として“1つの区間に1つの列車しか存在できない仕組み”になっているけれども、分割、連結するときは2本の列車が存在する。そこで信号設備も特別に用意して、1つのプラットホームに2本の列車が存在できるシステムにする必要がある。これも直通運転のための投資だ。


 2本の列車を1本にすると、運転台は4つになる。同じ車両数で比較すると運転台の分、分割しない編成よりも定員は減る。新幹線は先頭車の鼻が長いため、定員減少が目立つ。「はやぶさ」に使われるE5系電車の中間車は最大定員98人、先頭車(普通車)は最大定員29人で、約70人も減ってしまう。


 サービス面では「乗り間違い」の懸念もある。青森へ行くつもりの乗客が秋田行きに乗ってしまったら困る。これは駅や車内の旅客案内を徹底するだけではなく、ハード面の工夫もある。「はやぶさ」「こまち」、「やまびこ」「つばさ」の車体は明確に色を変えている。「こまち」は「赤」、「つばさ」は「紺とオレンジ」で、「はやぶさ」や「やまびこ」の「ミドリ」と明確に違うようにしている。趣味的には同じ色でそろえたほうがスッキリカッコよくなるけれども、実用性重視である。


 さらに「はやぶさ」と「やまびこ」は1号車から10号車まで、「こまち」と「つばさ」は11号車から17号車としている。「こまち」と「つばさ」を1号車から7号車にすると、連結したときに1号車から7号車まで2両ずつ存在し、乗り間違いの原因になるからだ。また、「はやぶさ」「こまち」「つばさ」は全車指定席になっているから、自由席特急券で乗り間違える心配はない。


●新幹線以外も分割、併合運転は多い


 2つ以上の列車を連結し、途中の駅で切り離して運転する運用は「分割併合運転」と呼ばれている。多数の懸念、欠点、特別投資が必要とはいえ、分割併合運転は古くからあり、現在まで行われている。欧州では1つの列車で客車ごとに行き先が異なり、別の国に行ってしまう例もあるという。


 在来線特急では、寝台特急「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」が東京〜岡山間で連結している。夜間は保守点検が必要なため運行本数を増やせない。かつては東海道線に夜行列車が多かったけれども、現在はその時間帯のほとんどをJR貨物列車に譲っている。


 成田エクスプレスも横浜方面の編成と新宿方面の編成があり、東京駅で連結して成田空港へ向かう。12両編成のうち、6両編成ずつに分割できる編成と、12両分割なしの編成があり、需要に応じて使い分けている。東京から伊豆方面に向かう特急「踊り子」も伊豆急下田行き編成と修善寺行き編成がある。


 このほか、特急「あずさ」「かいじ」と「富士回遊」は大月駅で分割併合する。特急「ひだ」も岐阜で大阪発着編成と名古屋発着編成を分割併合する。JR西日本では特急「きのさき」「はしだて」と「まいづる」、JR四国は特急「南風」と「うずしお」など、JR九州は特急「みどり」と「ハウステンボス」が分割併合運転をしている。


 大手私鉄では小田急電鉄のロマンスカーの「はこね」と「えのしま」の一部の列車が分割併合運転を実施している。定員が減る欠点を補うため、展望席を持たない30000形EXEが開発された。また東京メトロ直通の60000形MSEも分割対応可能で、中間に連結される先頭車は流線型ではなく平面になっている。なお小田急電鉄は、特別料金不要の急行も江の島方面と小田原方面を分割併合していたけれども、現在は双方とも独立して新宿駅へ直通している。所要時間の短縮を優先し、煩雑な作業を減らしたかったようだ。


 これ以上はキリがないので別図に示す。分割併合が広く行われる理由は「はやぶさ」と「こまち」とほぼ同じ。鉄道事業者にとっては効率が良く、乗客にとっても乗り換えなしという利点がある。乗り換えなしは最も魅力的なサービスの1つで、懸念や欠点を大きく上回ることがお分かりいただけるだろう。


(杉山淳一)



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