6500室を一斉開業 欧州最大ホテルチェーン幹部に聞く「国内リゾート進出の狙い」

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2024年09月29日 15:21  ITmedia ビジネスオンライン

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アコーアジアのガース・シモンズCEO(左)と、アコージャパンのディーン・ダニエルズ社長

 フランス・パリに拠点を置き、110カ国で5700以上のホテルを展開する世界的ホテルチェーン「アコー」。日本では「メルキュール」などのブランドを展開している。このアコーが旧大和リゾートの施設を運営受託する形で4月、22施設・約6500室を「グランドメルキュール」「メルキュール」などにリブランドした。


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 これまで同社は国内では「メルキュール」ブランドを中心に、都市型のシティーホテルを展開してきた。ただ今回リブランドした施設の大半はリゾートホテルであり、これまでのシティーホテルとはコンセプトが異なる。


 4月にリブランドオープンしたホテルの多くは「オールインクルーシブ」プランを提供している。オールインクルーシブとは、宿泊料金に夕朝食料金だけでなく、食事時の飲み物代や、ラウンジでのドリンクやつまみ、菓子なども含んだプランのことだ。


 なぜ、アコーは日本でリゾートホテル運営に乗り出したのか。その狙いを、アコーのアジア支社であるアコーアジアのガース・シモンズCEOと、日本法人のアコージャパン、ディーン・ダニエルズ社長に聞いた。


●地方の魅力を発信し旅行者を分散


――アコーは、これまで日本では「メルキュール」のブランド名で都市型ホテルを中心に展開してきました。それが旧大和リゾートのホテルを運営受託する形でリゾートホテルの運営に身を乗り出した形になります。どういった狙いがあったのでしょうか。


ダニエルズ: これまで当社では、日本で24軒のホテルを展開していたのですが、この多くが都市型のホテルでした。リゾート系のホテルはあまりなかったわけですね。ところが昨今、過去最高の外国人旅行者が日本を訪れるようになり、「オーバーツーリズム」の問題も国内各所で起こっています。こういった問題に対し、地方の魅力をもっと発信し、旅行者を分散したい狙いがありました。


 もちろん、今回リブランドした22施設には以前よりお越しくださっていたお客さまもいますので、今までの国内旅行者も大事にしています。私も日本に来て長いですが、日本の素晴らしさは東京、大阪、京都だけではなく、地方に多くの魅力があります。海外からのインバウンド旅行者に、地方の良さや、世界遺産を通じて、もっと日本の歴史と文化を知ってほしい思いがあります。


――リゾートホテルに進出する過程で、旧大和リゾートの施設をリブランドする形になりました。旧大和リゾートのホテルの分布が、外国人旅行者に新たに観光資源として訴求できる地域に重なっていたということなのでしょうか。


ダニエルズ: そうですね。立地の良さや、働くスタッフがそのまま活躍できる点で旧大和リゾートは適していました。こうした要因に加え、当社でさまざまなマーケティング分析をしていくうちに、旧大和リゾートのリブランドはまたとないチャンスだと思いました。元からの物件や人材のパフォーマンスをより良くしていける確信が、私たちにはあります。


――コロナ禍が明け、過去最高の外国人旅行者が来日しています。コンシューマーだけでなく、アコーのようにホテルチェーンも日本への関心を高めているように思います。なぜ、世界の観光業の中で日本の人気がここまで高まっているのでしょうか。


ダニエルズ: 実はアンケート調査などでは、コロナ禍の時から日本は注目されていました。「コロナ禍が明けたらどこの国に行きたいか」というアンケートを各国で取ると、日本が1位や2位になることが多くありました。ですから、日本市場の可能性は以前からあったと考えます。


 日本の魅力は、清潔感があるところや、食・文化の質の高さにあります。以前はアジア圏の観光客が多い傾向にあり、2019年にさかのぼると中国が全体の3割を占めていました。ところがコロナが明けた今では、中国以外の国からの観光客数が伸びています。特に欧米からの観光客数が倍ほどに増えています。


――人気の理由として、円安の要因はどの程度あるのでしょうか。


ダニエルズ: 円安の要因はもちろんあると思います。しかし先述のアンケート調査の通り、円安になる前から日本の人気は高かったので、円安は副次的な要因だと思います。為替レート以前に、やはり「日本に行きたい」という旅行者の気持ちがまず強いのだと考えています。


●各ブランドをローカルに展開する上での課題


――ガースCEOは、アジア太平洋地域を統括する立場として、この日本の観光市場をどのように見ていますか。


ガース: 日本の観光市場は非常に強いものと思っています。アジア全体で見ても、東南アジアなども含めて観光客数は伸びていて、中でも日本は非常に高いポジションにいます。日本ではインバウンドに目がいきがちですが、日本から海外旅行に行くアウトバウンドも伸びています。


 アジアではインバウンドとアウトバウンド双方が伸びていて、アジア市場の観光需要全体が伸びていくと考えています。


――アジア全体で観光業自体が伸びている要因は、コロナが明けた以外に何があるのでしょうか。


ガース: 経済成長が大きな要因だと思います。例えばインドは、いま世界で最も経済成長が速い国の一つで、観光市場の伸びにも期待しています。日本も円安であることから、アジアの中で価格の安さによって勝負できています。


 欧米も観光地としての魅力は根強いのですが、アジアは観光業界で今後の進展に期待が集まっています。


――アコーは世界110カ国で5700以上のホテルを展開している中で、現地の文化にアジャストしている部分もあると思います。一方フランス・パリを拠点とするホテルブランドとして、現地にブランドを浸透させていく部分もあると思います。このバランスについて、どう考えていますか。


ガース: アコーは、日本で「メルキュール」「グランドメルキュール」を中心に展開し、世界では45以上のブランドがあります。こうした中で、各個別のブランドの強みを浸透させていくことは大きな課題です。メルキュールは日本でも非常に認知度の高いブランドであり、グランドメルキュールはアジア全体でも強いブランドで、注力しています。


 一方で私たちは、ローカルの文化や慣習も大切にしています。やはりブランドを展開する上では、その場所に適したものでなければなりません。各ブランドをローカルに展開していくことで、それがいかにアコー全体の力を強めていけるのかを考えています。


――今回のようなリブランドは、リブランドされた側の従業員にとっても世界的ブランドの一員になれることで、キャリアアップと捉える人も多いようです。リブランドによる従業員教育についてはどのように考えていますか。


ダニエルズ: 実はアコーでは、全員が現場からキャリアアップしていくことで、経営層にも入れる仕組みになっています。かく言う私も、実はベルボーイからキャリアをスタートしました。


ガース: 私はオーストラリア出身なのですが、オーストラリアのホテルでルームサービスとして13歳から働いています。それが今ではアジアのトップになっています。


――海外の企業としては意外にも思われますが、叩き上げの社風なんですね。


ガース: 学校に通いながら皿洗いもしましたし、フィッシュアンドチップスの調理もしました。お酒が飲める年齢になってからは、バーでお酒の提供もしました。現場で働きながらどんどん上がっていったわけです。


ダニエルズ: 私は今でも皿洗いもしますし、レストランのスタッフもやっています。アコーでは、現場の優秀な人材をトップに上げられる仕組みがありますし、そのための育成プログラムも提供しています。働きながら大学や大学院で学位を取れる制度もあります。もちろん、これはリブランドによって、新しく加わる従業員も例外ではありません。 


 オンザジョブトレーニングをしながら、全員がキャリアのステップアップをできる環境がアコーにはあります。日本で働く従業員に対するキャリアパスをきちんと考えていきたいと思っています。


――働きながらMBAなどの学位を取得できるのは素晴らしいと思います。


ダニエルズ: 希望者全員とはいかないのですが、例えば総支配人になりたい従業員がいたら、その人の適性を見ながら学位を取れる制度があります。将来性のある人材に対しては、積極的に育成できるプログラムがあります。


――そう考えると、今回の日本の地方進出によって、企業としても新たな優秀な人材と出会える可能性があるという見方もできますね。


ダニエルズ: 日本にはとても優秀な従業員がたくさんいます。今回のリブランドのプロジェクトが始まり、2023年の7月から8月にかけて、私は全国を回って従業員全員と面談しました。日本法人のトップとして、どういった人材が新たに加わるか知りたかったためです。話をしていて感じたのは、すごく才能を持っている方たちが多いという印象でした。


 地方のホテルですので、地元を離れずに才能を生かしたいという考えの人もいます。しかし中には、単身赴任をしてでもキャリアをアップしたいという志向の人もいました。こうした地域の才能あるキャリア志向の人材と出会えることは、アコー全体の利益にもつながります。


●地域との連携による地方創生


――国際ブランドとなったことで、従業員の英語教育はどうなりましたか。


ダニエルズ: アコーの一員になったことで、普段連絡するメールは全て英語になっています。これも英語教育の一環です。それとは別に、従業員の育成プログラムの中に英語はもちろん入っています。個人の研修時間としても、英語を勉強する機会は設けてあります。


――「メルキュール」のブランド名は、都市部に住む人であれば知名度はありますが、日本全体でみるとまだ途上だと思います。今後どのようにメルキュールブランドを浸透させていきたいですか。


ダニエルズ: メルキュールとグランドメルキュールでは「ローカル」という言葉を使うのですが、やはり旅行者は「ローカル」(地方)を訪れるわけです。メルキュールというホテルがあるから訪れるのではなく、この地域があるから訪れるわけです。ですので、旅行先となる地域との連携は重要視しています。単に一棟のホテルがそこにあるのではダメで、一つのコミュニティーとしてメルキュールがそこになければなりません。


――その点では、例えば山梨県北杜市にある「グランドメルキュール八ヶ岳リゾート&スパ」では北杜市の連携を進めるなど、地方創生的な、地域との連携も大事になってきますね。


ダニエルズ: 自治体の連携は今後も継続していきます。現時点では、北杜市のほかに千葉県南房総市や鳥取県伯耆町は先行して自治体連携を進めています。


 当社の強みは、その地域の魅力を世界に発信できる体制を確立できている点です。しかし、これは自治体やローカルコミュニティーのインプットがなければうまく発信できません。ですので、日本の地域コミュニティーに新たに加わるホテルブランドとして、そして地域の一員として、日本の地域の魅力を世界に発信していきたいと考えています。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



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