人から口を酸っぱくして言われたことよりも、物語とビジュアル=漫画で伝えられた方が頭に残ることは珍しくない。9月上旬にXに投稿された『トゥースクール』は、「歯」が通う学校というシュールな設定で笑えるシーンが多いものの、後半には衝撃的な展開が待っており「毎日歯をしっかり磨かなければ」と考えさせられる作品だ。
(参考:漫画『トゥースクール』を読む)
歯の妖精たちが通う学校「トゥースクール」。真っ白で健康的な歯・右上5番は、トゥースクールのマドンナ·クリニカちゃんから、翌日の朝に話をしたいとお誘いを受ける。しかし、ドキドキしながら当日を迎えた右上5番の前に現れたのは、頭部が黒く変色した“かつてクリニカちゃんだったもの”で――。
本作を手掛けたのは、幼少期から絵を描いて親から「上手だね」と褒めてもらうことに喜びを覚える“承認欲求の化け物”だったと振り返り、現在も自身の作品にコメントが寄せられると大喜びしているというチャーハンさん(@tukurimasuyo)。現在は美大に通い、講義の合間を縫って漫画を制作していると話す。疾走感がたまらない本作をどのように描いたのかなど話を聞いた。(望月悠木)
■高校生時代に手がけた作品
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――今回『トゥースクール』を制作した経緯は?
チャーハン:実は高校2年生の時、「“歯”をテーマに何を作っても良い」という内容の課題で制作した作品です。当時漫画制作にのめり込んでいたのですが、創作漫画は描いた経験がなく、「せっかくなので制作しよう」と思って取りかかりました。
――ファンタジーあり、ホラーありという世界観でしたね。
チャーハン:耳障りな音、迫ってくる器具など、歯医者さんに恐怖感を覚えている人は多いです。そこで「歯医者さんの怖さをホラーに使おう」と思い、そこを頼りに世界観を構築していきました。ただ、それでは歯医者さんに行くことがデメリットのように感じられてしまうため、それを上回る虫歯の恐ろしさを最後に描きました。
――だから後半に急にホラー要素が出てきたのですね。
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チャーハン:はい。また、私が考える漫画制作に絶対欠かせないことの1つとして“意外性”があります。「どこに意外性を入れようか」と悩んだ時に思いついたことが“歯が主人公の漫画”でした。とはいえ、「可愛い女性やイケメン男性が登場しない漫画なんて誰が読むのか」「それならさらに上回る意外性を取り入れてやろう」と考えた結果、ホラー要素を入れました。このこともホラー要素を出した理由です。
■「クリニカちゃん」の名付け親は?
――登場人物もとい登場歯はどのように作り上げましたか?
チャーハン:基本的には登場人物は完全に私の好みで作り上げました。ただ、「物語が進むにつれて感情の振れ幅が大きくなってキャラ崩壊したほうが逆に怖さが増すかも」と考え、「それなら主人公の歯はできるだけ普通の歯にしたい」と思って主人公は作りました。
――「右上5番」「左下7番」という呼称も面白かったです。
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チャーハン:これは本当にお恥ずかしいのですが、当時はネーミングセンスが全くなかったです(笑)。「歯科検診の際に先生が助手にそんなことを言っていたな」とおぼろげな記憶を頼りに名前を決めました。ちなみに、クリニカちゃんは友達につけてもらった名前です。今思えば「右上5番」「左下7番」という名前にしたおかげで、クリニカちゃんをマドンナ的存在として差別化できたと思います。友達には感謝するばかりです。
――疾走感のある作画にも何度も笑わせられました。作画で意識したことは?
チャーハン:私は『うしおととら』(小学館)などの作者・藤田和日郎先生をとてもリスペクトしています。藤田先生は「そうすることによって迫力や疾走感が出る」という理由から、ネームを軽く書いてほぼ1発描きの状態で清書するらしいです。その話を聞いてから、漫画を描く際はいつもそのことを意識しています。
――豆知識がところどころ入っていますが、本作を制作するうえで歯について勉強したのですか?
チャーハン:そうですね。「実際に調べて、見て描くことで、どんな世界観でも説得力が生まれる」と高校の課題をやる時はいつも言われていたので。また、ドリルや歯の形なども画像検索して模写してからイラストに落とし込みました。
――最後に今後の漫画制作における目標を教えてください。
チャーハン:“聖地巡礼したくなる漫画”を制作することです。大学で地域活性化問題について興味を持ち、「その地域の伝統や歴史、実際にある建物、人物を周知するために漫画という媒体を活用できれば」と考えるようになり、「現在住んでいる地域が、お寺や妖怪などの歴史が深く、それらを使ってホラー漫画×戦闘漫画に落とし込めたら良いな」と思っています。
(望月悠木)
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