時代に逆行してあえて「地方・築古・一戸建て」に着目 社会問題化する「空き家」活用ビジネスが今アツい

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2024年09月30日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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空き家の増加が問題化している(画像はイメージ)

 近年、少子化に核家族化、単身世帯増加などの流れを受けて、多くの一戸建住宅が空き家化しています。2023年現在、日本の空き家は900万戸(国内の住宅総数に占める割合は13.8%)。地域経済の地盤沈下、空き家の管理不在による景観の悪化や防犯上のリスクなどが、社会問題化しています。


【画像】中古住宅がこんなに変わる! 外観、室内、設備類のリフォーム前とリフォーム後を見る(計6枚)


 この時代にあって地方の空き家に着目してリフォーム販売し、グループ合計で年間約7000戸を売り上げ、11年連続全国1位(リフォーム産業新聞調べ)を続けている企業があります。群馬県桐生市に本社を置く、東証プライム上場のカチタスです。


 カチタスは1978年、群馬県桐生市で石材業を営む「やすらぎ」として創業し、1980年代後半から不動産業に進出しています。実は筆者は、不動産業から中古住宅販売を主業に移しつつあったやすらぎ時代に、銀行員として付き合いがありました。


 当時はバブル経済崩壊後の不況が長期化する中で競売物件が多く存在したことから、創業者の須田忠雄氏が独自のビジネスモデルを考案しました。それは、競売物件を安価で仕入れ、それをリフォーム販売することで大きな利幅を得ようというものです。


 しかし競売物件は、その大半が落札前には内部確認ができないことや、ものによっては不法占拠者がいるものもあります。すなわち、落札はしたものの想定以上にリフォームの手間がかかるものや、不法滞在者の立ち退きに思わぬ高額コストがかかる、といった費用的ロスも一定の割合で見込む必要があったのです。


 また、不法占拠者が反社会的勢力関係者のケースもあることから、同社のビジネスにはグレーなイメージもありました。同社は2004年に名古屋セントレックス市場へと上場していますが、希望していた東証では上場が難しかったのには、さまざまな背景があったのだろうと推測できます。


●投資ファンドの下で再出発


 その後、2008年に創業者の持株が投資ファンドへ売却され、2012年にファンドによる実質的なMBOによって上場が廃止となります。そして2013年にカチタスへと社名を改め、中古住宅リフォーム販売会社として再スタートを切ったのでした。


 その際にファンドが経営者としてスカウトしたのが、新井健資現社長です。新井社長は、銀行員、政治家秘書を経て大手コンサルティングファームでコンサルタントとして活躍の後、米国でMBAを取得。帰国後にリクルートで不動産ビジネスに従事するという、幅広いキャリアの持ち主です。


 ファンドがやすらぎを買収し、新井社長をスカウトしたその時点では、数年にわたって売り上げが下降していました。「中古住宅を買い取り、付加価値をつけて再生し、販売していく」、新社名カチタスの由来でもあるビジネスモデルの基本は生かしながら、第2の創業として売り上げを回復させつつ成長軌道を描くことが、新井社長に課されたミッションとなりました。その意味では、銀行出身の企業コンサルタントでMBA取得者であり、かつ不動産業界の現場を熟知して幅広い人脈をもった氏はまさしくその適任と思しき人物であったというわけなのでしょう。


 新井社長の下でカチタスは、競売市場をベースとする物件の仕入れ手法を根本から見直ししました。バブル崩壊後の長期景気低迷が一服し、入札にかかる物件が減ったことが売り上げの減少に大きな影響を及ぼしていたことから、競売物件に頼らない仕入れへとシフトします。


 個人所有の中古住宅は質の優劣差が激しいものの、それまでの豊富な経験から再販売できる物件見極め力とリフォームノウハウを蓄えていたことで、後述する他社にはないスタイルを確立できたことが幸いしました。それにより、仕入れの9割以上を占めていた競売物件をごくわずかにまで減らすことに成功し、売り上げのV字回復が可能になったのです。


●なぜ、マンションではなく戸建てなのか


 この流れを後押ししたのが、冒頭でも触れた地方における空き家問題、すなわち中古住宅の売却ニーズの拡大と、安価な戸建て住宅を求める安定的ニーズの存在でした。都会では高層マンションを筆頭に集合住宅に対する購買ニーズが強いのですが、わが国の大半を占める地方においては依然として戸建て住宅への購買ニーズが強い傾向にあります。しかも日本人の特性として、新築ニーズが特に強いのです。


 そのため、中古住宅の売りはたくさんあるが人気がない、一方で新築物件は人気があるが価格的に高価であり手が出ない――このニーズのミスマッチ解消を可能にしたのが、新生カチタスのビジネスモデルなのです。


 さらに力を発揮したのが、独自ノウハウが詰まっているカチタスのリフォームです。一例を挙げれば、躯体を強化し内装の今風リニューアルを施すのはもとより、万全のシロアリの駆除・予防を施し、隣接地と調整して駐車場まで確保して販売しています。特筆すべきは、リフォームの計画とその進展状況をWeb上で公開していることです。その進行過程をパソコンやスマホで見られ、リフォーム中に物件は販売されているので、着工早期に売買契約すれば壁紙や什器などの色の好みも反映できるのです。


 ここまでかゆいところに手が届いて、大半の物件価格は新築住宅の半額程度だといいます。まさしく「価値を足して再生する」、カチタスという社名の面目躍如といったところでしょう。税金対策で長らく空き家になったままの住宅も多く、そのままでは住めない物件をプロのノウハウでよみがえらせ、安価にキレイで住みやすい戸建て住宅を求めるニーズに応える、カチタスの物件からはそんな姿勢がうかがい知れるのです。


 素人考えでは、中古戸建て住宅よりもマンション・リフォームの方が手っ取り早く、手掛けやすいのではないかと思えてしまうかもしれません。しかし、カチタスは原則マンション・リフォームには手を出していません。その理由を新井社長は、「当社の営業中心地域は人口5万人ほどの都市で、そこにはマンションが少ない。またマンション・リフォームはリスクが少ないために、参入障壁が低く競争上から粗利が小さい」と説明しています。 


●あえて時代の逆「地方・築古・一戸建て」にこだわる


 そしてもう一つ、中古戸建て住宅にこだわる大きな理由があります。「世のためになるかどうか、ということを大切にしている」と新井社長は話しており、自らが「日本の空き家問題を解決する」という社会課題へ正面から取り組むという自社の社会的存在意義を社内で共有しつつ、日々ビジネスに取り組んでいるのです。この姿勢こそが、独自のビジネスモデル成功の大きな原動力になっていると感じます。


 住宅流通が「都市・築浅・マンション」に集中する時代に、あくまで「地方・築古・一戸建て」にこだわり続けるカチタス。その姿勢に共鳴をしたのが家具・インテリア製造販売大手のニトリでした。ニトリは2017年、発行株式の34%相当を取得しカチタスと資本・業務提携を結びました。


 これによりカチタスはニトリ・ホールディングスの持ち分法適用会社となり、提携により内装リフォームなどに一層の磨きがかかる、鬼に金棒状態になったといえます。そして同年、念願の東証一部(現プライム)への上場を果たしました。上場以降はコロナ禍がありながら、実質7年連続で増収増益を続けています(2023年度のみ、対税務当局訴訟関連支出という特殊事情により約10%の減益)。


 一見古くさく思える中古住宅の再生は、その実サステナブルであり、時代の要請にも合致したアップトゥデイトなビジネスといえるでしょう。社会課題に正面から取り組みつつ他社の追随を許さぬ現状からは、自社そのものをリフォームして価値を足したともいえるカチタス。そのサステナブルなビジネスモデルは、不動産販売業界の価値をも足していく存在なのかもしれません。


(大関暁夫)



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