“世界初”クラウドERPはなぜ生まれたのか Oracle NetSuite創業者が明かす

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2024年09月30日 22:21  ITmedia ビジネスオンライン

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Oracle NetSuiteの共同創業者兼エグゼクティブ・バイスプレジデントのエバン・ゴールドバーグ氏

 今やビジネスで当たり前に使われているクラウドサービス。クラウドとはソフトウェアを持たなくても、インターネットを通じて、サービスを必要な時に必要な分だけ利用する考え方だ。このクラウドサービスを1998年という世界で最初期に導入したサービスがある。中小企業向けに展開するERP(企業資源計画)ソフト「Oracle NetSuite(オラクル ネットスイート)」だ。


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 NetSuiteの始まりは1998年。オラクルでエグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるエバン・ゴールドバーグ氏が創業した。当時の社名は「NetSuite」。2016年11月にオラクルがNetSuite社を買収した。


 NetSuiteは当初より中小企業向けERPソフトとして展開している。開始時期は同氏と同じくオラクル出身のマーク・ベニオフ氏が創業したクラウドCRM(顧客関係管理)ソフトで世界トップシェアのセールスフォースよりも早い。創業時からブラウザ上でソフトを稼働させ、NetSuiteは「世界初のクラウドコンピューティングソフト」との評価がある。


 なぜ、インターネット黎明期でもある1998年にクラウドソフトが誕生したのか。どのようにアイデアを思い付いたのか。NetSuite創業者のエバン・ゴールドバーグ氏に聞いた。


●1998年当時からオンプレではなくクラウドで勝負


――1998年にNetSuiteという製品でビジネスを始めた当時、自社で保有し運用するシステムである「オンプレミス」によって実装するソフトが主流でした。なぜ当時からクラウドという発想が可能だったのでしょうか。


 私はオラクル創業者であるラリー・エリソンと、入社当初から仕事をしていました。ラリーは非常に先見の明があったので、彼のほうがどちらかというとクラウドを思いついた人物になります。NetSuiteという社名は「Net」と「Suite」の2つの単語からできています。Suiteは「いくつものシステムを購入することなく、全ての会社がやらなくてはいけない、さまざまなプロセスを1つのシステムで全部やってしまおう」という意味になります。これが私のアイデアですね。


 Netの単語が意味する「そのシステムをクラウドでやりましょう」というアイデアは、どちらかというとラリーが言い始めたことです。クラウドの中でやれば、小さな会社がわざわざソフトウェア、ハードウェア、OSなど複雑なことを自分たちでやらなくても、いろいろな作業が簡単にできます。会社の中心システムは会計システムですので、まずはそこからやってみようという話になったわけですね。


 ラリーは「これからは絶対にクラウドの時代になる」と言っていました。ソフトウェアを物理的にデリバリーするのはこれから何年かの間だけであって、それ以降の少なくとも1000年ぐらいは「ソフトはクラウドになる」と言っていました。現にあれから四半世紀がたち、ラリーの言ったような状況になっていますから、それは正しかったのだと思います。残りの975年がどうなるかは私には分かりませんが(笑)。


――ラリー・エリソンさんが「これからは絶対クラウドだよ」と言った時、ゴールドバーグさんはどのように感じましたか。


 私はその言葉を最初から信じてしまいました。それだけ言葉に重みがあり、信念があったのだと言っていいのかもしれません。私がNetSuiteで実現したかったのは、とにかくダッシュボードなんですね。全てのビジネスのファクターや要因を、目の前の1つのダッシュボードで見ることができれば、絶対にうまく経営することができるという信念を持っていたからです。そしてそれをクラウドでいかに実現するかが課題になりました。


 開発段階では、最初の数カ月間はソフトを買って、それこそオンプレミスでやっていました。それを今度は自分たちの会計システムでやってみて、ダッシュボードを作りました。そして自宅に戻り、自宅のブラウザからそのダッシュボードを表示できた時に、私は「これこそが未来だ」と確信しました。


――なぜゴールドバーグさんは、1つのダッシュボードで可視化することが「経営が絶対にうまくいく」要素だと確信していたのでしょうか。


 起業家や経営者であれば、会社の全体像を見たいという欲求は当然のことです。例えばマーケティングにお金を使ったことがどれぐらい整理できているか。例えば製造業であれば、生産コストやマーケティングコスト、製品を運搬するコストなどの各要素がどのように経営に跳ね返ってきているかを全て見ながら、最適な決定をしていかなければなりません。従って、ダッシュボードは何より重要になります。


 分かりやすい例をもう一つ挙げます。例えば2つの製品があったとして、1つは製造費がとても高い製品、もう1つはマーケティングやディストリビューションのコストが高い製品だったとします。この2つの製品が競合した際に、どちらのほうがより良い製品として売れるのかを見るためには、全体像が見えないといけないと思います。


 かつてはマーケティングや製造など、そういったものは全て別々で、一つにつながってはいませんでした。会計システムを見た時には、例えばマーケティングであればマーケティングだけのデータが1行入っているだけ、製造だったら製造コストのデータが入っているだけといったように、ばらばらで表示していました。ですから、当時の会計ソフトの課題としても、それらが部門ごとにどういった相関性を持っているかを見られなかった問題がありました。これを世界で初めて解決したのが、NetSuiteになります。


――その後、NetSuite社は2016年にオラクルに買収され、事業名も「Oracle NetSuite」になりました。今では世界219の国と地域で、3万8000社以上の顧客、32万4000の子会社や組織で導入されています。特に米国ではスタンダードになっているERPです。


 3万8000社以上に上る顧客のうち、半数以上が米国の企業になります。このように全世界でNetSuiteの導入が進んでいるのは、簡単にすぐに使えるソリューションであったことが大きく影響していると思います。例えば、現地の地場のシステムを利用していたとしても、不必要な機能が入りすぎていて、実装コストが高くなり、導入コストがその分余計に高くなる問題がありました。


 こうした中小の経営者の課題に対し、NetSuiteはカスタマイズして導入できるため、この点が特に受け入れられたと考えています。NetSuiteでは日本をはじめ、世界各地で、現地の商流に合わせた機能も展開しています。導入コストも廉価に提供できていると考えています。この点が世界中の企業で導入が進んでいる要因だと思っています。


――日本ではDXの格差もあり、ERPを導入していない中小企業もまだ珍しくありません。NetSuiteをはじめとするERPを、企業が導入しないことによるデメリットをゴールドバーグさんはどのように考えていますか。


 ERPを活用しないことで、収益性を伴う企業の成長速度が損なわれるリスクが高まると考えています。例えばERPパッケージではない、より中小企業向けのソフトを活用して、手作業中心で業務を進めようとすると、ビジネスが拡大にするにつれて非効率性が出てきてしまいます。


 例えばeコマースの企業の場合、最初のうちはリターンも小さく、またビジネスの規模も小さいため、マニュアルの小さなシステムでも対応できると思います。ところがビジネスが拡大し、リターンも大きくなるにつれて、それなりのシステムが必要になってきますね。


 そうなると、自社のプロダクトやサービスを考えた際、システムが古いままではビジネスの速度も遅く、社員や顧客のフラストレーションも溜まる弊害が起こります。手作業のプロセスを従業員にやらせることも好ましくありません。その分、人材の無駄になります。


 こうしたマニュアルの手作業を省力化することによって、従業員にはその分クリエイティブなことをやってほしいと思います。こうしたDXを進めることで、企業はより成長し続けられると確信しています。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



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