三笘薫、ドリブラーとしての「特殊能力」を発揮 チェルシーでもやっていけることを証明した

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2024年09月29日 13:11  webスポルティーバ

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 プレミアリーグ第6節。5位チェルシーが7位のブライトンをホームに迎えた一戦は、立ち上がりから華々しい撃ち合いの展開になった。

 いつものように4−3−3の左ウイングで先発した三笘薫が、開始40秒、まず魅せた。CBルイス・ダンク(元イングランド代表)のフィードをハーフウェイライン上のタッチライン際で受けると、右足の細かなボール操作で対峙する相手右SBマロ・ギュスト(フランス代表)をきれいに抜き去り、ライン際を疾走。スタンフォードブリッジのバックスタンドを埋めたチェルシーファンの目の前で、ドリブル&フェイントを挨拶代わりと言わんばかりに、さっそく披露した。

 両チームの関係は"緊密"だ。この日、チェルシーのスタメンを飾った11人のうち、ブライトン経由の選手はGKロベルト・サンチェス、左SBマルク・ククレジャ(ともにスペイン代表)、CBリーヴァイ・コルウィル(イングランド代表)、MFモイセス・カイセド(エクアドル代表)の4人を数えた。コルウィルはレンタルだったが、ブライトンの選手にとってチェルシー行きは出世コースだ。目指すべきチームである。三笘も例外ではない。

 見せ場はその3分後の前半4分にも訪れた。チェルシーの左ウイング、ジェイドン・サンチョ(イングランド代表)の放ったシュートが跳ね返り、そのルーズボールが三笘の前に転がってきた。自軍ハーフウェイライン手前だ。今度は真ん中のルートが空いたと見るや、三笘はトップスピードに乗りドリブルを開始。直線的に突き進んだ。ペナルティエリア手前で、ククレジャの好タックルに屈したが、目を見張るプレーを開始早々から連発。チェルシーで同じポジションを務めるサンチョを上回るのではないかと思わせた。チェルシーでも十分やっていけそうなプレーぶりだった。

 ブライトンに先制点が生まれたのはその直後。発端は三笘のウイングプレーだった。その先を追い越すように走ったペルビス・エストゥピニャン(エクアドル代表)は、三笘から縦パスを受けると最深部に侵入。ゴールライン際からのマイナスの折り返しを送った。そのこぼれ球をジョルジニオ・ルター(元U−21フランス代表)が頭で押し込んだのだった。

【"タッチライン際の魔術師"を超えて】

 試合は立ち上がりから斬るか斬られるかの撃ち合いで、見ていて面白いプレス合戦となった。チェルシー、ブライトンともに好チームだ。

 チェルシーはジョゼ・モウリーニョ時代から、伝統的に攻撃的とは言えないサッカーを展開してきたが、今季から采配を振るエンツォ・マレスカ監督は趣を大きく異にする。イタリア人監督では少数派に属する前ブライトン監督ロベルト・デ・ゼルビ似の攻撃的サッカーを志向する。最終ラインを高く保ち、かつボールを保持したいブライトンに対し、高い位置から奪いに行った。

 チェルシーで大活躍を演じたのは左利きの1トップ下、コール・パーマー(イングランド代表)だった。前半41分までに、流れのなかから2発、FK1発、PK1本を含む計4ゴールを挙げ、あっさり逆転。ブライトンの反撃をカルロス・バレバ(カメルーン代表)の1点に抑え、前半のうちに4−2とした。

 だが三笘の足は鈍らない。見せ場を立て続けに演出した。前半45分、MFマッツ・ウィーファー(オランダ代表)のパスを受けると、寄せてきたチェルシーの右SBギュストをキレッキレのステップで外し、見るものを虜にする。アディショナルタイムに入っても再三、ボールに絡み、48分にはマーカーのギュストに倒され、あわやPKかと疑いたくなるドリブルも見せている。

 三笘のドリブルはこのところ、"タッチライン際の魔術師"の域に留まっていない。この時や、先述の前半4分のドリブルもそうだが、大外だけでなく、真ん中でも突破の可能性を高めている。カットインというより、中央をゴールめがけて直進する迫力溢れるドリブルだ。

 タッチライン際は180度の世界だ。左ウイングなら対峙する相手は右で構えることになる。この関係で相手の逆を突こうと、そのタイミングを探るのだが、他方、真ん中は360度の世界だ。敵は左右、そして前方でも待ち受ける。ドリブルの難易度はグッと上昇する。中央を切り裂くスピードを保ちながら、それぞれの選手の逆を取る緩急のアクションが求められる。

 三笘の場合、下を向かず、十分な視野を保ちながら、それをする。旧型のドリブラーはドリブルを始めると、独自の世界に入り込みがちだ。真ん中のドリブルはなおさらだ。難易度が高いため、ついボールを見てしまうのだ。その分、周囲の自軍選手とのコミュニケーションが取りにくくなる。周囲もそれを見ているだけになりがちだ。だが、そうした心配が三笘の真ん中ドリブルにはない。無謀さは皆無。クレバーさが保たれた縦突破なのだ。

 繰り返すが、これはチェルシーの左ウイング、サンチョにはない武器だ。彼と交代で入ったミハイロ・ムドリク(ウクライナ代表)についても同じことが言える。チェルシーファンの中にも、そうした三笘の特殊能力に気づいた人はいるはずだ。

 チェルシーで左ウイングを張る力が十分にあることを証明した一戦。筆者にはそう見えた。ブライトンは結局、いいサッカーをしながら4−2で敗れたが、三笘は最後まで特別な選手に見えた。ウイングバックではなくウイングで見たい選手だと、あらためて力説しておきたい。

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