英UCLや米UC Davisなどに所属する研究者らが発表した論文「Watching TV with the Second-Party: A First Look at Automatic Content Recognition Tracking in Smart TVs」は、スマートTVにおいて、視聴者の見ているコンテンツのスクリーンショット(フレームキャプチャー)を1秒間に複数回撮影していることが明らかになった研究報告である。この行為は、ユーザーがラップトップやゲーム機をTVに接続して外部ディスプレイとして使用している際にも行われている。
スマートTVの普及に伴い、視聴者の視聴行動を追跡する技術も進化している。その中で特に注目されているのが、自動コンテンツ認識(ACR)技術だ。ACRは、TVの画面に表示されているコンテンツを定期的にキャプチャーし、そのデータをサーバに送信して、視聴者が何を見ているかを特定する仕組みである。
この技術の実態を明らかにするため、研究者たちはSamsungとLGという2大スマートTVブランドを対象に、英国と米国の2カ国で詳細な実験を行った。
具体的には、6つの主要なシナリオを設定した。まず「アイドル」状態、つまりTVの電源は入っているがホーム画面のままの状態。次に「リニア」視聴、これは従来の地上波放送を見る状況。
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「FAST」は、TVメーカーが提供する無料広告支援型ストリーミングサービスの視聴を指す。「OTT」は、NetflixやYouTubeなどの外部ストリーミングサービスの使用。「HDMI」は、ゲーム機やPCなどの外部機器をHDMI接続して使用する状況。そして「スクリーンキャスト」は、スマートフォンなどの画面をTVにミラーリングする使用法である。
さらに、各シナリオで4つの異なる設定を試した。ユーザーアカウントにログインしている状態とログアウトしている状態、そしてACRを含む広告トラッキングにオプトインした状態とオプトアウトした状態の組み合わせ。実験では、TVとACRサーバ間のネットワークトラフィックを詳細に分析した。
実験の結果、Samsungは500ミリ秒ごと、LGは10ミリ秒ごとにスクリーンショットを撮影していた。またSamsungは1分ごと、LGは15秒ごとにバッチ処理でデータを送信していることが分かった。
次に、リニアTV視聴とHDMI接続時に、ACRトラフィックが最も活発だったことが判明。これは、TVが外部ディスプレイとして使用される場合でも、視聴内容が追跡される可能性を示している。
一方、OTTアプリ使用時にはACRトラフィックが大幅に減少した。これは、NetflixやYouTubeなどのサービスが、著作権の問題や自社のユーザーデータを保護するためにACRの使用を制限している可能性を示唆している。
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興味深いのは、ユーザーのログイン状態がACRトラフィックにほとんど影響を与えなかったことだ。これは、ACRがユーザーアカウントではなく、デバイスIDや広告IDを用いて追跡を行っている可能性を示唆している。
プライバシー設定の効果も確認できた。ユーザーがACR関連の設定をオプトアウトすると、ACR関連のネットワークトラフィックは完全に停止した。これは、少なくとも技術的にはプライバシー設定が機能していることを示している。
これらの結果は、スマートTVにおけるACR技術の実態を詳細に明らかにした。オプトアウト機能が効果的に働いていることは肯定的に評価できる一方で、HDMIなど外部入力時にもACRが機能していることは、多くのユーザーにとって予想外かもしれない。
Source and Image Credits: Anselmi, Gianluca, et al. “Watching TV with the Second-Party: A First Look at Automatic Content Recognition Tracking in Smart TVs.” arXiv preprint arXiv:2409.06203(2024).
※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2
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